「お腹空いたわね。こんな所まで出てきたんだし 美味しいもの食べて帰りましょ」
柴崎の誘いで パスタのお店でランチ。
あっと言う間に 3時を回って 帰りましょうか という事になった。

郁にしてみたら 暗くなってからの方が この格好を人目にさらさなくて済むのに・・とも思ったが・・。

帰り道も 道行く人が 皆 自分を見ているようで 何とも恥ずかしい。
空耳すら聞こえてきそうだ。

・・なーに あの子 全然似合って無いじゃない
・・格好悪ー
・・前を行く子は キレイなのにね 何あれ

郁には そんな風にしか聞こえてこない。
気のせいを通り越して もはや妄想・・

ヤダヤダヤダ・・やっぱり脱ぐ。今すぐ脱ぐ!!

そんな様子を横目で見ながら
「あんた もうちょっと背筋伸ばして!ほらっ」
そんな事言われても 恥ずかしくて つい俯いてしまう。
「もっと自信持ちなさい。私ほどじゃないにしても ソコソコイケてるんだから」
そんな風に言う 柴崎が羨ましい。
どこをどうすると そこまで自信が持てるのよ。確かに柴崎はキレイだけど・・


吉祥寺まで来た所で 
「そうそう。ちょっと寄りたいところがあるの。一緒に来てよ」
急に柴崎が 何かを思い出したかのように 郁に告げる。
断る訳は無い。この格好で 一人で帰るのこそありえない・・

駅を出て 柴崎は時計をさりげなく見ると 大体いい頃ね と頷く。
「どこ行くの?」
「ちょっとねー」
訳の分からないまま 付いていくと 駅からそう離れていない場所にある 1軒の喫茶店の前に着いた。
ここね そんな風に柴崎が言った気がした。 
えっ?ここが何? 
郁が聞き返そうとした時 柴崎がドアを開ける。

ふいに 後ろから ポンと押されて 柴崎より先に店に入る。
ドアが開くと同時に ドアについている鐘が カランコロン と鳴った。
ちょっとクラシックな感じの 雰囲気のいい喫茶店だ。

その時 ドアからそう遠くない席で ガタッと勢いよく 椅子が倒れる音がする。
反射的に 音のする方を見た瞬間 郁は固まった。
ど、堂上教官・・

郁の後ろから その光景を面白そうに眺める柴崎。
これは やっぱり成功でいいのかしらね
道行く人よりも 誰よりも 堂上教官に変貌っぷりを見せたかったから。


「堂上」
小牧が可笑しそうに 声を掛けて 椅子を指差す。
「ああ・・」
そう言いながら 倒れた椅子を元に戻して 座りなおす。
何 俺慌ててるんだ・・ そのまま郁からは目を逸らして もうこちらを見ようともしない。

「折角だから こっちに来いよ」
と 手塚が誘う。
「じゃ お言葉に甘えて」
と 柴崎が答える。
郁は 柴崎に押されるがままに おずおずと近寄っていく。
手塚に
「おまえ 化けたな」
と からかわれる。

「笠原 今日はまた化けたな!いい脚出しおって!」
と 玄田が豪快に笑いながら
「二人で歩いていたら さぞ男どもの 目の保養になったろう」
ガハハハと 続ける。

「今日は何?柴崎さんと お買い物だったんだね。とっても似合ってるよ」
小牧はニッコリ笑って 
「なぁ 堂上も何か言ってあげなよ」
と 声を掛ける。


さっきから ずーっと向こうを向いたまま こちらを見ようともしない堂上に 郁はさらに居たたまれない。
やっぱり こんな格好止めればよかった・・ 教官きっとイヤなんだ・・
何だか涙が出てきそうだ。
堂上の隣の席を勧められたが その場にたたずみ 

「やっぱ 似合わないですよね・・ 着替えてきます・・」
精一杯の笑顔を作って そう言ったものの 声が震えてしまう。
「やだ・・私・・」
そう言うと ポロリと涙がこぼれた。

「あれ 笠原さん 泣いてるの?どうして? とっても似合ってるよ」
そうフォローする小牧の隣に居る堂上は 向こうをむいたまま。
きっと不機嫌な顔をしているのだろう・・
郁は 段々そんな気がしてきた。

郁は頭をブンブン振って
「ダメです。あたしやっぱり・・ごめんなさい 帰ります」
と言うと
「ちょっと笠原!」
柴崎が止めに入る。
「どうしたのよ」
だって・・・ そう言って郁の目が追っている方向を見た柴崎は は〜ん と気がつく。
そう言う事ね。
「バカね。照れてるのよ。分かってあげなさい」
小声で囁く。
「あんたがキレイ過ぎて 見ることすら出来ないんじゃないの。可哀想な人よ」

そんな・・・ とてもそうには見えないんだけど・・
そこで柴崎は郁に
「自分から聞いてみなさいよ。この格好どうですかって」
「そ、そんなこと・・」

そんなこと急に言われたって・・とモジモジしていると 柴崎が先手を打つ。
「堂上教官だけ 何も言ってくれないんですね。これ 私の作品なんですけど」
と言う。
さ、作品とか言うな! と思ったが そう言われた堂上を見ると やっとこちらに顔を向けたのが分かった。

見られていないのも イヤだけど そうやって 改めて見られるのも かなり恥ずかしい。
顔が赤くなるのが 自分でも分かる。
キャー そんな見つめないで!!

目と目が合う。不意にまた 堂上が目を逸らす。
何だか 堂上教官 顔が赤い!?
ポツリ 何か一言言ったようだが 聞き取れない。
「聞こえないんですけどー」
と柴崎に突っ込まれる。
隣に座っている小牧だけが ケラケラと上戸が入って笑っている。
「笑うな!」と 怒鳴ると その怒鳴り声のまま
「似合ってる」
それだけ言うと また顔を向こうへ向けた。

「何だかそれじゃあ 怒られてるみたいでいやだなー」
柴崎は拗ねてみせるが 堂上はそれっきりもう何も言わないで向こうを向いたまま。
郁は やっぱり恥ずかしくなって
「もういいって 柴崎。堂上教官は嫌いなんだよ こういう格好・・無理に似合ってるだなんて言わせなくても・・」
と言いかけると 堂上の
「無理に言ってなんか無いぞ。似合ってると思ったから そう言ったんだ」
さっきまでの 怒り声とは違う とても優しい声が返ってきた。

言われて堂上を見ると 堂上は郁のすぐそこまで来ていて
「まあ 孫にも衣装と言うしな」
と言って いつものように頭をグシャっと撫でた。

柴崎は それを見て やったね!と満足。
でも まだまだこれからよー。
またいろいろと試す事あるから。
ホント ウオッチングしがいあるわー この二人。
目を細めるのだった。

                                           fin

後篇

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