お昼の時間。
郁は食堂に着くと いつになく騒がしい事に気付く。
なんだ なんだ?
いつもなら 何? と直ぐに話の輪に入っていくところだが 午前中の訓練がハードだったので今日
は遠慮して 気付かれないように・・。
いつもの話好きな業務部の女子メンバーが 何やら数冊の本を見ているようだ。
それを取り囲むように 数人が輪になって 手に取りながら談笑している。
「もうダメ。今日は動けない・・」
食堂のテーブルに突っ伏していると
「何やってんだ おまえ」
後からやって来た手塚が声を掛けてきた。
「あ、丁度いい所へ来たね 手塚!私の分も ご飯持ってきてぇー」
と懇願する。
「バカ言えよ。こっちも疲れてるんだ。自分で行けって」
と 相手にもされない。
「それにしても 今日は何だか騒がしいな」
手塚も気付いて こういう日は勘弁願いたいよな と独り言のように呟く。
とにかく身体を休めたい。
やっとお昼だ ゆっくり休めると思ったら 今日に限ってさらに騒がしいとは・・
「お前の気持ちがわかった気がする。だからと言って お前の分まで持っては来ない」
そう言って 行ってしまった。
しょうがない・・
そう思って 立ち上がると 騒がしい中にいた一人が郁に気付いて声を掛ける。
・・ヤバい 見つかっちゃった・・
今日は勘弁して と気持ちを込めて 顔の前で拝むように手を合わせるが 相手には通じないようだ。
仕方ない。
ちょっとだけ・・
輪に近づくと 皆の見ているものがアルバムだと分かった。
「それって 卒業アルバム?」
郁が聞くと
「そう!図書大の卒業アルバムよ。ちょっと手に入ったもんだからさー」
早く早く こっちこっち と手招きされる。
図書大・・
ええっ!
じゃあ 堂上教官や小牧教官のもあるの・・?
疲れているのも お腹が空いているのも忘れて 輪に加わると 早速1冊のアルバムを開いて渡さ
れた。
「ホラ ここに堂上二正居るよ」
郁がどんなリアクションをするか 皆の興味がそこに集中しているとも知らず 手渡されたアルバム
のその場所に目が釘付けになる。
あ!若い!
「きゃー」
顔が緩む。
その瞬間 どっと取り巻いていた皆が沸く。
「あんた本当に 全部ダダ漏れよねー」
「可愛いー 笠原って」
何事かと 郁の方が驚いてしまって キョトンとしている。
「しばらく借りれるから 笠原にその1冊貸しとくよ。他のページにもいっぱい載ってるからね」
とウインクされる。
「ダダ漏れって・・ そんな 何言ってんのよっ!」
言いながら 顔が赤くなるが これ以上ここに居たら何を言われるか分からない。
「ゴメン。お昼ご飯まだだったの!」
その場から逃げるように 立ち上がった。
胸にはしっかり1冊のアルバムを抱えて。
「お前 ホントにアホだな」
手塚に呆れられるが ほっといてよ・・ と睨み返す。
向かい合わせに座りながら やっとお昼ご飯にありつく。
「でもさ ホラ。いいもの借りちゃった」
そう言って 手塚にもアルバムを開いて見せる。
「女って こういうの好きだよな。俺は昔の写真なんて見たくも無いけどな」
「男の人って そういうもんなの?」
「一概には言えないけどな。俺は別に見たいとは思わなない」
手塚は どうでもいい と言いたげな顔をする。
「ほら 早く食えよ。時間あんまり無いぞ」
そう言われ 慌ててご飯をかき込む。
ふーん。
そうなんだ・・
堂上教官もそうなのかな・・
とりあえず 借りてしまった(貸してくれと言ったわけじゃないから・・)アルバムを事務室の机の上に
置いて 午後からの課業に就く。
戦闘服から着替えて事務室に戻ると 何やら郁の机の周りに人だかりが出来ている。
郁は お昼に借りたアルバムだと直ぐに分かった。
手塚はあんな事言ってたけど やっぱり見たい奴はいるようだ。
郁が戻って来たのを見つけた隊員の一人が
「なんで こんなもんが お前の机の上にあるんだ?」
と聞いてくる。
「これ 堂上ニ正と小牧ニ正の年のだろ」
・・あ、ちょっとヤバかったかな・・。出しっぱなしにして行った事。
昼のいきさつを説明している時 堂上と小牧が戻ってきた。
「なんだ 何の騒ぎだ?」
眉間にシワを寄せて 堂上が誰に問うでもなく言う。
小牧が先に アルバムに気付く。どこかで見覚えのある表紙・・
「それ アルバムだね。俺らの図書大のだよね」
「アルバム!?何でここにあるんだ!?」
堂上は怪訝そうに見ている。
小牧は へぇー ちょっと貸せて と言って手にする。
「卒業してから 全然見てないなぁ。」
少し懐かしそうに 中をめくり始めた。
「堂上。ほら これ」
と そこに写っている一枚の写真を見て指差すと 堂上の顔がみるみる赤くなって
「バ、バカ!そんなもん見せるな!」
「まあ そんな事言わずに。あ、これはあの時のだね」
と 別の写真を見て 何だか懐かしそうだ。
郁はそんな二人を見ながら
小牧教官はアルバムは見たい派で 堂上教官は見たくない派なんだな・・と 一人納得する。
「で 何でここに こんな物があるんだ?」
堂上がもう一度 誰に問うでもなく言うと 隊員の一人が
「笠原が持って来たんですよ」
と言った。
堂上も小牧も えっ? と言う表情になって
「なんで 笠原さん?」
小牧が 不思議そうに聞いてくる。
食堂での一件を しどろもどろで伝えると
「なんで 借りてくるかな お前は!」
堂上の拳骨が飛んできた。
えー!どうして ここで拳骨!?
「私がいけないんですか!教官の 若い頃の写真見たっていいじゃないですか!」
思わず突っかかると
「こんなの見て 何が面白いんだ」
堂上は 不機嫌極まりない顔で言う。
「じゃあ 今度私の卒業アルバム持ってきますから!それでおあいこです!」
郁がそう言うと その脇で 小牧がクックッと上戸が入った。
「笠原さん こいつ恥ずかしいだけだから。俺は何ともないけどね」
「小牧!!余計な事言うな!」
どうやら図星のようで 郁も可笑しくなって笑うと さらに拳骨が飛んできた。
アルバムを手にした小牧は 郁を手招きすると これはね・・と説明を始めた。
さっきはまだ全部は見ていなかったが こうして見ると そこらじゅうに二人が写っている。
「教官達って 目立ちたがりですか?」
と聞くと
「そう言うわけじゃないんだけど。でも 目立ってたのは事実かもね」
小牧はニッコリ笑って答える。
ああ それだけ優秀ってことかな・・ 郁にもそれは分かる事だった。
何かあると きっとその中心に居たんだろうと。
堂上は 不機嫌な顔のまま 机上の書類を片付けていた。
たまに小牧が
「これって あの時どうだったっけ?」
と聞いてくるのが 忌々しい。
ほっとけ! そんな気分じゃない。
そのアルバムを手にした少し後で まだ高校生だった笠原と出会って・・
俺は あんな事をしてしまった・・
その頃の俺が 今の笠原と同じような俺で そんな自分は嫌いではなかったが 図書隊に入って
皆に迷惑を掛けてしまった。
そんな思いが どうしても 昔の自分から目を逸らしてしまうのだ。
・・あの頃の俺。
授業や実習はきついものではあったが 大学時代は 楽しかった。
結構羽目を外していたっけ・・
あの頃から 小牧が暴走しかけた俺を止めてくれる存在だったな。
隣でアルバムを見ながら懐かしい話をしている小牧を見ながら 堂上もその頃を思い出していた。
「あれ?堂上。やっぱり気になるだろ?」
きっと 遠い目をしていたのだろう。
それに気付いた 上戸の入った小牧に突っ込まれる。
きっと 顔が赤くなって さらに小牧に笑われる。
「知るか!」
堂上はそう言うと また机上の書類を片付け始めた。
fin
懐かしい記憶