借りていた本の返却日が明日だと思い出し 机の上に置いたその本を手にしようとしたその時
「あっ・・」
躓いて転びそうになり 手を掛けたところ 積んであった本達がドサッと崩れる。
あちゃ・・ やっちゃった。
「五月蝿いわよ笠原。何やってんのよ」
今日もお肌のお手入れに余念のない柴崎は そう言いながら鏡越しに郁を見る。
あらあら・・ また今日は派手に散らかしているわね。
「ホント そそっかしいんだから。気をつけなさいよね」
「柴崎ー 手伝ってぇー」
そう拝むが 頑張んなさい と取り合わない。
「あんたちゃんと片付けておかないのがいけないんだからね」
そう言われると見も蓋も無い。
渋々片付け始めて 手にした袋に あっ と思い出す。
これ プリントアウトした写真だ。
そう言えば 忙しいとか理由つけて最近ファイリングしてなかったら ちょっと溜まっちゃったんだった。
いい機会なので 本を片付け終わり アルバムを取り出す。
溜めた写真たちを 袋から取り出し これあの時の・・ と思い出しながら整理を始める。
そんな郁をずーっと鏡越しで見ていた柴崎は 郁のくるくると変わる表情が面白くて仕方が無い。
最後に顔をパンパンと叩くと
「なーに?顔 赤いわよー」
と 覗きこむ。
しまった。失敗した。柴崎は思った。
まだ整理されていない それらの写真は それはもう幸せを凝縮したようなもので 目に痛い。
「ホント教官は あんた撮るの巧いよねー」
そうかな・・ 郁は照れて頭を掻く。
笑った顔 はにかんだ顔 拗ねている顔 怒った顔 ふざけた顔・・
どれほど堂上はシャッターを切ったったんだ と言いたくなるほど。
「これは いつの?」
「ああ それはね・・」
聞かなきゃ良かったと思ったが もう遅い。
この写真は○○へ行った時でね・・ こっちは△△で。で、こっちは・・ と延々。
何この幸せオーラは!
いつもならここで 強いお酒ちょうだいと言ってしまうところだが 途中から 笠原の嬉しそうな顔が
あんまりにも可愛くて つい見つめる。
これじゃあ 堂上教官が 撮りたくなっちゃう気持ちもわかるわね。
それにしても 相変わらず堂上の写真の半分以上は引きつった顔や証明写真状態で これじゃあ
笠原も浮かばれないわね・・ と思いながら眺める。
ねえねえ と郁の肩をたたいて
「ここにさ『ウォンテッド 』とでも 書いてしまおうかしら」
と言ったら プファー と噴出した。
「それは ちょっと可哀想だよー」
そう言いながらも まだ笑っているが・・ツボッたか。
それでもお宝映像も数枚は混じっていて 前にも言ったけど
「売れるかな?」
と郁を見ると 真顔で ダメ! と言っている。
「前にも言ったでしょ。人の彼氏売ったらダメ!」
「堂上教官のこんな笑顔 滅多に見れないんだよ。絶対価値有なんだけどな」
「絶対ダメ!!不許可!!」
「もったいなーい」
まあね 彼氏の笑顔は独り占めしたいんだろうけど。ホント 欲のないことだわねぇ。
写真を見ながら 柴崎は あら? と気付く。
そう言えば二人揃った写真が少ない。殆ど無い。
他人に頼むと緊張して仏頂面になるとは聞いていた。
どっちかが どっちかを撮る という事だからしょうがないのだろうけれど それにしてもね。
笠原可哀想・・ と思ったら クックッと笑いが出てしまった。
怪訝そうに郁は柴崎を見る。笑いが出るようなヘンな写真あったかな? といった表情だ。
「何でもないわよ」
と 言いながら 残りの写真も眺める。
話をしながらも 着々と写真をアルバム入れていた郁がボソッと呟いた。
「本当はね・・」
聞き取りにくいほど 小さな声で言ったソレは 今まさに 柴崎が思ったソレで・・
ああ 笠原も二人で写った写真が欲しいんだ と思った。
だから つい言ってしまった。
「ねえ。今のうちから 写真に写る特訓しとかないとじゃないの?」
「特訓??」
「だってさ。結婚式の時の写真 新郎がこんな仏頂面は嫌でしょ」
きゃあー 柴崎ったらー
真赤になって 頬を押さえる郁。
「今まだ結婚なんて考えらんないから。マジ考えられない・・」
そういう郁が初々しくて 柴崎は 堂上教官ホント写真写りどうにかしてくださいよ と切に思った。
花嫁の最上級の笑顔の隣に これ以上無いといった仏頂面の花婿・・
郁と柴崎と 同時に同じ空想でも描いたのか。
二人顔を見合わせて 苦笑いになった。
そうなったら 予告なしで不意打ちでお願いしなきゃ・・ですか・・
fin.
写真