カモミールティーを飲みに

舞い上がってなんか無いと自分に言い聞かせるように、鏡に映る自分に向かって問いかける。

 大丈夫だよね?私。

鏡の中の郁は、真っ赤な顔をしてこっちを見ていた。


戦闘訓練が終わり、庁舎に引き揚げる時に堂上に声を掛けられた。
声を掛けられる事はよくあることなので いつものように敬礼して答えようとすると
「アホウ、プライベートの話に敬礼は要らん」
と怒鳴られ、すいませーん とまた敬礼しそうになって さらに怒鳴られる。

 だって まさかプライベートだなんて思わないんだから…
そう呟いてから ええっ? プライベート? 思わず大声をあげてしまい、慌てて口を押さえる。

堂上に目をやると 不機嫌この上ないといった顔をして腕組みだ。

「だって訓練後だから、またヘマして怒られるのかと…」
「大体お前はなあ…まあいい。それよりちょっといいか」
堂上は何やら辺りを伺うと人目をはばかるように庁舎の陰に郁を連れて行く。

仏頂面のまま、じろりと睨まれるので
「なんですか?」
エへへと郁は誤魔化し笑いをする。

何を思ったのか、そんな郁を見て 今までの不機嫌が嘘のように 堂上はプハーと噴き出した。

「堂上教官!何が可笑しいんですか!」
「お前見てると飽きないな」
小牧ほどの上戸は入らないまでも、 ちょっと笑いすぎです と郁は膨れた。
そんな郁に また笑いそうになり、ぐっと堪えながら
「今度の公休予定あるか?」
と 言った。

は?
今なんて?

固まる郁に
「予定を入れて無かったら、カモミールティーが飲める店にそろそろ連れてってくれないか?
お前、お茶探しとけって言ってもそれっきりだからな」
堂上はそう言いながら 郁の頭をコツンと小突く。

予定は何も入れていなかったはずだ。
その日は同室の柴崎は勤務だったし と、頭の中の予定表を探ってみた。

「はい!大丈夫です。予定無いです」
心臓がドキドキ言っているのが自分でも分かる。
悟られないようにと、とっさにまた敬礼しそうになって ハッと気付いて愛想笑いで誤魔化した。

チラッと堂上を見ると、怒ると言うより また笑っていた。

「お前 俺と待ち合わせて プライベートで敬礼はよしてくれよ」
そう言うと 何だかやりそうだな と一人ブツブツ言っている。

そんな堂上を見ながら 急な話に郁はまだ状況がよく飲み込めなくて真っ白だ。

 これって 本当だったんだ・・

茨城県展の時にそこで咲いてるカモミールの花を二人で見た。
確かにその時堂上は言った。次はお茶だな と。
でも まさか という思いでいた。
だって その話しをした事すら無かったかのように その後の堂上はそんな素振りも見せなか
ったのだ。
あの話しは有効ですか などと郁が聞けるわけもなく月日は過ぎて行った。

それが急にこんな展開。
郁がまだ一人うろたえていると堂上はポンと頭に手を乗せていつものようにクシャと撫でた。
 
「じゃあ決まりでいいな」
「はい。特に予約とかいらないんでそのまま行けますから」
前々から 行くんだったらと考えていた店はあった。
その店を思い描きながら応える。

「そうか。そしたら時間は一一〇〇でどうだ?」
「はい」
「楽しみにしてる」
最後にそう言って、あっけなく堂上は先に歩き出した。

郁は 一瞬出遅れてしまい、その後ろ姿を見送っていた。
背筋のピンと張ったその後ろ姿に 格好いいと思ってみとれてしまうのは病気か。
両手で自分の頬に触れて ひゃあ と声が出てしまった。

そして思った。
これはやっぱり 図書隊の紋章になってるカミツレの事に興味が湧いて たまたま自分が知っ
ていたから付き合わされたんだな と。
あっけない堂上の態度が 郁を お前は単なる部下だと言っているような気さえしてくる。

 たぶん きっと 好きなのは私だけ・・
 余計な事は考えない方がいいよね・・

でも プライベートで一緒に出掛けるなんて今まで無かったことだから それでもヨシ! と思う
ことにする。




堂上はその場を離れながら 拳をギュッと握っていた。

 よし!デートに持ち込めた。後はこれからだ。

郁を待って居ては 折角切り出したお茶の話しが何時になるか分かったもんじゃない。
ここはやはり男から誘わなくては。そう思ったら予定表の公休が目に付いた。即行動。

 さて 何着ていくかな。次の公休が楽しみだ。
 カミツレのお茶の後はどうするかな・・
 映画でも観るってのもいいかな 

あれこれと思い巡らせ 堂上は自然に顔がほころんでいた。

                                          fin.

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