
クリスマス公演がまたまた大成功に終わった武蔵野劇団。
武蔵野第一図書館に設置されたお客様の声の箱には、今回の感想やらお礼、次の公演への期待
の言葉が多く集まっていた。
それを見て玄田の顔は緩みっぱなしだ。
「こりゃ、次もやらにゃならんな。そんなに熊が見たいか」
ガハハハと高笑いが隊長室に響く。
その声を聞いて、困った顔になるのは決まって堂上班。
武蔵野劇団は堂上班中心だということは、今やタスクフォークでは当たり前になってしまっていた。
が、そもそも堂上班が演じる前は、各班の持ち回りだった筈だ。
それが・・・
全てはお客様第一。
声の箱に届いた多くの声に、玄田が便乗したことから始まる。
そして――
流石にクリスマス後すぐに、新年公演では、無理があり過ぎるので、次なる玄田の思惑は図書館
行事にもなっている『節分』。
これに乗っけようという算段だった。
「隊長の高笑い聞いてると、何だか背筋がゾクッとするんだけど」
郁は隣の席の手塚にコソリと耳打ちする。
「俺はお前以上にゾクッとしてる」
返して来た手塚を見ると、プチ堂上を思わせるほどの眉間の皺だ。
「いい加減、堂上班お役目御免にならないのか・・」
肩を落とす手塚に、だよね・・ と、他に何も声が掛けられない郁だ。
相手があの隊長では、意見を言っても無駄なのは、二人とも重々承知の上の事。
流石の堂上でさえ、玄田の決定事項には楯ついたところで聞き流されるのだから、郁や手塚がどう
騒いでも蚊の鳴く声ほどにしか聞こえない。
一撃でつぶされて、ハイそれまでよー。である。
郁が後ろを振り返れば、クックッと笑う小牧が見え、堂上が手塚同様、肩をワナワナと震わせていた。
「意見してくる」
そう言って立ち上がった堂上に 無駄だと思うけど? と小牧の上戸の入った声。
後姿だから顔は見えないが、かなりの眉間の皺なんだろう。
心配顔の郁に気付いた小牧は、
「班長の王子様姿、結構いけると思うんだけどな。ね、笠原さん」
と、クスッと笑う。
「・・なっ!小牧。何バカな事を言ってんだ!笠原!お前もヘンなこと言うんじゃないぞ!」
「何慌ててんの、班長」
「ええーっ!私、まだ何も言ってませんっ!」
そんな堂上班のちょっとした諍い(いさかい)に気付いた玄田が隊長室から顔を覗かせ、
「何、諍ってんだ、お前ら」
と怪訝そうに言う。
その声に反応するのは、やはり堂上班で。
一斉に声のする方を見る。
「いえ、何でもありません」
少し険のある声で堂上が応え、それより―― と、劇団の存続について意見をし始めた。
腕を組んで聞いていた玄田は全く動じない。
「まあ、そんなにムキになるな」
そう言ってニヤリと笑うと 客の声に応えるのも我々の仕事だろう とガハハハと大きく笑った。
ほらね と上戸の止まらない小牧に突かれ、堂上はストンと椅子に座った。
そして、玄田を恨めしそうに睨むと、
「もしかして公演の話が決まったんですか?」
力無く吐き捨てた。
「何だ、堂上。そんなに王子役が嫌か?観客から、お前の王子様を見たいと言う声が一番多いんだ
ぞ。笠原相手じゃ役不足とか言うんじゃないだろうな」
いかにも楽しんでる風な玄田にまんまと乗せられて、しかも郁が役不足と言われて、いいように堂上
は舞い上がった。
「そんな事、誰も言ってないでしょうが!笠原は立派にこなしてるじゃないですか」
「だったら、何も問題は無いな」
「・・・」
息をのんで成り行きを見守っていた郁は、いきなり自分の名前が出てきて、しかも堂上が自分を肯
定する意見を言うので目を見張った。
教官は私がお姫様でもいいのかな――
小さな胸がキュンとなる。
少しは教官も私の事、気に掛けててくれてるんだろうか。
「決まってから発表するつもりだったんだか、丁度いいだろう」
玄田はニンマリと笑うと
「次は『節分』だ。台本ももう直ぐ出来あがってくる。楽しみだろう、なあ堂上」
そう言って満足そうにガハハハと笑った。
『節分』と聞いて堂上は思いつくモノに頭を巡らせた。
節分だったら、王子役は必要無いかもしれない。
ところが玄田は、堂上のそんな想いを見透かしたように
「今回は更に手作り感のある内容だ。まあ、話の元はあるがな」
そう言った。
節分で王子?嫌な予感が堂上の頭を過る。
そんな堂上の怪訝な顔を見て、玄田は更に豪快に笑った。
**
数日後。
『武蔵野劇団、次回公演予定』
と銘打った手描きのポスターが掲示板に貼られた。
― 今年も大いに豆をまいて嫌な事を追い払おう ―
楽しい劇団の公演もあります。
今回はオリジナル脚本。王子様は無事鬼からお姫様を救えるのでしょうか。
なる注釈が書かれていた。
「隊長!いったいこれはどう言う事ですか!」
それを見た堂上が玄田に詰め寄って、小牧の上戸を誘ってしまったのは言うまでもない。
「堂上二正、ご愁傷様です」
そう呟いた手塚も
「でもまだキャストは発表されてないよ」
と、小牧に突っ込まれ真っ青になった。