近くの商店街で縁日があったようで 今日はやたらと小さな子供連れの親子が図書館を訪れていた。
小さな男の子は甚平を着ている子も有れば 女の子は浴衣を着ている子もいて 郁は見ていて知ら
ずと顔がほころぶ。

子供って可愛いな-

お母さんと子供。
あの 何の疑いも無く抱き合って 顔を寄せて にっこり微笑んで。
それだけでも可愛いのに あんな格好で一緒に手を繋いで歩くのっていいなー
そう思いながら 少し膨らんできたお腹に手を当てて よしよし と撫でる。

子供達も いつも相手をしてくれる郁に気がつくと 誰かれともなく おねーたん おねーちゃん
と近づいて これ見て と縁日の戦利品を見せてくれる。

キャラクターのお面だったり 輪投げやクジ引きの商品だったり。

すごいねー えらいねー と応じている郁を見て 知らずと堂上の顔も和んでくる。

他人の子にもアレだけ好かれて 郁自身も子供が好きのようだ・・
いい奥さんは俺が認めるが きっといいお母さんになるんだろうな と目を細める。

俺と郁の子だと どんなだろうか。
ふと 想いが馳せる。
郁によく似た 可愛い娘がいいかな・・ 俺に似ると ちょっとややこしいからな。
郁は 俺に似た男の子もいいとか くすぐったい事を言ってくれるが・・
いや・・ でもあいつに似ると かなりハラハラしそうだ・・

堂上があらぬ事を考えながら遠い目をしていると 足元に誰かが触った気配を感じて足元をみる。
3、4歳くらいの男の子。どうやら親と間違えて堂上を掴んでいるようだ。

「どうした 坊主」
そう言いながら しゃがみこみ 男の子と同じ目線で話しかける。
「お父さんと間違ったか? 今探してやるからな 大丈夫だ」

いつもの堂上を知っている者が見たら 驚きそうなその優しい応対を 直ぐ傍にいた手塚が目撃する。
ど、堂上一正・・見間違えました・・どこかのお父さんかと。
手塚がそんな思いをしているとは知らず 手塚と目が合った堂上は苦笑いをしながら 
「館内放送頼んでくれ」
と その声も至って優しい。

後は 郁に任せるかと 目で郁を探すと 相変わらず子供達に囲まれている。
これでは ちょっと呼ぶのは無理そうだ。
俺に子供の相手をしてみろと 神様かなんかの差し金か・・

子供目線の堂上は
「坊主 名前はなんて言うんだ?お母さんかお父さんに来てもらうから教えてくれないか」
ちょっと強面の堂上に最初は固まったその男の子だったが 優しい態度にくっついて離れない。
「僕 おじちゃんと一緒でもいい」
なんだ・・お兄さんじゃなくて おじちゃんか・・ またも苦笑いの堂上だ。

「おいおい それじゃ お母さんが困るぞ。きっとお母さんも探してるんじゃないか」
「・・・探してないもん!! 僕 お母さんキライ」
嫌いとは ちょっと、いや、かなりただ事ではない。

「とにかく名前が分からんと 呼ぶにも困るから 教えてくれないか」
おじちゃんに と付け加える。自分でおじちゃんと言ってしまって やれやれと頭を掻く。

「翔太」

いきなり 名前だけを告げると 翔太は堂上にしがみつき 
「名前言ったよ。言ったから おじちゃんと一緒にいていい?」
と言う。
「あのな翔太。おじちゃんは今 この図書館で仕事中なんだ。翔太と一緒に居てやれないんだ。
分かるか?」
そう言うと 翔太はジッと堂上を見て
「おじちゃんも 僕を独りぼっちにしちゃうの?遊んではくれないの?」
と それはそれは悲しそうに 目は涙目になってくる。

どうしたもんだか・・
そうだな・・郁はしょっちゅう職務中でも子供と遊んでやっている。
いくら仕事中だからと言って怒ろうが 子供達が云々と言って なかなか止めようとしない。
しかし 俺がソレをやっていいものだろうか。
他の部下にも しめしがつかないといったもんだ。

しかし 翔太の事は気になる。
しゃがんで子供目線のまま それこそ翔太に抱きつかれる形になっている堂上は 郁にいつもする
ように 頭をクシャッと撫でてから 
「よし翔太!」
と言って 抱き上げる。

肩車だ。
翔太の顔が急にパアッと明るくなる。

「おじちゃん あのね、あのね、僕ね・・」
肩車嬉しいの・・

そう聞こえた気がした。
「おい翔太。縁日行ったのか?」
「うん・・」
頷く声が 楽しそうに聞こえない。
「楽しくなかったのか?」
「・・・」
返事は無い。
楽しくなかったのか・・

子供の扱いがどうも苦手な堂上は それこそ四苦八苦。
さて この後どうしたものかと 肩車のまま談話室へと向う。
談話室に向いながら 手塚に 名字は分からないが 翔太 と言う子のご両親を館内放送で呼んで
くれるように頼む。


ほどなくして 翔太の母という 若い女性がやってきた。
別段探したふうでもなく 心配しているふうでもなく ただ
「ありがとうございました」
とだけ言って翔太を連れて行こうとする態度に 堂上は他人事だが腹立たしさを覚える。

翔太は 母親に手を引かれながら 堂上を何度も振り返る。
僕 ここに居たい。帰りたくない・・ そんな目で。

「すみませんがお母さん。翔太君が迷子になっているのは気がつかれませんでしたか?」
努めて穏やかに言ってみたつもりだが どう聞こえただろうか。
母親は キッと堂上を睨むようにして 何も言わず頭だけを下げた。

離れていく母親の あんたがちょろちょろしているから お母さんが怒られるじゃないの と言う声が
聞こえた。
あの子は 帰ったら きっとあの母親に叱られるんじゃないのだろうか。
最後の一言は余計だったのだろうか。

 
後で聞けば 翔太の母は 母仲間で井戸端会議ならぬ話の真っ最中で 子供の事は全く眼中に
無かったらしかった。
館内放送で 翔太 と聴きつけた別の親が お宅の子じゃないの? と言われ 困ったわね・・と。


その晩の堂上家。
「篤さん 今日大変だったって?」
「ああ」

傍に来た郁のお腹を撫でながら まだ見ぬわが子に 
「俺は絶対 あんな親にはならないからな。安心して生まれてこい」
そう言うと 郁が嬉しそうに微笑んだ。
「篤さん いいお父さんっぷりだったんだってね」
見たかったー と言うから 照れくさくてかなわない。

堂上は そうだなまた翔太が図書館に来たら 肩車をしてやろうと そう思っていた。
そして やがて生まれてくる我が子にも・・・

                                            fin.

俺は大丈夫だ
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