武蔵野劇団 秋の公演

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秋まっただ中の文化の日。
武蔵野第一図書館では『読書の秋。秋の夜長にあなたの一冊を見つけよう!』
と、秋の図書週間と銘打ってイベントが行われていた。

この時期の小春日和も手伝って、今回は図書館前のイベント広場が劇団発表の舞台に設定され
ていた。
芸術の秋ということもあり、外のイベント広場ということもあって、部隊披露は図書館側だけでない。
いろんな団体からも劇に限らず、歌あり、手品あり、お笑いありとパフォーマンスが繰り広げられる
ことになっている。

そしてその周りにはお好み焼き屋や、たこ焼き屋、ホットドッグなど、出店もあって賑わっていた。

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午後の部が始まって、子供合唱団の可愛い歌声が、特殊部隊の事務室にも流れてきていた。

「今日は天気もいいし、声がよく通るみたいですねー」
郁が楽しそうに、誰に言うでもなく言うと
「客に入りもいいようだな」
玄田も満足そうに言いながら、これからの出番に向けて既に支度も万端だ。

「隊長、もう着替えたんですか?早いですねー。私たちの出番最後ですよ」
「気分だ」
ガハハハと豪快に笑う姿は、いかにも役になりきっている。
「笠原、お前も早く着替えてこい。その気になるぞ」
「は・・はあ・・」
それにしても、その恰好で歩き回られても・・と、流石に郁も苦笑いするしかない。
まあ、玄田だから・・と思うしかない。


出演団体の演目に関しては事前のチェックもあったが、良化隊が目を光らせてい無いわけではな
い上に外会場のイベントでもあり、それなりの警備も必要となる。
堂上班とそれに参加する者はイベント参加になっているので、今日に限っては班行動というわけに
はいかず、既に朝から防衛部と合同で臨時シフトが組まれていた。

午前中に警備の仕事を終えて、劇団は出番に向けて各自用意を始めようとしていた。
ただ一人、未だに納得がいかないと不貞腐れている人を除いて。

あら?
目の前の通路を横切って行った人に思い当って、柴崎は歩く速度を速める。
そろそろ着替えておかないと出番に間に合わない筈の人だ。

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一ヶ月ほど前。

キャストが緒方副隊長から発表になる。
その横で楽しそうに含み笑いをしている玄田をジロリと見てから緒方は溜息をつき、
「俺の口から言うのは気が引けるので、この紙を貼り出しておく。堂上班を中心によく見ておくように」
ゆっくりとした口調でそう告げると、持っていた紙を上に掲げた。
「おい!緒方!なんだそりゃ」
ガクッとこけた玄田に緒方は、堂上にチラッと目をやりながら
「だったら隊長から発表願いますが・・」
と、言うので玄田も仕方ないといった顔をする。

何かあるな!?
そのやり取りが全員の気を引きつけて、貼り出した紙に殺到した。


今回の劇の演目は『シンデレラ』
ところが前回同様、内容が全く違っており、原作とは全く関係ない展開になっている。
 
    シンデレラ/笠原 、 王子/堂上 、 継母/高田 、 
    姉1/進藤 、 姉2/手塚 、 魔法使い/柴崎 、 
    王様/青木 、 家来/小牧 、 クマ/玄田 、・・・・・
    
「クマ?」
「隊長!なんで熊が出てくるんですか?」
ワイワイ騒ぐ隊員に一言
「気分だ!」
と言って玄田はガハハハと豪快に笑った。
どうやら前回の着ぐるみを今一度着たかったらしい。

業務部からも継母役や、舞踏会シーンで踊る踊り子A、Bなどの数名が、防衛部からも数名参加者
が居た。

そして王子役の堂上に話が及ぶ。
全員の視線が堂上に行くが、すでに察知して逃亡したようでそこに居ない。
「なんだ 堂上逃げたな」
と一人が言うと、ドッと笑いが起きた。

そしてもう一人・・。
手塚は貼り出された紙を見て青ざめていた。

  ・・なんで俺が「姉2」?・・ 女かよー勘弁してくれ!

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柴崎は歩調を速めて、角を曲がって後を追う。
「堂上教官!」
声を掛けると、ビクンとして立ち止まったその人が振り返った。

「どうしたんですか?こんな所で。着替えないと間に合わないんじゃないですか?」
ニッコリと微笑みながら近寄る。
「あ、ああ。ちょ、ちょっとな」
歯切れが悪い。
「まさか、敵前逃亡?とか、ないですよね?」

「・・大丈夫だ。それは無い」
いたずらを見つかった子供のように、バツが悪そうにうつむいて応える堂上は
「それは無いんだが・・あの衣装がどうもな。あれだけは着たくない」
それを考えて歩きまわっていた と告げる。

「じゃあ、こうしません?最後はアドリブでやっちゃいましょうよ」
柴崎には考えがあるようで、持っていた台本を出すと何やらそこに書き込み始めた。
「・・おい!」
それを読んだ堂上はビックリするが、眉間に皺を寄せて考えた後、納得したように答えた。
「そうだな。よし、分かった」
不本意だが・・と続ける。

「本番頼みましたよ、堂上教官。笠原も喜ばせてやってくださいね」
と、いらない一言を付け加えて、柴崎はニッコリ笑ってその場を去った。
それを苦々しげに見送って、

よし!

と腹をくくり、堂上は更衣室へと向かう。


笠原が楽しむ!?訳は分からんが、王子様よりはマシだと、堂上は自分の中で折り合いをつける。
そして、王子様の衣装ではなく、自分のロッカーの中から制服を取り出した・・

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プログラム最後の図書隊の劇が始まり、会場は最高潮に達していた。

 虐げられている末娘のシンデレラ(郁)が、ある晩いつものように姉二人に難題を持ちかけられて
 外に買い物に出掛けたところで、森の中へと入り込み道に迷う。
 そこへ、腹を空かせたクマ(玄田)と出くわし、危うく食べられそうになる。

 「こんな汚い身なりの私なんて食べても美味しくありません」
 と郁が大根役者ならぬセリフを言うと玄田は
 「そうか。じゃあ、会場に美味しそうな子はいないかー」
 なまはげ よろしく、舞台から降りてアドリブいっぱいに大はしゃぎだ。
 「ちょ、ちょっと!た、隊長!」
 郁の叫びで会場は大爆笑になった。

 本来なら ああ、もう危ない・・と言うところで王子さまと家来が通りかかるところだったが、急な展
 開で、慌てて王子(堂上)と家来(小牧)、他数名がクマ退治とあいなった。

 やれー、そこだー と観客からも声援が届き、舞台の下に降りているということもあり、元気のいい
 子供達が飛び入りで蹴りなんかも入れて去っていく。
 舞台に戻って熊を撃退し、一件落着!

 「ありがとうございます」
 助けてもらったお礼を言って去って行ったシンデレラの後に残されたのは一冊の本。
 かなり読み込まれたと思われるその本を便りに、持ち主探しが始まって――

 本好きな人の為の、そして残された本をポスターに入れて舞踏会の開催が告知される。

 あれから王子様に恋い焦がれ、また会いたいシンデレラは舞踏会に出たいが、そんなドレスなど
 持っているわけも無く、母や姉たちが綺麗なドレスをまとって出かけて行くのを悲しく見送ると・・

 柴崎扮する魔法使いが現れて綺麗なドレスと素敵なガラスの靴、馬車を用意してくれて・・
 「さあ行きなさい。あなたには行く権利があります。あの本はあなたの本ですものね」
 と、とびっきりの柴崎スマイルを見せる。

実際のところ、モデル並みの郁がドレスを着たら歓声が上がらないワケも無く、堂上もその姿にしば
らく見惚れて固まっていた。
そして、これは劇だ 劇だ と頭の中で何度も繰り返していた。

しかし、これは・・・

舞踏会のシーン。
さっきまで恥ずかしながら王子の格好を取りあえずしていた堂上が制服に着替えた。
いつもの制服ではなく、祝典などの時に着る礼装だ。
そして、そのまま舞台に上がる。

今度はそれを見た郁が固まってしまった。
・・えっ?何で制服?? 
でもその姿は凛凛しくて素敵で。
会場からも わー っと歓声が上がった。

 最後には王子は実は図書隊の人で、こんなに大事に本を読む人をお妃に探していたという。
 そしてその本に書かれていた内容を言い当てたシンデレラが持ち主と分かり、舞台中央でダンス
 を踊り・・  めでたし めでたしで終わった。

会場はやんやの喝采。
「また頼むぞー!」
の声に 堂上はどっと疲れを感じていたのだった。
 
 
終わって舞台袖に下がった後だ。
近くを通って行った女子高校生の話声が聞こえる。
「さっきの見たー?」
「うん。見た見た!何か結婚式みたいだったよねー」
「そうそう!花嫁と花婿みたいだった!」
「ちょっと花婿の背が低かったけどねー」
「あー、でもカッコ良かったから関係ないよー、それは」
・・・

それは、ほんの一瞬、通り過ぎる間に聞こえてきた会話。
そこにいた一同の動きが止まる。
そして一斉に顔を向けた先には、耳まで赤くなった堂上がうつむいてそこに立っていた。

「いいか、お前ら。笠原に余計なことを吹き込むなよ!」

その一言で小牧の我慢が限界にきて、
「堂上、それって意識しすぎじゃない?でも、一気に花婿って出世したねー」
と、上戸が始まった。
「それは何の冗談だ?」
ギロリと睨むが、赤くなった顔ではまったく迫力もあったもんじゃない。
「素直が一番だよ。堂上」
「バカ。変なこと言われて照れてるだけだ!」
「へえー。照れるガラかねー」
「うるさい!」
「拗ねない、拗ねない」
もう何を言っても小牧にはもてあそばれるばかりだ。
「先に着替えに戻る」
皆を振り切って、その場を離れた。
 
舞台では今日の最後にビンゴ大会が始まったばかりだ。
ふいに郁の声が聞こえてくる。
堂上がその声に目を舞台にやると、そこにはあのドレスのままの郁が手伝っているのが見えた。

さっきまでの、あのはにかんだ郁では無くて、いつものような元気のいい郁に、フッと顔が緩む。
つい、誘われるようにジッとその姿を見つめていた。
うっかり、あの制服のまま・・。
そして、それは当り前にとても目立っていて。

それに気がついたビンゴの司会をしていた業務部の図書隊員が舞台上から声を掛けた。
「皆さん。ここに居る笠原さんと共に舞台で素敵な王子様を演じた堂上二正が通路脇にいらっしゃ
います。上がってもらいましょうか?」
会場が一斉に どこどこ? のざわめきになり、近くにいた人達に押されるように舞台に上がらされ
ることになった。
「いや、俺はいいから。おい・・」
の声も空しく・・ 郁からも
「教官。こっち、こっち」
と笑顔で手を振られてしまって――

「あれ?堂上?着替えに戻ったんじゃ・・?」
進藤一正の声に、振り返った小牧が横隔膜が痛くなるほど笑い転げることになったのは言うまでも
無い。
「何やってんだ、あいつ」
クックッ・・

                                         fin.