
公休四回分も拗ねてたんだと今更思った。
仲直りのデートをやっと取り付けて、取り敢えずはホッと胸を撫で下ろした。
分かってはいたけど、やっぱり恥ずかしさを拭えないから、それを自分で消化できないうちはどうに
も前に進めなかった。
郁は二人で過ごせる部屋を近くに借りたかった。
そんな簡単な理由だけど、甘い考えだったと切り捨てられるほどに、アッサリと拒絶されてしまえば、
もう気持の持って行き場が無くて、ただただ恥ずかしさが込み上げてくる。
自分だけが夢見て、舞い上がっていただけ?
堂上に現実を突き付けられて、恥ずかしさからやっぱり拗ねらずにはどうにもいたたまれなかった。
でもそれも、対外的には全部堂上が全部自分のせいだと被ってくれた。
だから本当に郁自身の我儘。
解決する糸口すら、「もういいです」で封じてしまっていて、堂上は手も足も出せない。
郁が自分で前に進まなければ、堂上は郁の機嫌が治まるまで、ひたすら待つだけで何も出来ずに
いるのだ。
柴崎も手塚も、そして小牧も、みんな郁にどうにかならないのかと進言してきた。
それって、やっぱり堂上はどうすることも出来ずにいるということを物語っている。
鍵は郁が握っていると、そう言われているのだと、分かるんだけど・・。
それでも、恥ずかしさから抜け出るまではどうにもならなかったのが、公休四回分になったのだ。
だから自分で折り合いをつけて、メールで次の公休のデートを誘った。
あとはきっと、なるようになるだけ・・。
多少の不安はこの際どうしようもないので、考えない。
考えれば、頭が真っ白になるだけだ。
でも、思ってしまう。
確かに現実的に考えたら堂上の言うとおりなわけで。
業務部や防衛部の人達と比べてみても、外で一緒に居る時間を考えたら部屋を借りる費用は無駄
だと思われても仕方が無い。
それでも、少しでも二人の甘い時間を誰に邪魔されるでもなく、一緒に居られる場所があったらいい
なって思ったっていいじゃない。
思わない方がおかしいんじゃないかと思うほどに。
堂上教官は、そんなふうに思ってはくれてないのかな・・
そう思うと、やっぱり拗ねてしまうわけで。
まさか気持ちまでは疑わないけれど・・。
気まずい分だけ、わざと一五分遅れて待ち合わせの場所に行く。
そして行先はあの日の続きと言わんばかりのコースを辿り、
「・・この前は言い方を間違えた。すまん」
来るとは思っていたけれど、実際謝られると自分が辛い。
だって、恥ずかしくて拗ねていたのは、誰でもなく郁自身なのだから。
声も出せずに、内心では悲鳴を上げ、もう言わなくていいですからーーと首をぶんぶん横に振った。
一応、予測はついたから、どう対応するかは考えてきた。
もう、無かった事に、これ以上言わないで下さいと、そうお願いするだけだ。
それなのに、堂上はどんどん話を進めていく。
チラシをだして、本当に現実的な話をする。
まるでこれからその物件がどんなものかを見に行くのかと思うくらいに。
敷金から礼金から家賃から・・揃える物品の話まで。
夢見がちなだけだった自分と違って、この人はなんだってこんな、スゴイと思ってしまう。
自分はそんな金額の算段など、そこまでは考えてはいなかった。
でも、もういい!
だから分かったから・・・
恥ずかしい事がどんどん上書きされていって、いたたまれなくなってくる。
もう、トドメ?そう思ったからそう言った。
「・・だからもう分かったって言ってるのに、トドメですか?」
そしたら、思いがけない言葉が降って来た。
えっ?今なんて?ウソ・・それって・・
部屋を借りるのは折半だからと思ってそんな話をだしたのに・・
堂上はその上を、楽々と行ってくる。
素直に、頷くことすら忘れて、余計な事ばかり言ってしまう自分もヘンなんだけど。
だって余りにも唐突過ぎだし。
「じゃあこれは俺からの『提案』だ。俺から婚約指輪を受け取って俺と結婚する気はあるのか」
「あ、あります!」
頭はもう真白だった。
返事はほとんど反射で返す。
断る理由も無い。
そして、指環を見に行くことになるなんて。
まだ先かなあ・・と思っていた。
堂上となら、いつかはそうなったら・・と思っていた。
それが、こんな突然に。
これこそ夢を見ているようで。現実?本当に?
訳が分からないまま、手を握られるままに店を出た。
郁が部屋を借りたいって言いださなかったら、まだこんな話にならなかったのかもしれない。
でも、堂上がそこまでちゃんと考えてくれる人だからこそ、ついて行ける。
この人ならこの先ずっと。
ごっこ遊びでは無くて、ちゃんとした二人の未来を考えてくれる。
久々のデートは郁が思い描いていた仲直りの数段も上を行っていた。
もしかしたら、そう言う流れになったらお泊まりもあるかも・・くらいしか思ってなかった郁は、最初っ
からいいように堂上のペースだった。
それも、夢見心地の幸せなそれは、これからの二人の結婚だった。
指環を下見して、幸せな気分のままに自然の流れで久々に夜を一緒に過ごした。
「悪かったな。俺は若い奴等みたいな部屋を借りてとかじゃなくて、そうなる時は一緒になる時だと
思っていたんだ」
「私こそ、長々と拗ねててごめんなさい」
「ホントだぞ。こんなことはもうごめんだな。胃が痛くなる」
バカだな。そう言って笑うと堂上は、いつものように頭に手をポンと乗せるとクシャクシャと撫でた。
*
戸惑った思考が戻って来たのは、公休四回分の後にやっと実現した夢のようなデートから帰って
きてからだった。
女子寮の自室のドアを開けると柴崎はまだ帰っていなかった。
ふうーっと肩で息を吐く。
きっと柴崎は「どうだった?」っていろいろ根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。
外泊なんてとても・・って言ってたのに夜帰らなかったから、ちゃんと仲直り出来ただろうと、そこま
では推測しているんだろうけれど。
さて、どう切り出したらいいのかと、困ったな と呟いているくせに顔はほころんでしまう。
そう。結婚するんだ、私達。
きゃあ―― 誰も見ていないのに、一人で赤くなって思い出す。
プロポーズって、あれかな・・
ふと、そう言えば・・と昨日の事を思い返してみる。
何だか思い描いていたようなシチュエーションでは無かったのは、自分が部屋の事でこだわってし
まっていたからだ。
なんで素直に「はい」とか言えないのかな私は――
ひゃあ、と頬に手を当てて頭をぶんぶん振る。
プロポーズを「提案」とか、そんな風に言い返させた自分に焦る。
そう言えばその後、ホテルでもう一度、ちゃんと言いなおしてくれた堂上はやっぱり優しい。
こんな私をお嫁さんにしてくれる。
思えばずーっと背中を追っていた。
そして、さかのぼればあの出会いから。
郁は自分の手をジッと見つめてみた。
フッと頬が緩む。
何だか小指に赤い糸が見えた気がした。
fin.
まあ、きっと公休四回分溜まったあとの久々デートで結婚まで決まっちゃったら
あとはなるようになるんだろー、久々の夜は燃えたろうなぁー(^_^)
で、帰ってきたらきっと柴崎に追及されるんだよね。
強い酒ちょうだい ってまた言われたのかも(笑)
て、事で、55555カウント記念に♪