
本当はね、そういう店は柄じゃないと思ってた。
それまでは――
可愛いキャラクターなんかが売られいる、女の子に人気のファンシーショップ。
中学生の頃、鞄に付けていたら片思いの男子に「似合わない」って言われて笑われた。
それからは持ち物に付けることすら よしてるんだけどね。
でも見るだけなら・・と思って立ち寄っただけだった。
だって、実を言うと、可愛いぬいぐるみとか、グッズは好きなんだ。
誰にも見られてないよね・・と思って、ちょっとだけ・・と思って店内に入ってみた。
最近オープンしたその店は、いつだって賑わっていて。
限定モノとか、懐かしいモノとかもあるし、何といっても可愛いんだもの。
悲しいかな、それが似合わないんだけどさ。
そして、見てしまった。
目の錯覚かと思った!!
だって・・・目の前には、あの鬼教官の「堂上教官」が居るんだもん。
ビックリだよね。ホント、ビックリしちゃった。
ジッと様子を伺ってみると、帽子を深めに被った教官は、どことなく落ち着かない様子で店内を
歩きまわっている感じ。
迷っているのかな?それとも・・?
何だか妙なギャップを感じて、笑いしか出てこないんだけど。
教官ってば、こういうのが趣味なんでしょうか・・ふ〜ん。面白すぎる!
でも、どう見ても店内のお客さんからは浮いている存在であるのは確かなようで。
うっ・・ダメだ。やっぱり笑える・・クックッ
これは、なんだな。あれだ。
ここはひとつ写メっとかなくっちゃね。
と、鞄から携帯電話を取り出したところで見つかっちゃったわ。
あーん、貴重な証拠写真になるハズだったのになー。残念!
と思ってたら、ゲンコツが・・
なんでさー。
「どうせこの似合わない姿が滑稽で、後で俺を笑い物にでもする気だろう」
って、お見通しですね・・
何でもお見通し〜 って歌、昔流行ってたって・・おい、そんな場合じゃナイ
そして結局買い物に付き合わされちゃったんだけど。
店内はもう、可愛いモノばっかりでね、ウキウキしちゃう。
でも、やっぱり似合わないんだな・・これが。
いいんだけどねー
手にしたモノを棚に戻し、溜息をつく。ふぅ〜
そして見つけた。
懐かしいソレ。
あの時「似合わない」って言われた『ももイルカ』のキーホルダー。
苦い思い出と一緒だけど、やっぱり可愛いって思っちゃう。
手にとって繁々と眺めてたら教官に「なんでイルカがピンクなんだ」と怪訝そうに言われちゃった。
あはは!
それが可愛くていいのにねー。
そもそも教官は、この手の店は苦手らしくて、どれ見ても同じに見えるんだそうな。
大笑いだー!
まあ、苦手な人はそうなんだろうなー と、心のメモ帳にメモっとくわ。
聞けば妹さんから頼まれた買い物だったらしいけど、妹さんって聞くまでは胸がキュンとしたのは
なんでかな・・
教官の特別な人が居るのかと思って、シュンとしちゃったけど・・
なんでだろ・・
でもね、帰りに「教官マジック」をもらって、元気が出ちゃいました。
まさか買った物で私の周りをあんなことに・・
買ったぬいぐるみとか、汚れたって妹さんに怒られたりしなかったのかな?
って、そんな心配よりも、あ・・ごめんね妹さん。
本当に、こんな戦闘職種の大女の私でも、大丈夫ですか?
もう、気にしなくていいですか?
「悪くないんじゃないか」
その一言、どんな言葉より胸に響きます。
そっか、私でも大丈夫なのね・・って。
少なくとも、教官の前では大丈夫で居られるなら、それだけでいい気がするのは何でかしら――
で、職場で鞄に付けてみたの。
教官にもらった『ももイルカ』のキーホルダー。
他の誰も知らない、二人だけしか知らないキーホルダー。
なーんて、ひとりごちてた。
そしたら・・教官の目が怖いのは気のせいかな・・?あれぇ?
「笠原っ!」
呼ばれて、アゴでこっち来いと言われる。
何だろうとついて行くと
「貴様、何のつもりだ?」
と言われて慌てた。
「やっぱり、私があんな可愛いのつけてると似合わないですよね」
流石に落ち込んでしまう。
「すぐに外しますから・・」
そう言って、その場から逃げるように踵を返すと後ろから「そうじゃない」と怒鳴り声。
何で怒鳴るのよー もう、ワケ分んない。
後ろを振り返ることも出来ずに事務室に戻ると、すぐさま鞄から『ももイルカ』を外す。
自分でも分からないけど涙がにじんでいた。
外したばかりの『ももイルカ』を両手にくるんで頬にあてる。
バカみたい・・ バカみたい・・ バカみたい・・
中学のあの頃とおんなじだね。
胸がキュンと痛むのは、何でかな――
「どうしたの?何かあった?」
小牧教官に声を掛けられ、慌てて『ももイルカ』を鞄にしまい込む。
何かしゃべったら本当に泣き出してしまいそうだったから、いいえ とだけ言ってペコリとおじぎを
して、事務室からも逃げ出した。
堂上教官の「悪くないんじゃないか」が、頭の中でグルグルして・・
あれは、夢だったんじゃないかなと思う。
・
・
「そうじゃない」と叫んだが、聞こえてないのか振り向きもしないで走り去っていきやがった。
俺もたいがいバカだと思ったが、アイツはいったい何なんだ。
「やっぱり似合わないですよね・・」
と言った時の悲しそうな顔がチラついて離れない。
堂上は、眉間に皺を寄せた顔のままで事務室に戻ると、小牧に待ってましたとばかりに声を掛け
られた。
「何があったか分からないけど、笠原さん泣いてたよ」
泣いてた?
眉間の皺が更に深くなる。
「で、笠原は?」
「飛び出して行っちゃったからね、何処行ったのかは・・ねぇ」
「そうか・・」
取りあえず、席にドカッと腰を掛けたら
「あれ?探さないの?」
と、当たり前のように言われてすっかり苦り切ってしまう。
「そうだな。班内のゴタゴタを納めるのも班長の務めとしたもんだろうからな」
「あれ?ゴタゴタしてるの?」
「・・・」
余計な事を言ってしまったと思ったが、もう遅い。
「そういうわけじゃない」
そう吐き捨てて、事務室を出た。
笠原はいつも、普通の女性はそんな場所に居ないだろうと思うような、思いもかけない場所で泣
いている。
今回も見つけるのに一苦労だった。
・
・
「またこんな場所で何やってる」
しゃがみ込んでいたら、堂上教官に上から声を掛けられた。
見上げると目が合って、ドキンと心臓が跳ねる。
「まったく・・何で植木と置き石の間に挟まるように隠れてるかな、貴様は。もっと女性の居そうな
場所にいろと言ってるだろう」
いきなりの不機嫌そうな声に、気持が萎える。
「すいません・・」
「それからな、アレは別に似合わないとは言ってないし、取り外せとも言ってないぞ」
声のトーンが変わった?気がして教官を見ると、ちょっと照れたふう?
「だって、とっても嫌そうだったから・・」
「そうじゃない。ちょっとビックリしただけだ。私物につけても、まさか職場の鞄に付けると思わなか
ったからな」
「あ・・」
やっぱり、職場は嫌なのかな・・ それは私だから?
そんな不安が伝わったのか
「勘違いするな。言っただろ。ビックリしただけだ。もちろん職場の鞄でも何につけてもお前の勝手
だ。お前に上げたんだ、もうお前の物だからな」
急に優しくて、心臓がまたドキッと跳ねた。
「いいんですか?」
「当たり前だ」
そして後日――
「笠原ちょっといいか」
と言われ、席を外して事務室から出た。
「何でしょうか?」
また何かヘマでもやらかしたのかなー って思っていたら「手を出せ」と言われた。
手?と思って、取りあえず出してみると、掌にポンと小さな包みが・・
「それ、お前にやる」
「へっ?」
「へっ?ってなあー。もうちょっと女らしく言えんのか。まあ、お前にそれを期待するのも無理っても
んか」
「それ!失礼千万なんですが!」
そう言いながら、掌の中の包みを開けると――

「こ、これ?」
「いらなきゃ捨ててもいいぞ。ちょっと見つけたからな。こないだ泣かせたお詫びだ」
お詫びって、そんなのいいのに・・
照れてるふうの教官が何だか可愛くみえる。
「あ、ありがとうございます」
そこには可愛いビーズの『ももイルカ』のキーホルダーが揺れていた。
fin.
今頃ですが、デラ版のLaLaからです。
娘がビーズのももイルカを友達からもらってきたので
載せたかっただけなんですけどねー汗