プロローグ

思えば 運命の出会いだったのかと思う。

図書大で ありとあらゆる実践と経験をつみ それなりの成績で 卒業した。
三等図書正の資格を得て 関東図書隊に入隊もできた。

自分の選んだ道。自分の納得の行く職場。
図書を守る。
誰よりも 意気揚々と 胸を張って任務についていた時だった。

研修で地方の図書館に行く事になり 途中 ちょっとした本屋に立ち寄った。

そこで遭遇したのは メディア良化隊が検閲を始めた場面だった。
一図書正の身では 市街地での検閲に口を挟むことはできない。
このまま見過ごすのは耐え難いが 拳を握ってその場を見て見ぬ振りしか出来ない自分に腹が立っていた。

その時だ。

「おまえ 何を隠している。問題図書だな」
良化隊員の声が響いた。
声がした先を見ると 一人の女子高生が 必至になって本を抱えてうずくまっている。
良化隊員がその本を取り上げようとしていたのだ。
「いや、返してっ!」
「離せっ!それとも万引きの現行犯で警察に行きたいか!?」

この場で 彼女を救えるのは自分しか居ないのは分かっている。
でも それは この場所では行使してはいけない事もわかっている。
何も してあげられないのか・・

そう思っていると 
「いいわよ行くわよ!店長さん警察呼んで!あたし万引きしたから。盗った本と一緒に警察行くから!!」
真っ赤な顔をして 必至に叫んでいる女子高生がそこに居た。

彼女は 万引きの汚名をきてまで その本を守ろうとしている。
なのに俺は何をしているんだ。

「うるさい!離せ!!」
良化隊員に 思いきり突き飛ばされた女子高生を 間一髪支える事ができた。
もう 後のことは どうなるか もう関係ない!
こうなったら 思ったとおり進むのみ。

「こちらは関東図書隊だ!」

あとは もう気分のいいものじゃなかった。
本屋さんの店長に感謝されても 居心地が悪い。
女子高生に とりあえず
「万引きの汚名を着てまでこの本を守ろうとしたのは君だ」
と 本を押し付けて 早々に本屋をあとにした。

図書隊に帰ってみれば それこそ 大問題になっていた。
査問会議にも掛けられ 辛い日々を過ごした。
一番切なかったのは 原則派の皆に多大な迷惑を掛けてしまった事。
図書大当時から付き合っていた彼女とも それが原因で別れた。
自分の愚かさを反省した。でも 後悔はしていない。

あの時の女子高生が見せた笑顔。
あの笑顔が見れただけで 良かったと思っている。

彼女に関して言えば 自分が一番辛い時に 一緒に耐えてはくれるような子じゃ無かった。
一方的に責められた。なんて馬鹿なことをしたの と。
私はもう あなたに付いていけない・・と。
ああ こいつは 違う。そう思った。 だから すんなり別れを受け入れられた。
不思議と 失恋の痛手は無かった。
査問の方がよっぽど辛かったからか・・ そうも思った。

そんな時 風の便りにあの時の女子高生が 自分を探しているらしい話を聞いた。
心が フッと和む気がした。
でも こんな至らない俺を探してもどうしようもない・・ そうも思った。
しかし こんな問題をおおっぴらには出来ないと言う理由で 堂上の事はその話からは伏せられた。
きっと あの女子高生には どこの誰だか分からない・・そんな事で終わってしまうのだろう。



実際 どこの誰だか まったく分からないと そんな答えしか 返ってこなかった。
郁は探したのだ あの時の正義の味方。
一言 お礼が言いたかった。
探したのに こんなに探したのに見つからなかった。

最初は一言あの時お礼が言えればそれでよかったのだが そのうち 私も図書を守りたい。
そんな風に思った。
必至で採用に有利な司書資格も取った。
あの人と同じ 図書隊の防衛員を目指す。そう決めたのだった。
そしていつかであった時に あなたを追いかけてやってきましたって そう言うの。



図書隊防衛部の試験。
これから新人教育を任される教官達も 面接の場に居るように連絡が来た。
数人の面接館に混ざって 小牧と堂上もその席に居た。

そこへ 図書隊防衛員を目指すという 唯一の女子 笠原郁が 面接の部屋へ入ってきた。
その顔を見たとたん 堂上はこの場の状況をうたがった。
何!? 自然と身体が硬直する。
隣に座った友人の様子がどうもヘンだと気がついた小牧は 資料に目を通した。
受験No.153 笠原郁 出身地 茨城県・・・

あの時の!?
察しのいい小牧は堂上を見る。
堂上は 今までの様子とは全く違い 別人のような強張った顔で そのコを見ている。
やっぱり!?
しかし彼女の方と言えば 当の本人を前にしても 顔を覚えていないらしい。
うーん これはどうしたもんだろうね・・
友人の苦悩の表情を見て取って 気の毒に と思う。
と同時に 上戸が入る。
あんな大変な目にあったのにね 覚えられてないんだね・・ホント気の毒・・

さらにその子は これ以上無いというくらい その時の三正を美化しており 当の堂上が聞いていても 誰だその完全無欠のヒーローは と言うほどだった。

それを聞いて隣で固まっている友人の態度が 更に上戸を誘う。
小牧は臨界点を越えてついに吹きだしてしまう。
もうそうなると 他の面々も つられて笑い出す。
見れば 当の堂上は 机に突っ伏して顔もあげることができずにいる。


こんな再会ってあるか!?
堂上は机に突っ伏しながら 今おかれている状況を受け入れるのに困惑していた。
俺は一目見て分かったのに なんでコイツは覚えていないんだ・・



堂上は、自分自身認めたくない事だが、でも・・・
そうだ もうその日から・・ いや あの見計らいをしてしまった時から 俺の心の片隅にはずーっと彼女の存在があった気がする。

あの日 あの場所に自分が出向いていなかったら・・
あの本屋に彼女が本を探しに来ていなかったら・・
メディア良化隊が検閲を始めなかったら・・

いろんな偶然が重なって 会うべきして会ってしまった。
やっぱり 運命の出会いだったのだろうか。
いや、そんなことは決してない。
しかし・・・

もう 2度と会うことは無いと思っていた 名前も知らない女の子。
その彼女が また自分の目の前に居る・・・
そして これから自分の部下になるかもしれない。

面接が終わって 小牧が
「あの時の彼女だね。今の子」
もう隠しようが無い。
「ああ」
「良かったじゃない。ずーっと気にしてたもんね。でも まさか うちを受けに来るとはね。運命かな これって」
「気になどしていない!」
ふてくされてみるが 小牧にはどうやら全部お見通しのようだ。
「ま がんばって!」
ポンと肩を叩かれ 
「何をだ。意味が分からん」
もう ほっとけ!

もう一度 面接の書類に目をやりながら 笠原郁 と名前を呟いてみる・・


                                          fin

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