部下だから守るんだ

あの時の俺は・・

思うより先に身体が動いていた。
笠原が危ない。 やばい事になる。 一瞬の躊躇無く 笠原の元へ急ぐ。

案の定 記者達にもみくちゃになり マイクを向けられ 執拗な質問を浴びている。
一生懸命我慢しているのだろう。
口をギュッと結んで 今にも何か爆発しそうなくらい 顔が真赤になっている。

「通してください」くらいで この囲みの中に入れたもんじゃ無い。
相手のことなんか考えちゃいられない。 身体をぶつけながら突進するように進み
「郁っ!」
と叫ぶと 彼女は驚いたように俺をみた。
「いい子だ。何もしゃぺるな!」
間一髪で ヤツの口を押さえて 低めの声で耳元にささやく。

あとは コイツを回収して戻るだけだ。
来た時と同じように 身体をむりやりぶつけるようにして 通用口へと滑り込む。



閲覧用の新聞を破ったのはヤツの落ち度だ。
後先の事も考えず 相変わらず何やってんだか と腹が立つより呆れる。
昔の俺がそうだったから なおさらだ。

そんな時だった。
先日柴崎から 手塚が笠原に「付き合ってくれ」と言った話を聞いた事を思い出す。
何故柴崎が俺にそんな事を言うのか 理解に苦しむ所だが 聞いてしまうとたちが悪い。
そんな事が脳裏をよぎり慌てる。

手塚の様子を見ていても 本当に告白したのか?と言った感じさえして そんな事を考えている自分
に堂上は動揺してしまう。
あいつらが付き合おうがどうしようが 俺の知ったことじゃない。
邪念を振り払う・・ 

その時手塚が突然堂上に告げる。
「笠原と付き合うかもしれません」

ちょうどそんな事を考えていたばかりだから 堂上は驚きを隠しきれない。
そんな事はお構い無しに 
「まあ 笠原が了承すればなんですが・・」
と 続ける。

動揺を見抜かれないようにと 毅然と言ったつもりが
「別に恋愛ごとまで俺に報告する必要ないぞ。・・ただ、付き合うならいい加減なことはするなよ」
などと言ってしまい 余計な事を言ったな・・と思っていると  
「それは 相手が笠原だからですか」
完全に想像の範囲外の言葉が 返ってきた。
バカ野郎!と 怒鳴る所だが グッとこらえて 咳払いでごまかす。

何を動揺しているんだ 俺は・・
その後はもう 自分が何を言い出しているのか 分からなくなっていた。
言えば言うほど ドツボだ。
俺はなんて間抜けなんだと 自己嫌悪が襲う。

その後 手塚が律儀にも自分の気持ちを言いだしそうで とっさに
「言わなくていい」と止めた。

・・それは 相手が笠原だからですか

その言葉が頭の中で グルグルと回っていた。
そこへ今日の週刊誌各種を取りに行っていた小牧が戻ってきて 外は取材申請のしていない報道陣
で大変な事になっていると言う。

・・それは 相手が笠原だからですか

答えはもう分かっている。
ああ そうだ。相手が笠原だからだ。
しかし これは俺だけの勝手な思いだ。
アイツに押し付ける事じゃない。

手塚と笠原が付き合うことになっても 俺には口を挟む権利も何も無い・・

頭ではそう分かっていても 笠原が危ないと思った瞬間 身体が先に動いていた。
小牧が言い終わるより先に飛び出していた。

いい訳なら いくらでも出来るさ。
俺は お前達の上官だと。

笠原だけじゃない 窮地に陥ったら 手塚だったとしても 俺は部下を守る。・・と。


                                           fin

top