武蔵野劇団 節分小劇場

新しい年が明け、触れないでいた案件を玄田隊長から言い渡され、ついに来たか・・ と、堂上は肩
を落とした。

それは――
年中行事にもなっている『武蔵野第一図書館のイベント』

その中で行われる催し物の一つである、タスクフォース主催の演劇は、ここのところイベントの中心
を担うほどの人気振りをみせている。
しかも、堂上班が受け持った劇が大好評で、それならばこのメンバーでと、ついに『武蔵野劇団』な
るものが発足する事になったのは去年の事だ。

堂上としては、それは去年だけの話だろう と、無理やり思い込もうとしていたところがあった。
今年は、もしかしたら次の別班にバトンタッチ出来るかもしれないと、少しの期待は持っていた。
しかし回数を重ねる度に定着してしまったのか、個々にファンも現れ、もう堂上班以外では観客が許
さないのでは?と思えるほどになっている事も薄々感じてはいた。

なので、出来るだけ話が出そうになるとはぐらかし、その話には極力触れないでいた堂上だった。

それが先日、さも当たり前の事のように玄田隊長から
「次は節分だ」
と、言い渡された。
それに関しての意見も言ってみたが、玄田はまるで鼻にも掛けない。
アッサリと受け流されて、豪快に笑われるだけだった。


そして今日、更にガックリと肩を落とす事になる。
タスクフォース事務室の掲示板に 『節分公演キャスト』 と書かれた張り紙。

 いよいよか――

玄田はいろいろ言っていたが、それでも堂上は節分と王子様は無関係とたかをくくっていた。
それがだ。

 『一寸法師の鬼退治』

堂上は題名を見ただけで、なんとも嫌な汗が出る。
自分には関係ないだろう・・と言う思いは、一寸法師の字を見た瞬間に吹き飛んだ。
そうだろう。小さい人という事を言いたいに違いない。中身まで見ずとも、全てを理解する。
きっと 一寸法師=どこかの国の王子様 とでもなっているのだろう。
その役どころもまた、俺に違いない。

そして・・嫌な予感は的中する。

ガックリと項垂れていると、不意に背中を叩かれ、振り返ると小牧が立っていた。
「いよいよ決まったね。大丈夫?顔色悪いよ」
堂上を見つけてからかおうとでも思っていたようだったが、堂上の落胆振りに驚いたようだった。

「いや、大丈夫だ」
「そお?・・まあいいや。とにかく節分まで時間無いし、やるしかないよね」
小牧の当たり前の正論に、少し不貞腐れていた堂上はハッとしてコクンと頷いた。

 とにかく台本だな――

貼り出された紙の最後に「台本は今日の初練習にて手渡し・・」の項目に目をやった。
いったいどんな内容なんだか。
どうやら台本は玄田の口利きで、折口の知り合いのライター数名が手掛けているらしいと最近知っ
た。
今回もかなりの自信作なんだと玄田が豪語していたのだが、一抹の不安は消えない。

そもそも、演じる事は苦手だ。
しかし・・・

そして今一度キャストの書かれている張り紙を見る。
女性が郁だけなので当たり前と言ってしまえばそれまでだが、やはりお姫様役には「笠原」と書か
れているのをジッと見つめた。


 **

いつもと変わらず勤務を続けながら、堂上班中心とした「劇団」のメンバーは課業後の練習に汗を
流す。
出番の有、無しもあるが、勤務の都合上なかなかメンバーが揃うのも難しく、当日までに全員での
通しの練習は出来ずに本番を迎えることになる。
正月が明けてから、節分まで時間が少なかった事は否めない。


互いが不安を抱きながら、暦で言う「節分」の当日。
今回は「熊は止めて下さい」と全館員からの強い要望で、しかも一寸法師には熊は全く関係ないの
で、玄田は仕方なく熊の着ぐるみを箱にしまう事にした。
あわよくば着て出ても・・と思っていたのだが、どうやらそう言うワケにはいかないようだ。

そんなこんなで、昼間の業務も終わり、いよいよ開演の時間が来る。

今回は平日と言う事もあり、会場も前回よりは小さめに設定されていたが、蓋を開けてみれば大盛
況で、立ち見が出るほどだ。
そんな様子を見て、玄田は満足そうに笑った。次もイケルナ、これは、ガハハハハ!!

劇は少ない練習の不安など感じさせないほどの出来栄えで、たまにはトチッたりするのがかえって
会場の場にウケるようで、評価としては上々だ。
特に堂上の「一寸法師」と手塚の「家来」という設定が会場を笑わせる。
それをフォローする(と言った内容は台本には無いようだったが)小牧が滑稽に見えて、今までの小
牧に無い味を出していたようで、3人が揃って何だかお笑いのトリオのようになって爆笑を誘ってい
た。

郁に至っては、打ち出の小槌で一寸法師を大きくするのに本当に堂上を思いっきり叩いてしまい、
「アホウ!痛いだろう!」
「きゃあー、す・すいませんっ!」
などと、素の会話になり、笑いのツボに入った会場は最後までシリアスな場面も大笑いで終わると
いった展開になっていた。

熊で登場が出来なかった玄田も、鬼の役をしっかりこなし・・と言うか、一寸法師の堂上では無くて、
観客を襲うといった暴挙に出て、やはり観客の子供達にやられまくりで、笑いを誘っていた。

最後に二人は無事結婚し、めでたしめでたしで終わる場面も、シリアスとはほど遠い感じで終わる。
それがかえって観客にウケたようで、最後は拍手が鳴りやまないといったほどだった。

しかも幕が下りる時には、今までには無い歓声が響いていた。
「きゃあー堂上さーん」
とか?何とか?(笑)

それを聞いた堂上が物凄く眉間に皺を寄せていたのを、その場にいた郁と手塚と小牧だけはしっか
りと見ていた。
そして三人、顔を見合せて笑ってしまったというのも堂上班だけの内緒のことだった。
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