ラブレター

図書特殊部隊の事務室に、当たり前のように柴崎が郵便物を持ってやってきていた。
「今日の分は、これです。えーと。はい、小牧教官」
「ああ、ありがとう」
ニッコリと微笑みながら、柴崎は小牧に一通の封書を渡した。

郁はこっちこっちと、柴崎を手招きする。
「ねえ、誰から?」
「何が?」
分かっているくせに柴崎は焦らす事で郁を構って面白がる。
「小牧教官宛の手紙よ。だってアレ可愛い封筒だったでしょ。最近よく来てるよね」
似合わないと言う割には、そんな小さな可愛い物にも気がいってしまう郁に、相変わらず乙女よねー
と柴崎は笑う。
「だから乙女言うなー!」
「ごめん、ごめん。」
「ねえ、あれってラブレターかな?」
「どうかしらねぇ」
「あのさ、毬江ちゃん知らないんだよね」
「さあねぇー」
「ラブレターだけならいいけどさ、本人が現れたりしたら・・」
うっわー、それって修羅場? ひえー 郁は一人妄想を働かせて騒ぎ始める。
「バカねえ。小牧教官に限って、そんなことは無いでしょ。あんたじゃないんだから」
「ちょ、なにそれ」
膨れる郁に柴崎は
「堂上教官宛だったら、あんた大パニックよね」
ニッコリ微笑んでそう言うと、。
「俺がどうかしたのか?」
自分の名前を聞きつけて堂上が口を挟んで来た。
「いえいえ。気のせいです。堂上教官の事は一言も言ってませんから!」
慌てて郁が手をぶんぶんと振りながら答える傍で、柴崎は今にも噴き出しそうだ。
「うー、悪魔だー」
郁が恨みがましく睨むと、
「あら?天使の微笑みと言ってちょうだい」
柴崎は、オホホホホ―― とわざとらしい。
すっかり柴崎に構われて、いつの間にか小牧の話がなんだったか分からなくなった頃、
「あら、もうこんな時間。戻らなくっちゃ」
柴崎はそそくさと本来の業務に戻って行った。

「俺達も館内警備交替の時間だぞ」
今日のバディは手塚だ。
「ホントにもう。言いたい事全部言ったらさっさと行っちゃうんだからねー。何しに来てるんだか」
郁は閲覧室を歩きながらそう言うと
「全くだな」
手塚も呆れたように呟いた。
「で?今日は何言いに来たんだ?」
「うん」
郁は辺りを見回して、声を潜めて
「また小牧教官宛にラブレターが来てたの!」
それを聞いて、手塚も自分達の周りを窺った。
「これ、毬江ちゃんに知られたらマズイだろ」
「でしょ?だよねー。小牧教官どうするんだろ。やっぱ、修羅場だよねえ」
「お前はバカか?」
「なんでよー」
あんたまるで、柴崎とおんなじ事言うなー! とプンプンする。
「声でかいぞ。ここ閲覧室だぞ」
手塚に指摘され、郁は慌ててあたりを窺った。
毬江ちゃんは居ないよね?

誰も居ないとそう思っていたのに、ちょっと声が大きくなってしまったその話を、たまたま毬江の同級
生が聞きかじってしまった。
内容は良く分からないが・・どうやら中沢さんと仲良しの小牧さんが、中沢さんに聞かれてはまずい
事になっているらしい――ことだと解釈する。
男って所詮そうよね。
年頃の一途な女の子は、ちゃらんぽらんな男性が許せない。
そして、尾ひれがついて、話はさらに酷い・・と言う事になっていく。


それが毬江の知る所になるには、さほど時間は掛からなかった。
「まさか――」
そんなハズは無いから・・と、毬江は、以前にもらった今は毎日首に掛けている銀色のホイッスルを
ギュッと握った。
「中澤さん、気をつけた方がいいわよ。そもそも十歳も年上なんでしょ。うちらみたいなのは子供過ぎ
て大人の女性に目が行っちゃうんじゃないの?」

そんな事は無い。だってあの時『もう子供には見えないから困ってるよ』と言った小牧の言葉には嘘
はないと思うから。
でも・・。もう小牧に三度失恋している事実が頭をもたげる。

毬江が押し黙っているのをいいことに、女友達は好き勝手に小牧を罵ったり、要らない忠告をして毬
江を憐れんでいる。
それはまるで、自分達が優位に立っているかのような威圧感さえあって、小牧と付き合っている事す
ら否定されて毬江は居たたまれなかった。

 なんでこんな人達に小牧さんがこんなことまで言われなきゃならないの――

「ごめんね・・」
謝る事は無いのに、毬江はそう言って俯いてホイッスルを握りしめながら、その場から逃げるように
立ち去った。


  **

『この前言ってた続きの巻が戻って来たよ』
小牧はいつものように、何気ないメールを毬江に送る。
なのに、直ぐ来るハズの返信メールがなかなか返って来ない。

少しの違和感は感じたが、こんな事を気にするようになったのはきっと、毬江にかなり入れ込んでい
るのだろうな・・と自分を戒める。
そして仕事を慌ただしくこなしているうちに、その事は頭から離れ、そう言えば・・ と思い返したのは
夜に自室に戻ってからだった。

携帯を開いて、毬江からの返信メールがまだ来ていない事を確認する。

何かあったのかな?

嫌な不安が脳裏を過る。
直ぐ様
『今度の土曜は家に帰れるよ』
と、不安な気持ちを抑えるようにメールを送った。
しばらく待って、少し苛立ちを感じた頃、ケータイが鳴る。
ボタンを押すのももどかしく、メール画面を開くと
『楽しみに待ってます』
と、ひとこと。

いつもなら、もっといろいろな事を書いてくるのに。
段々大人になっている毬江に、嬉しくもあり、望んでいた筈なのに寂しさも感じる。
それにしても・・ 何かあったのかな?

モヤモヤとして居ても仕方がないので、つまみとビールを抱えると堂上の部屋をノックしていた。

「何だかお前、今日は飲み方が荒いな」
堂上が怪訝そうに小牧を見ながら、自分はグイッと一気に飲む。
「そう?飲み方荒いのはそっちでしょ」
「何かあったのか?」
こういう時の堂上は、結構気がつくので、いいようであり、困ったなと小牧は思う。
「何も無いって」
笑いながらそう答えると、堂上から思いがけない事を聞かされる。

「お前、最近誰かからラブレターをもらってるそうだが、その事と関係あるのか?」

思わず口に含んだビールを噴き出しそうになって、手で危うくそれを押さえた。
「・・!?それ、どう言う事?」
逆に聞き返す。
「どう言う事って言われてもなあ。笠原が何だかそれで騒いでいたから、ちょっと気になっただけだ」
攻め込まれても困るので、郁の名を出して一応の防御を図る。
「笠原さんが?そうか・・」

何となくだが、線が繋がって行くような気がした。
郁が知っているなら、もしかしたら毬江も知っているのかもしれないし、それで拗ねてそっけない態度
だとしたら合点がいく。

険しい顔になったのだろう。堂上が 
「大丈夫か?」
と、覗き込んできた。

「ん?何が大丈夫だって?」
「なんだな・・その・・毬江ちゃんがなだな・・」
「もしかして心配掛けちゃってた?それなら心配要らないよ。今度の公休に会う約束してるしね」
「そうか。それならいいが」

最近届いていた手紙は確かにラブレターで、ちょくちょく図書館に来ていた女子高生だった。
手紙自体は読んでもいないし返事を返した事も無い。
そして、その後に図書館で会ってもレファレンス以外の話もした事は無い。
もちろん、直接何か言われたらそれに対する対応は考えている。

それを毬江は分かってくれるだろうか。
出来るなら、耳には入れたくなかった。



そして公休日。
毬江の家に行くと、毬江はいつもの笑顔で出迎える。
言われる前に、自分から言うのが筋だといつも思っている。
「毬江ちゃん、なんだか心配掛けちゃってるようだけど、気にしないで。俺は毬江ちゃん以外はあり得
ないから」
毬江はニッコリと笑うと
「小牧さんにはいつも敵わないな」
そう言ってから
「信じてるから。私はね、いつも小牧さんと一緒に居るって思ってるの」
と、以前に小牧からもらったホイッスルを持つと揺ら揺らと振って見せた。
そして
「友達がね、みんな小牧さんの事を悪く言うのが辛かったの。そうじゃないのにね」
そう言ってホイッスルをギュッと握った。

小牧はそんな毬江を見て
俺こそ、毬江ちゃんには敵わないな――
と、思った。
そんな事を言えるくらい、大人になったんだね――と。

                                                         fin
.



こまっきー特集いかがでしたでしょうか(^^ゞ
そんなあたふたしてませんでしたねー
あたふたしても、きっとそれを態度で見せないのが小牧なんだろうなーと思うけど、どうでしょう。

あと、ホントにパロディあるんだけど、それはまた後で(^v^)
ココでのパロディと言えば、やっぱ劇団ですからー(笑)
と、何やら匂わせて、「こまっきー特集」終了です♪
おつきあい頂きありがとうございました m(_ _)m
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