魔法の手 〔その時何が・・おまけ篇〕
何があってこうなったのか。
今日はとても大変な一日だった。
コンビニ強盗の事件に巻き込まれ、やっと色んな事から解放されて寮の自室に戻って来た。
疲れたぁー
郁は部屋着に着替えるのももどかしくベッドに横たわり、目を閉じれば頭に浮かんでくるのは
堂上のことだった。
抱きしめられた感触は残っている。
でも、あれは酷く心配を掛けてしまった部下に対する堂上なりの慰めなんだろう・・と、思う。
特別の意味なんて考えられない。
そう思うと、出るのは溜息だけ・・
せめて今日の終りに、いつもの 頭をポンポン をしてもらいたかった。
あの魔法の手で優しく頭を撫でてもらいたかった。
それだけで嫌な気分も吹き飛ぶし、元気になれるのだ。
ベッドの上で、アー だの ウー だの言っていると、柴崎が帰って来た。
「なあに?今日の功労者が何をうなってるのよー」
お疲れ と言う柴崎の笑顔も、同性でも見惚れるほどだ。
「やだ。やめてよー。みんなに心配かけて散々だったんだから。反省してるとこなんだからね」
「堂々としてりゃいいのよ。あんたのお陰で犯人確保出来たんでしょ」
「それはそうなんだけど・・。でも一歩間違えば大変なことになってたんだって、今考えたら分
かるんだけどさ・・」
「ふーん」
あんたにしてはちゃんと考えてるじゃない と言う言葉は飲み込んで、ニッコリ笑ってみせると
郁の頭をヨシヨシと撫でる。
「今に限ったことじゃないでしょ。頑張ったんだから、胸張ってなさい」
郁はまた あっ・・ と、思ってしまう。
柴崎に撫でてもらうのも嫌ではない。
でも、やっぱり頭に乗せてもらいたいのは、堂上の手なのだ。
安心できる あの大きな手なのだ。
その様子を見て、柴崎は何かを感じ取ったようだったが敢えて黙っていた。
その晩、お風呂に入っていても食事をしていても、何処に居ても コンビニ事件 の話で声を掛
けられ、疲れた身体が悲鳴をあげていた。
噂に尾ひれが付いて、郁がさも勇敢な勇者のようになっていたり・・
堂上に心配を掛けた事を思い悩んでいるというのに、これ以上無いといったヒーローになってい
て何処に居ても落ち着かなかった。
「もう寝る」
まだ寝るには早い時間だったが、郁はそう宣言して、布団に潜り込んだ。
頭から布団を被ってもなかなか寝付けない。
頭に浮かんでくるのは 堂上の『手』。
あれがあれば、きっと今にもぐっすり寝れることだろう。
堂上教官 今何してるのかな・・
そう思った時だった。
枕元に置いてある携帯電話が着信を告げた・・
***
郁の事が気にはなっていたが、それを口にする事無く職務を終えて、堂上は帰寮した。
寮内は何処にいても、今日の事件の話で声を掛けられ、いちいち答えているのも億劫になっ
てきたので、早々に部屋に戻る。
さっきから何度も携帯を手にしてはボタンを押すのを躊躇っている自分がいた。
小牧には「気になるなら電話したら」と言われ、そうだな と思った。
でも、いざその段になると迷惑ではないかと躊躇われた。
まるで学生のようだな。幾つだ俺は・・
バツが悪いように頭を掻きながら、不甲斐ない自分を奮い立たせ、携帯電話を手にする。
直ぐに出るかと思ったが、なかなか出ないコールに嫌な汗が出る。
やはり迷惑だったか・・
もう5回コール音を数えたら切ろうかと思った時
「はい。笠原です・・」
と、愛しい聞きたかった声が聞こえてきた。
うっかり反動で
「あほう!直ぐ出ろ!」
と怒鳴ってしまった。そんなつもりは無いのに・・
「すみません!教官から電話だなんてちょっとビックリしたから・・」
電話の向こうで敬礼でもしていそうな声に苦笑いをしながら
「迷惑だったか?」
と、つい思っていた言葉が出てしまった。
そんな事を聞いてどうする。
ただ、今日はご苦労だったな ぐっすり休め と言って切ればいいだけなのだ。
「迷惑だなんて・・。嬉しいです」
思いがけない言葉に息をのむ。
「そうか。ならいい。今日はご苦労だったな・・」
そこまで言い掛けた時に
「教官。お願いがあるんですけど・・」
郁の言葉に遮られ、また息をのむ。
「どうした?」
「魔法の手・・」
「魔法の手がどうした?」
「やだ、私何言ってるんだか。じゃなくて・・あのォ。やっぱいいですっ!」
何がどうなっているのかさっぱり分からない。
魔法の手って何だ??
「おい!気になって寝れなくなりそうだ。ちゃんと言え!」
その後、携帯電話から叫ぶような郁の声と、その後ろから柴崎の笑い声が聞こえてきた。
「教官の手で頭をポンポンして欲しいです!じゃないと寝れません!」
堂上は、思わず携帯電話をその場に落としそうになった。
お前、天然にもほどがあるぞ。
顔がカアーっと赤くなるのが分かった。
次の瞬間
「よし分かった。じゃあ今から直ぐにロビーに来い!」
そう言うと、郁の返事も聞かずに電話を切っていた。
・
・
「教官の手で頭をポンポンして欲しいです!じゃないと寝れません!」
郁は、思わずベッドの上で正座になり叫んでいた。
後ろから柴崎の大笑いが聞こえてくるが、この際無視だ。
「ちょっ・・教官?」
急に切れた電話に、自分で誘っておきながら今更ながら戸惑う。
「笠原。やるじゃない。で、教官どうだって?ポンポンしてくれるって?」
柴崎の問いかけに郁は呆然と座り込みながら
「・・すぐ来いって・・」
と、呟く。
「まあ!」
柴崎は嬉しそうにポンと手を叩くと
「なにやってるのよ。すぐに来いって言われたんでしょ。ほら、行きなさーい」
躊躇う郁の背中を押した。
fin.
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郁ちゃんにとって堂上教官の「手」って『魔法の手』なんだよね。
私もそんな手の持ち主に出会いたいものだ。
と言うより、郁ちゃんになって堂上教官に ポンポンしてもらいたいなー。
と、妄想が膨らみますねー(^^ゞ