絡めた指
何故、今までノーマークだった稲嶺の自宅を突き止められたのか・・。
図書基地の寮にかくまっていた時も、何処からか情報が漏れていた。
確実に味方に良化特務機関に通じている者が居る。
何度となく繰り返される事実に皆、苦い思いは隠しきれない。
よく考えてみれば、この作戦はかなり強引な感は否めなく既視感を覚えた堂上だった。
無事に事の中心人物である当麻を稲嶺の自宅から連れ出せた。客間からは騒動の音は聞こ
えてこない。
侵入者を引きつけている稲嶺の無事を願いつつ、堂上は車を走らせた。
そしてあらかじめ打ち合わせしてあったコンテナへと車を乗り入れた。
後は、無事に図書基地へと着ける事をヘリへと委ねる。
堂上は、取りあえずここまで無事に事が運んでいることに安堵していた。
「あたしもちょっと閉所恐怖症気味で・・」
郁の言葉に堂上は驚く。
「ええ、二重の密閉状態というのがね」
「お互い頑張りましょうね!」
当麻と郁の会話に暗闇を重ねて、握った拳に力が湧いた。
暗闇だが、運転席の隣に郁が居る事は分かる。
大体の目算で、左手を伸ばしてみた。
ビンゴ!
迷う事無く、堂上の左手は郁の右手を握った。
俺がついている。心配は何も無い。
気持ちを込めて優しく左手に力を入れた。
もう一つの気持ちも少なからず込めてみた。
全ては暗闇に感謝だ。
今 顔を見られたらどんな言い訳も利かない。
よし、大丈夫だ。俺が傍に居る。俺がお前を守る。お前の事が大事な俺がここに居る。
暗闇の中、どう受け取ったのだろう。
堂上は、驚いたような郁の気配を感じた。
だから、更に 大丈夫だ と思いを込めてぎゅっと手を握る。
まさか郁からの応対が来るとは考えていなかったので 今度驚くのは堂上の番だ。
握った手に郁が指を絡めてきたのだ。
何も考える事もなく、気がつくと堂上は絡めた指を絡め返していた。
郁の気持ちはどうなんだろう。
今までの色んな出来事から 少なからず自分に好意を持ってくれているのではないかという
自惚れはあった。
しかし、確証は無い。
とっさに 気持ちを知りたいと熱いものが湧き上がる。
当麻がそこに居なかったら、この暗闇に理性は吹っ飛んでしまった事だろう。
ヘリは、そんな事を思っていると あっという間に図書基地に到着していた。
堂上も郁も、絡めあった指を直ぐには離す事が出来なかった。
お互いにお互いの気持ちが分からないまま、自分の気持ちをその指に込めて。
好きです・・
好きだ・・
伝わるものなら 伝わって欲しいと思った。
その時コンテナが地面に接地する感触が伝わってくる。
あれほど離れ難い思いの指が(と言っても思っているのは当人たちだけなのだが)、何気なく
そんな事さえ思ってなかったように あっけなく離れた。
コンテナの外は激しい銃撃を受けている音がしている。
否が応でもでも、現実に引き戻された。
どうにか無事に当麻を下ろし、格納庫に車を戻し肩で撫で下ろした。
「今日はよくやったな」
「ありがとうございます」
庁舎へ戻る間 並んで歩きながら少ない会話を交わすが お互い顔を向ける事が出来なかった。
二人とも、気持ちが暗闇の中へフィードバックしていた。
自然と離れた指に、さっきまでの感触が蘇っていた。
堂上は思う。
あの時絡めてきた指はどういう意味を持っていたのか・・
そして、絡め返した俺の思いは伝わったのだろうか・・
アホウだから 分からなくても仕方ないか。
郁は思う。
まさか教官が この一大事に私情を挟むわけがない。
だからあれはきっと部下を落ち着かせる為だったんだろう・・
でも、最初に絡めた私の思いは気付いたとしたら・・ううん、それはありえないよね・・
でも確かめてみたい。
「・・笠原」
「・・堂上教官」
沈黙の中、やっと出た言葉が被る。
「なんだ?」
「いえ・・教官こそ・・」
なんだか気まずい雰囲気になって、少しの間の後に意を決して堂上が口を切る。
「お前、閉所恐怖症とは知らなかった。暗闇で大丈夫だったか?」
「あ・・」
言葉に詰まりながら
「でも教官が居てくれたから あっという間でした。ありがとうございました」
「そうか。それは良かった・・」
ありがとうございました・・か。
それが妥当なところだな。
ふっと笑いが漏れ 郁が 何ですか? と聞くので 堂上は なんでもない とまた仏頂面に
なった。
この案件が無事に終わったら 今度こそ映画に誘ってもいいか?
堂上は言いたくて言えなかった言葉を飲み込んだ。
fin.