迷路の向こうに見えるもの 【おまけ篇 柴崎Vr.】
当たり前のように、図書特殊部隊の事務室に柴崎の姿がある。
いつの頃からか、誰もそれを不思議にも思わず、気に掛けることすら無くなっていた。

それでも最近頻繁に顔を出すのは、女子寮で同室の笠原が、今は一緒に過ごす事が無くなってし
まったからだと言うのは、手塚以外誰も知るところでは無かった。
もちろん柴崎は手塚にもそんな事をしゃべってはいない。
しかしそれは、これまでの経験上、柴崎の態度を見ていれば手塚には一目瞭然だった。


「ちわーす!」
今日も、図書特殊部隊宛の郵便物を入れた袋を手にやってきた柴崎は、いつもの慣れた調子でお
茶菓子を菓子器に盛っている。

  堂上班は訓練中か・・

壁に掛かっているボードに目をやってそう呟きながら時計を見ると、そろそろ戻って来る時間だ。
さーて―― と、いつもの調子で馴染みのマグカップを揃え、好みに合ったコーヒーの準備をする。
そこへドヤドヤと特殊部隊の面々が事務室に入って来た。

「あー、柴崎来てたんだ」
郁の声に
「そう。もう戻るところよ」
と、応える。
そして、淹れ立てのコーヒーを「はい、どうぞ。お疲れ様です」と、馴染みの数人に渡す。

「そうなのォ?今戻って来たばっかなのにー。もうちょっと居れないの?」
「そうねぇ。仕事中なんだけどな」
口ではそう言いながらも、いっこうに帰る素振りも無いのも、いつものことだ。
「仕方ないわね。じゃあ、もうちょっとだけよ」
最後にはそう言って、居座りを決め込むのもいつものことだった。


何気ない会話の中に、柴崎はその日の郁への来客の接触も調べていた。
何せ今回の事件は柴崎自身にも多大な影響を与えているのだ。

入寮以来、一緒に過ごしてきた笠原郁。
人と深く関わることを避けてきた柴崎は、最初は粗忽で五月蝿くて、イライラする同居人にどうした
ものかと思っていた。
しかし付き合っていくうちに、これほどお互いに気を使う事無く当り前に過ごせる人柄に、無くては
ならない同居人になっていた。
その郁が、今は別の場所で別の人と過ごしている。

結婚とか退職とか、そんな事での退寮なら納得もいくが、人の都合をお構いなしに踏みにじって
居場所を奪うような行為は許せない。
それも、柴崎の大切な友人。
毎日ポッカリと空いた空間に苛立ちすら感じる。
なんとかしなくては・・。

だから、柴崎はいつも以上に力が入っていた。

  情報戦なら任せて! ―― と。


「そうなんだー。で?ちゃんとレファレンス出来たの?」
「うん。笑顔で−ありがとうございました−って言われたよ」
また一つ自信付いたよ と笑う郁。
郁を見ていると、素直に笑える彼女が可愛いと思う。

よかったわねー と言いながらも、要チェックの項目を増やす。

その女性、最近笠原にリファレンス頼むようだけど、どう見積もっても探す本がおかしい。
何処の棚に収められているのか、子供にでも分かるような、直ぐに探せる本ばかり。
それをいかにも見つけてもらって嬉しいといった素振り。
一番引っかかる事は、その女性は、レファレンスを頼んで探してもらった本を、直ぐにカウンターへ
返却していることだ。
とても読んでいるとは思えないほどに。

変だと思っていても、ただレファレンスを頼んでいるだけだから、裏を取らなければ・・。

図書カードを作っているなら名前も直ぐにデータとして出てくるが、どうもその形跡も無い。
探偵よろしく、来た時に帰りに後をつけるわけにもいかない。


そして柴崎の情報網にその女性の俎上が上がってくる。
早速それを玄田に伝えるために、今日もまた図書特殊部隊の事務室へいそいそと出かけるのだ。

  見てらっしゃい。
  笠原を相手にするってのはどう言うことか、目にもの見せてあげるわ!

美人が違った意味で笑うと不気味に怖いのだ。

「おう!これを見てくれ」
事務室に入ると玄田に声を掛けられる。
親戚と豪語している警視庁の平賀からのFAXに、自分の持ってきたデータを照らし合わせると、柴
崎と玄田は顔を見合せて頷いた。
 
  一致したわね!

「あとは、あちらさんに任せとけ」
玄田に言われ お願いします と任せる事にする。
柴崎は、これでまた、郁との生活を取り戻せる そう思うとホッとしていた。
でも・・・気がかりなことが一つ・・


「きゃあー、しばさき〜〜。なかなか話も出来ないからさ〜。今晩夕飯食べに行こ!」
郁が事務室に入るなり、柴崎を見つけてそう叫んだ。
「アホウ!入口でぎゃあぎゃあ五月蝿い!早く入れ!」
その後ろから、堂上が郁に拳骨を喰らわせている。
「だってぇ。最近柴崎と食事もままならないじゃないですかー。夜のアイスも無いんですよー」
と膨れる郁。
「アイスくらい、食べたらいいだろう」
「だって教官、この前アイス食べてたら怒ったじゃないですか!」
「あったか?そんなこと?」


そう。
問題はこれ。

何だかんだ言いながら、結構楽しそうにやってるお二人さん。
いい加減、笠原は私に返してほしいんですけどねー 堂上教官!

いずれ、そのうち近い将来そうなるんでしょうから。
今はまだ、笠原は私と一緒でいいでしょ。

                                              fin.



迷路の向こうにはいったい何が見えたんでしょうね。
それは、大切な人だったり、皆の想いだったり・・
素敵な仲間だったり。
って事で(^_^)v
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