おまえの笑顔が見たくて
ある日の昼下がり。
その日公休だった俺は 前々から約束のあった友人の相談にのった帰りだった。
いつも 皆の行くコンビニを過ぎると 手入れの行き届いた小奇麗な公園がある。
ちょっとした遊具や砂場もあって 昼下がりとなると 子供たちやその母親達の格好のふれあいの
場所でもある。
どこかのデザイナーが手掛けたのか!?
と思えるような 気の利いたベンチは 年頃のカップルにも人気があるようだ。
手入れの行き届いた植え込みや 可愛い季節の花々も 立ち寄った者の気分を和ます。
彼女でも出来たら デートの帰りに寄るのもいいもんだな・・
似合わない妄想が頭を過ぎって 堂上は なにをバカなことを・・ と苦笑いをした。
ふと 頭の片隅に いつもの顔が浮かんだ。
誰もソコに居るわけでもないのに 誰かに何かを言われそうで 辺りを見渡し頭を振る。
小牧でも居たら 何を言われるか分からない。
今日は一緒でなくて良かったと ホッと胸をなでおろす。
笠原・・あいつ 今日はやること無いとか 文句言ってたな・・
さっき頭に浮かんだ郁の事を 改めて 思ってみる。
同じ班だから 公休も一緒だ。
そう言えば「教官達ばっかり お出掛け ずるーい」とか ふて腐れてたっけ。
小牧は 毬江ちゃんとデートだしな。
今頃笠原は 何をしているだろう・・
そんな 事を考えていた時だ。
「ほらそこ!!あたしに掛かってくるとは いい度胸だ!」
その 考えていた本人の声が その公園から聞こえてきた。
ちょうど考えていた時だったから 心臓が飛び出るくらいの勢いで 堂上は驚いた。
い、いや 俺は・・その・・
誰に言うでもなく 一人 いい訳をしている自分に 更に慌てる。
なにやってんだ 笠原は。
状況を理解して 堂上は落ち着いて公園を眺めた。
どうやら 砂場や遊具で子供達と一緒に 遊んでいるらしい。
水鉄砲で戦いを挑んでくる男の子数人と格闘しているようだった。
傍から見ればそれは とても顔がほころぶ様な光景で 子供等の母達も一緒になって楽しそうに
笑っている。
当の郁だけは やけに真剣そのものだけど。
そこがまた 笑える。
あいつ いつだって 誰にだって 真剣なんだな。
その顔を見て その仕草を見て 無性に可愛いと思ってしまう。
子供に一生懸命向き合って 一緒に楽しそうに遊んであげれる・・
いいお母さんになるんだろうな。
そんな事を 思って 堂上は一人顔が赤くなっていた。
俺 おかしいぞ・・
笠原には 今のまま変わらず このままの笠原で居て欲しい・・
まっすぐな笠原だから 俺は・・
その時だった。
「あれ?堂上教官!?今帰りなんですか?」
郁が気付き 子供達に ちょっと待っててね と声を掛けてから近寄ってきた。
まさか ずーっと見ていたとも言えず
「ああ」と答える。
不意に腕を掴まれ「じゃあ・・」
じゃあ!?何だ!?
不意打ちのように とびっきりの笑顔で
「教官も一緒に遊びましょ。まだまだ時間早いですから!」
と 公園の中に引っ張られる。
俺は お前のその笑顔に弱いの 分かってるのか。
「みんなー!この おじちゃんも遊ぶってー!狙っちゃえ〜」
「おい 俺はまだ遊ぶとは・・」
その先を言うより先に 子供たちが突進してきて あっと言う間に 水鉄砲の餌食になった。
後はもう 半分ヤケ気味。半分は久々童心に返って 遊んでしまった。
いい歳をした 俺がだ。
子供たちと またね と バイバイして 俺は必然的に郁と一緒に寮まで帰る事になった。
「ま たまには こんなのもいいもんだな」
と 誰に言うとも無く 独り言のようにつぶやく。
「え?なんて?」
よく聞こえなかったようで 郁は顔をしかめながら
「良く考えたら かなり迷惑でしたよね。教官すみませんっ」
と なぜだか恐縮してしまっているようだ。
ホント こいつはどうしたもんだか・・
並んで歩く郁の頭をグシャっと撫でてから
「あほう。俺も 久々楽しかったと言ってるんだ。はやとちるな」
そう言ってから郁を見ると とても嬉しそうに
「よかったです!あたしも とっても楽しかったです」
またまた これ以上無いといった とびっきりの笑顔で堂上を見る。
ああ 俺は この笑顔をずーっと見ていたい。
お前の笑顔が見れるなら なんでも叶えてあげたい。
でも・・今後付き合うであろう彼氏が 郁のその笑顔を独り占めしてしまうのだろう。
そんな思いも また頭を過ぎる。
その彼氏は 俺では役不足か?笠原・・・
俺は お前のその笑顔を見ていたくて・・・
このまま 寮までの道が続けばいいと 思っていた。
fin