独身寮では 楽しく生活をしていこうという趣旨で いろんなコミュニティーがある。
料理好きの会が 三ヶ月に一度の割合で 会に参加していない人にも声を掛けて 料理教室を行
っている。

大概それは 寮の食堂を貸しきって行われるので その日は栄養士さん達も休暇が取れる。
いわば その日作ったソレが その日の食事になるのだ。

という事で 女子寮の入居者は かなり強制的に参加を促される。
余程の用事でもなければ なかなか断る事もできないほどだ。
反面 男子寮は 自由参加となっている。

交流を兼ねて 

ともっともらしい理由がついているのも 結構これを楽しみにしている人が多いのだ。
例えば 男子寮に好きな人が居て ここでポイントを得ようとするとか。
好意を寄せてる女子寮の人に 自分も一緒に作るからと 誘ったりとか。

またそれが それなりの効果を発揮しているのだ。
一緒に作るのもそうだが 作った物を食べるというのも 意中の人と仲良くする糸口をつくるチャン
スになる。


特に何の用事も無い 郁と柴崎は もちろん参加のくくりだ。
率なくこなす柴崎と違い 笠原は この日が憂鬱このうえない。
今までは・・そう 今までは。

参加者は寮の居住人数分を皆で作るので 作る人数分の材料を割り当てられる。
食べて欲しい人が居なくても それはそれで 食堂に並べられるようになっている。
主のいないそれらは 誰がどれを作ったかは分からないようになっているから 料理の苦手な人
もそこは安心できる。


毎回堂上班では 特にお誘いがない限りは その並べられている方を食べていた。
当たり外れがあるのも 賭けの様で面白いらしい。
唯一 女子隊員がいる堂上班は きっとお誘いがあると皆に思われていたが そんな事は一切無
く、紅一点の笠原はなかなかお誘いをしてくれない と言うのは堂上班では禁句になっていた。

今回も どうせそうなのだろうと 思っていたら
「今回は期待して下さい!」
と 郁から自信たっぷりなお誘いが来た。
「おい。食べれる物を作ってくれるんだろうな」
手塚が 怪訝そうに言う。
「あんたはお誘いがいっぱいあるだろうから 別にいいわよ」
と 膨れ面になる。
「俺は誘われても皆断っているんだよ。誘いにいちいち乗ってたら身が持たん」
手塚はぶっきらぼうにそう言うと
「柴崎が一緒だから 大丈夫よ。あいつ料理は上手だから」
意味ありげに郁に笑われ ムッとしながらも しるかっ とその場は返した。

「まあ 柴崎も一緒だという事だし とりあえず 食べれない物は出てこなそうだな」
堂上にも そう言われ 
「もう何度も参加しているんですよー 私だって大丈夫です!」
意気込む郁だが
「お前は張り切るとろくな事にならん。大コケするのが目に見えてるから いい加減でやめとけ」
はなから相手にしていない口振りに 面白くない。

だって 今回は 堂上教官に食べてもらいたいんだもの。

郁は乙女モード全開だった。

気分は新婚の食卓のイメージまでしているのに・・
当の相手役が 全く気にも留めていないのが問題よね。
少しは 台本通りに動いて欲しいもんだわ。
と 誰が書くのか 郁の妄想に台本まであるようだった。
設定が大事らしいというのも 何だか 郁ならではだろう。



そして 当日。

作るところは参加しない堂上班の男子メンバーは 出来たら連絡するという郁の言葉に従って、
堂上の部屋で待っていた。
チラッと時計を見ると そろそろ時間のようだ。
しかし 郁からの連絡は来ない。


5分・・10分・・15分・・ いつもの晩御飯の時間はとっくに過ぎている。

「まだですかね」
手塚がシビレをきらせて言う。 
お腹は正直で 時間が来ると要求してくる。
味はともかく 早く腹を満たせればそれでいいと 段々思えてくる。

「まあ 落ち着け。もう連絡が来るはずだが・・」
堂上はそうは言ったものの 根拠が有るわけでもない。

「ちょっと様子を伺いに 行ってみる?」
小牧が言うと 多分皆もそう思っていたのだろう。
落ち着け と言っていた堂上でさえも そうだな と行く気満々だ。
それを見て 小牧の上戸が入ると ちょっと覗くだけだ としかめ顔になる。


食堂に三人が着くと 既に食べ始めてい賑わっている声が聞こえてくる。
小牧が あ、あそこ・・ と呟く。指差した方を見ると・・!?

少し離れているので 手元までは良く見えないが どうやら諸先輩方の指導の下 郁が一人で
盛り付けをしているらしい。
その脇に 柴崎の姿も見える。

どう見ても その場所だけが不自然だ。
郁一人が忙しそうに 皆にあーだ こーだと言われ はいっ! と返事しながら動いている。
指図しているのは一人では無い。
柴崎も含めると五人がかりのようである。

それで こんなに時間が掛かっているのか・・

しかし 何で柴崎も手伝ってやらないのだろう。

堂上はそう思いながらも 郁のエプロン姿を見ながら グッとくるものを感じていた。
今朝 顔を見るなり呼び止められ
「今日楽しみにしていてくださいね。教官の為に一生懸命作りますから」
と敬礼付きで 宣言されていたのだ。

あまり気張るなよ と言うと いつも迷惑かけてるお詫びです 笑顔で言われて つられて微笑
んでしまった。

しかし まだ出来上がらないのか!?
可愛いと思う気分も 空腹に邪魔されて もうどうでもよくなってくるじゃないか。

よくやった 美味しいぞ と褒めてやりたいのに。 
どうもその前に憎まれ口を言ってしまいそうな自分に苦笑いする。

出来上がったらしい一行は やったね! と拍手までおきてる。
郁が携帯を手にした。 来るぞ・・ と思った時 堂上の携帯が鳴った。
そして 元気のいい郁の声が響いた。

「教官 お待たせしました!とびっきりのご馳走できました!」

                                              fin

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