『武蔵野劇団』の公演日。
練習を重ね どうにか格好もついた。
しかし これを本当に子供達の前で披露するのか? という一抹の不安も無くはない。
ええい! あとは なるがままよ・・
業務部の裁縫の得意な女子隊員に衣装の依頼もして そちらは完璧に出来上がってきている。
衣装どころか 着ぐるみまで・・!?
どうやって調達したのか はたまた作ったのか。
よく出来たものだ。
昼からの開演に備えて 朝に予行もやって さながらどこぞの地方巡業の小劇団のようだ。
もう直ぐ開演だと言うのに 浮かない表情で仏頂面は堂上。
いい加減あきらめなよ と小牧に笑われて さらに不機嫌になっていた。
仏頂面にもなるってもんだ。
衣装合わせの時から 嫌な予感はしていた。
いったいこれは どういう劇なんだ 王子様の衣装は勘弁してくれ・・
俺が似合うわけが無い。
開演時間三十分前 広いロビーの前方に子供用にゴザを敷き後方にパイプ椅子を敷き詰めた会場は
満席になって どうやら立見もでているようだ。
「これは 脅かしがいかあるな」
玄田は楽しそうだ。
最初の予定では オオカミ役だった筈の玄田だが 劇の練習をするうちに
「なんだか隊長 熊っぽいですよ」
と柴崎に指摘され じゃあこの際だから熊で行くか という事になった。
ガハハと笑う玄田は こういう時豪快だ。
だから これは いったい何の劇なんだ・・ 堂上の眉間のシワが増える。
ほどなく幕が開き 武蔵野劇団の公演が始まる!!
長身の郁が それを生かしたようなスラリとした赤頭巾ちゃんならぬ 赤スカーフの少女役で子供達
の気持ちをしょっぱなから釘付けにし 森の動物に扮した手塚が結構おどけた感じで笑いを集め
和やかな雰囲気で前半戦を乗り切り 掴みは上々だ。
手塚に関しては おどけた というようりは オドオドしていたという所だろう。
熊役の玄田の登場に会場はこの上ないほど沸きあがった。
赤スカーフの少女は実は隣の国のお姫さまで 猟師に仮装したその国の王子様が助けるといった
ベタな展開に 最後は 会場は拍手喝采で幕を閉じた。
やっと終わった・・
もうこんなのは ゴメンだ。
精も根も尽き果てた堂上が 衣装を身にまとったまま事務室のソファーになだれ込む。
お姫様を王子様が助ける・・ 本当にこれは何の劇だと思うほどだが そんなベタな展開に少しは
感謝もしていた。
こんな事でもなければ 郁を抱きしめるなど まずはありえない。
キスは真似事でいいと言われたのに 危うく本当にしてしまいそうになり どうにかそれは理性で
抑えることは出来た。
出来る事なら あの唇に触れたい。
そして まだ腕に身体に 郁の感触が残っている事を実感する。
劇ではなくて 笠原を抱きしめたい・・
ソファーに横になりながら そんな事を考えていた。
その頃郁は 控え室件着替え部屋になっている会議室で 終わった安堵感と感激の涙に暮れて
いた。
うっうっ・・
「どうしちゃった?」
柴崎も感動は同じ様な想いだったが あまりにも郁が泣くので それこそ役のように母親の気分だ。
「だって すごい感動したよ。子供達も大人の人も すっごい喜んでくれて あんなにいっぱい拍手
してくれて・・」
「そうよね。笠原 頑張ったものね」
それに・・
教官に抱きしめられた時 本当にキスされるかと思った。
心臓が飛び出しちゃうんじゃないかと思うくらい・・あの真剣な眼差しが脳裏に甦る。
そんな色んな思いの中 無事に幕が下りる。
そして 後日。
あまりの劇の素晴らしさに アンコールの声が持ち上がっていて・・
次回も是非このメンバーで劇をして欲しいと ご意見箱に沢山の声が集まっていた。
堂上班の面々は まだその事は誰も知らずに居る。
でも玄田がそれを見逃す筈も無くて。
さて どうなりますことやら・・
fin.
武蔵野劇団いよいよ開演!