むかしむかし、あるところに〔堂上王子編〕

あるところに一面のカモミール畑のある、自然がいっぱいで平和な国がありました。
その国の王子様は本が大好きで、とても大事に扱っておりました。
王子の名前は 篤 と言いました。
しかし、篤は王子の服を着る事を極端に嫌がり、家来の目を盗んでは城外へ逃げ出す毎日です。
そして城外の自分の一番のお気に入りである丘の上で大好きな本を読むのでした。

ある時王様は、そんな王子にそれならと、大好きな本が沢山ある図書館の話をしました。
目を輝かせてその話を聞いていた篤は本好きが高じて、毎日のようにお城の近くにある図書館に通
うようになりました。

毎日通ううちに、同じように本が好きで毎日のように図書館に通う男の子に気が付きます。
その男の子はいつもにこやかで、篤と目が合うとニッコリと微笑み返します。
そんな表情を返す事が苦手な篤は、いつも眉間に皺を寄せたような顔で、頷き返すだけでした。

そんなある日、何処からやって来たのか、図書館の中で戦争ごっこをして暴れまわる悪ガキの集団
に遭遇してしまいました。
正義感の強い篤は、自分は王子という自負もあり、一人でそれに立ち向かいます。
何よりも、大好きな図書館を滅茶苦茶にするのが許せません。
戦いの戦略も王子としての教育を受けていたこともあり、もともと運動神経の素質もあって篤は機敏
に動きます。
その様子を見ていた男の子は、篤の加勢をします。
二人で悪ガキ集団を一網打尽にすると、二人は顔を見合せて大笑いをしました。

そして、篤は仲良しの友達ができました。
その男の子の名前は 小牧 と言いました。
聞けば図書館の近くに住んでいます。

それからは毎日のように図書館で出会う二人はどちらともなく声を掛けあうようになりました。
ある日、図書館の探検をする事にした二人は、ある一角に秘密基地になる場所を見つけます。
する事と言えば、その秘密基地で大好きな本を読むだけです。
それでも二人には貴重な時間でした。


そんな日々が過ぎて行き、ある日のこと。
篤も小牧も見かけた事のない女の子が図書館を訪れました。
最初は二人とも、見かけないな と思った位で差ほど気にも留めていませんでした。
そして何度か女の子を見かけるようになった頃、小牧は女の子をジッと見つめる篤の視線に気付き
ます。
その優しそうな表情に、小牧は直ぐにピーンと来るものがありました。
しかし当の篤は、その女の子と話をする時は、優しい笑顔が打って変って、いつも喧嘩腰でした。
小牧にはそれが不思議であり可笑しくてしかたありません。
素直じゃないんだな・・。と。

そして、その少し後に、またあの悪ガキ集団が図書館に現れたのです。
その時、篤と小牧はいつものように秘密基地に入ってしまっていて、その事に気づいていませんで
した。
悪ガキ集団は閲覧室に篤と小牧が居ない事を確認すると、まるで遊び場と言わんばかりに騒ぎ始
めます。

怖くて誰も注意する事が出来ないでいる中、あの時の篤と同じように、あの女の子が、その悪ガキ
集団に静かにするようにと注意をします。
しかしそこはか弱い女の子。
形勢は不利に見えました。
それでも女の子は、怯まず悪ガキ軍団に注意をし続けます。

その時、騒ぎに気づいた篤と小牧が閲覧室にやって来ました。
またあの集団が騒いでいるんだな、二人は顔を見合せて困ったもんだと思います。
そう。二人は悪ガキ集団が悪ふざけをして皆を困らせているんだと思っていたのです。

そしていつもと違う部屋の中の事態を見て驚きます。
見ればあの女の子が悪ガキ集団ともめているようです。
いや、もめているのではなく、注意をしている。
少し様子を見て、全てを理解した二人は、女の子を助けようと目配せをしました。

と、二人の目の前で、悪ガキ集団の一人が、女の子を突き飛ばしたのです。
あ、危ない・・!
小牧が動くより早く、篤が女の子をしっかりと受け止めます。

その時、篤と女の子に衝撃が走りました。
いつも接している女性たちとは違う、柔らかな感触と、サラサラした髪からシャンプーのいい香りもし
ます。
そうでなくとも気になっていた女の子です。
悪ガキ集団に立ち向かっている凛とした姿に、更に胸を撃ち抜かれてしまいました。
自然と、受け止めた腕に知らず知らず力が入っていました。

女の子は 尻もちをついちゃう と目をつぶります。
こんな時、いつもは決まって誰も助けてはくれません。
それが・・
助けてくれたのが、いつも怒ってばかりの怖い顔の男の子だと知って驚きます。
そんな受け止め方をしてもらった事も、女の子扱いをしてくれる男の子も、女の子の周りにはいなか
ったのです。
女の子のように振る舞えば「似合わない」と言われ、可愛いものに興味を持てば「らしくない」と言わ
れ、いつの間にか自分でも、男の子みたいな自分は可愛くも何とも無いと思い込んでいたのです。


女の子が大丈夫な事を確認すると、篤と小牧は全く懲りない悪ガキ集団を相手に手を抜く事なく、鎮
圧に成功します。
そして二人は女の子の元に駆け寄ります。

篤が手を差し伸べると、ほっぺが真っ赤に染まった女の子は俯きながら「ありがとう」と言いました。
篤が怪我がないかと尋ねると、コクンと頷きます。
それらの仕草が堂上の心臓を跳ね上がらせます。

そう。
篤王子はその女の子に恋をしてしまったのです。

女の子の名前は 郁 と言いました。
これに懲りずにと、明日また図書館で会う事を約束して、郁はお家に帰って行きました。
篤は何度も「郁」「郁」と呪文のように繰り返します。
その姿を見て、小牧はクックッと上戸に入ってしまいます。
小牧の態度に眉間に皺を寄せてムッとしながらも、篤は郁の事を想うと胸が熱くなります。

明日図書館で会ったら、秘密基地に招待しよう。

篤は早く明日にならないかと、今さっき会ったばかりの郁に想いを馳せるのでした。


                                            fin.
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