愛しくて

「何だか不思議です」
堂上にもたれかかりながら郁が呟く。


公休に堂上に誘われてデートに出掛けた帰り道。
まだ寮には帰りたくなくて寄った公園。
ベンチに座り、話はつきない。
ほとんど話しているのは郁で、堂上はクルクルと変わる郁の顔を見ながら話を聞いていた。

「さっきからずっと、私だけしゃべってませんか?」
「そうか?」
「そうですよー。教官も何か話し、ないんですかー」

一人でしゃべっていてバカみたいです と、膨れる。
ちゃんと聞いてます? と、しかめっ面。
そうなんですよ! と、驚いたような顔。
えへへ とニッコリ笑う、可愛い顔。
口を尖らせた すねた顔。

堂上には どれもこれも見飽きることも無く、それだけ見ていれば幸せだと思えていた。
「お前を見てるだけで俺はいい。可愛いな」
つい、ポロっと口をついて出た。

―― えっ!
振り向いた郁の顔が赤く染まっていて、それだけで堂上はそそられる。

「やだー。教官ってばー」
そう言って郁は、無意識に腕を取って抱きついて、ハッと気づいて離れる。
職場でも見せる、百面相のような郁だが、プライベートで自分だけに向けられたソレが、すごく大切
に思えて、堂上は郁を抱き寄せた。
「おい。今日初めて会った二人って訳じゃないだろう」
笑いながら頭をポンポンと叩く。

だって・・。

ん?どした?

抱き寄せた腕の中で郁が「大好きです」と呟いた。
アホウ!触れて来て慌てて離れた奴が、そう言う事を不意に言うか、普通。
不意を突かれて、俺も好きだ と言い損ねたが、代わりにギュッと抱いた腕に力を込めた。

「何だか不思議。こうして教官と一緒に居られるなんて」
堂上にもたれかかりながら郁が呟く。
「そうか?」
俺はずっとこうなりたかったがな と続ける。

「私が教官の特別になれるなんて、全然思わなかったから・・」
特別という言葉に心臓が跳ね上がる。
それは俺の方だ。そもそも俺の事など眼中になかったはずじゃないか。

もうお互いの全てを知った関係になってかなり経つのに。
どこまでも付き合い始めた時のように初々しい郁だ。
ギュッとしがみついてくる感触が、きっと天然だから本人はそんなつもりは無いのだろうが、何だ
か誘われているようで体の底から疼いてくる。
仕事中なら我慢できるものでも、プライベートだと、理性の針の振り幅があっという間に振り切れ
てしまいそうだ。

「郁。それを言うなら、俺の方だぞ。俺だけがお前の事を好きなんだと、どれくらい思い知らされた
かしれないからな」
「あ・・最初は噛みついてばっかでしたね」
郁は スイマセン と首をすくめる。
堂上はそれに
「それはお互い様だがな」
と、笑って返す。

郁はそんな堂上の横顔を見ながら 教官 と呟く。
ん?なんだ? 覗き込むと
「教官のその笑顔、大好きです」

って、それもやっぱり天然だからか。
はにかんだ、少し赤くなった顔でそんなこと言うな!

「教官?顔、赤いですよ?」

もうダメだ。
理性の限界の壁が崩れていく音が自分の中で警告を響かせる。
まだ日も暮れてないっていうのに。
辺りはは、まだ遊んでいる子供達の声も聞こえている。

教官? 

可愛く覗き込む郁に堂上は、
「あんまり可愛い顔でそんな事言うな!」
と、少々理不尽な言葉で返す。
本当に、いろんな意味で俺はこいつには弱い。

・・帰したくなくなる

明日は仕事なのに、ついそんな事を口走ってしまう。
郁を抱き寄せた手にも力が入る。
そして、郁の言葉に更に自分を窮地に追い込んでしまう。

「私も、まだ帰りたくないです」


・・・

                                              fin.
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