ホントに大好き

設定・・婚約後
堂上からのプロポーズを受け、二人で図書特殊部隊への報告も済んだ。
隊の皆の祝福も盛大で、逆に郁は、こっちが恥ずかしくなるほどだった。
私、本当に堂上教官と・・ううん、篤さんと結婚するんだ――
そう思っただけで、胸がキュンとする。
柴崎に言ったらきっと、また純情乙女とか言われそうだけど、仕事の時はどうにか抑える事ができる
感情も、一旦プライベートだと思っただけで、郁は堂上の事を思うだけで胸が切なくなってくるのだ。
こんなんで毎日一緒に暮らせるんだろうか・・。
小さな胸がこのままプシューっと潰れて無くなってしまいそう。
目を瞑っても、例えば歯磨きしていても、着替えている時でも、「結婚しよう」と言った堂上のはにか
んだような照れた顔がフッと脳裏を過って、それだけでもうパニックになる。
あんな顔、普段じゃ見られないもん!――
柴崎に言ったら、レアな顔にギャアギャア言われそうだし、強い酒ちょうだいとまた言われるに違い
ない。
もう好き過ぎてたまらない。
これじゃ仕事にならないよー と一人叫んでまたパニックに陥る。
ダメ駄目こんな事じゃ!気合入れていかなきゃね!――
パンパンと頬を叩いて、よーし!! とまた叫ぶ。
「何やってんだ?一人芝居でもやっているのか?」
そんな郁を見ていたのだろう、振り返らなくても分かる。怪訝そうな声は、堂上の声だ。
そして一緒にクックッと小牧の笑い声も聞こえてくる。
今振り向いたら、きっと赤くなったこの顔を見られて、どう思われるか・・と思うと ひゃあ と胸がまた
跳ねる。
「あ、あの・・。えーと、今日は暑いなーなんてねー。ははは・・」
「何言ってんだ?」
仕事中とはいえ、隊へ婚約の報告も済んだばかりで、恋人の様子が変だと思えば堂上と言えども
心配の方が先に立つ。
「確かに暑いが、そんな顔が真っ赤になるほどじゃないぞ」
「うっ・・」
それを言われると、元も子も無いんですけど・・
「ご両人、ほどほどにして仕事に戻ってね」
「小牧、余計な詮索はしなくていいぞ!」
「わかってるよ」
二人を交互に見ながら小牧は笑いながらその場を後にする。
口ごもってモゴモゴと言っていると、ちょっとこっち来い と手を引かれて、庁舎の陰に引っ張り込ま
れた。
きょ、教官?
思考が寸断されて、郁はもう頭が真っ白になる。
「ちょ、これって公私混同・・」
「今は俺が許す」
えーっ、それって思いっきり職権も乱用!?
更にパニックが増殖だ。
「で?何した?」
アワアワしているのに郁は、いつもの堂上とは違った、心配顔の堂上見て、更に胸がキュンとする。
ああーこの人のこと、ホントに大好きだ!!
思ったら止まらない。既に感情のリミッターは振りきれている。
「篤・・さん・・」
しっかり言ったつもりが、かすれた声になり、自分でも慌てる。
それが堂上にどう伝わったのか分からないが、急にギュッと抱きしめられるかたちになった。
「アホウ!そんな声で呼ぶんじゃない」
そして 今は職務中だろう と言われるが、さっき堂上自身が職権乱用したハズだったので、郁は
そっちこそ と思ったが、それは言わずに胸に収めた。
「・・で、いったい何した?」
抱きしめられながらの堂上の問いかけに、郁は答える事は出来ずに逆に力を込めて抱きついた。
ワケ分らなくなっちゃったけど、だってそれが答えだから・・。
おい!仕事中だぞ。いくらなんでも・・――
堂上は抱きしめたのは自分だという事はすっかり忘れて、この状況をどう納めるか、理性を掻き集
めて落ち着こうと努力する。
その理性も、いつ振り切れるか分かったもんじゃない事も、堂上は自分で分かっていた。
ヤバイな――
残った理性で、どうにか自分を保つことに必死だ。
とにかく郁を落ち着かせて、仕事に戻らなければいけない。
誰かが探しに来たら、アウトだ。
何をまたからかわれるか分かったもんじゃない上に、この先もしかしたら、二人でこうやって仕事が
出来なくなる状況も起きうることも視野に入れなければならなくなるからだ。
公私とも四六時中一緒なんだから、と言われたらそれまでだが、いつも一緒に居られたらと思う。
とにかく、迂闊な郁の事だ。何をしでかすか分からない。
自分の手から離れた場所にいたら、自分が仕事が手につかなくなるに決まっている・・と、そう思っ
ても仕方ないだろう。
だから、ずっとこのまま一緒に居たい。
「郁・・」
名前を呼びながら、頭に手を乗せて、いつものようにポンポンと叩いてからクシャクシャと撫でる。
「落ち着け。大丈夫だ」
堂上は、自分にも言い聞かせるように、心がけて落ち着いた声でそう言った。
そして、敢えて郁を自分から引き離す。
そう。すべては、自分を落ち着かせる為。そして、仕事に戻らなければならないという責任感から。
理性のすべてを総動員する。
ふうーっと一つ溜息をついてからクシャクシャ頭を撫でながら
「郁、これからずっと長いんだ。公私混同だけはよそうな。しかし、いつも一緒だということは忘れるな
よ」
と、言う。これも自分にも向けた言葉だ。
何も今までと変わらない。
ただ、自分達の気持ちの問題。婚約したという事実が、少しだけ気持を高ぶらせる。それだけだ。
ところが郁は堂上の斜め上を行く。
郁はそれにコクンと頷いて、ジッと堂上を見ると
「頭では分かってるんですけど。でも、なんだか幸せ過ぎて、篤さん見てるとクラクラしてきて・・」
そう言いながら人差し指を唇に当てると
「自然に目が口に行っちゃうとキスしたいなーとか思っちゃうし」
「お前なぁ・・」
いきなりの郁の言葉に堂上が口籠る。
「あれ?篤さんは思わないんですか?えー?」
「バカ!そんな事ばっかり考えてたら仕事にならんだろうが!」
眉間に皺を寄せて、説教口調になる堂上に郁は、
「そうですけど・・」
とプウっと膨れる。
「何だかつまんないですー」
「つまるとか、つまらないとかの問題じゃないだろう?」
「だってぇ!仕事はちゃんとしてればいいんですよね!そしたら、いつだってそんなこと思ってたって
悪くないじゃないですか!」
何だか自分だけ好きみたい・・篤さんは仕事中は好きとか思ってくれないんだ・・と郁はブツブツ呟く。
「もういいです!」
そして急に畳まれた郁の言葉に堂上は呆気にとられた。
「何だか私一人で舞い上がってるみたいで、バカみたい。すいませんでした!」
堂上を力任せにバーンと押すと、踵を返して走り出す。
何でこうなるんだ?今更俺の気持ちを疑うようなことを何で・・――
男として、上官として、自分まで感情に流されまいとして、何でこうなるんだか・・。
無線で小牧に連絡を入れる。
「悪い。もう少し時間掛かりそうだ。何かあったら、連絡くれ」
「仕事に支障きたしたら、俺もフォローしきれないから気を付けてね」
そう心配そうに言いながらも、上戸が入ったのが分かる小牧に頭が痛くなる。
後でまた、相当からかわれる事必死だ。
今までの経験上、泣いてる郁が居る場所はだいたい見当がつく。
片っ端から探すと、案の定植込みの陰に座り込んでいた。
真上から見下ろしながら声を掛ける。
「お前はまったく、いつもいつも・・」
郁は堂上だと分かっているから顔を上げないでジッとしている。
「いい加減拗ねてないで、出て来いよ」
「拗ねてなんかないですから」
突っぱねるように応える郁に、さてどうしたものかと堂上は思いながら郁の頭に手を乗せてクシャク
シャと撫で始めた。
「お前が俺の気持ちを疑ったら、どうにもならんだろう。俺はこれから先、職場以外でもお前と一緒に
居たいと思ったし、お前以外の女は考えられないからお前に嫁さんになってもらいたくてプロポーズ
したんだが、それを疑われたら俺はどうしたらいいだ?ん?」
郁は堂上が言い終わらぬうちに立ち上がると、しがみつくように抱きついた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。だって・・」
そう言う郁を堂上はギュッと強く抱きしめる。
「アホウ!」
「私、本当に大好きだから。どんな時も」
「俺もだ」
**
「堂上達、なかなか戻ってこないけど、今日はあいつら早引けにしとく?」
無線連絡を受け取った後、小牧は手塚にそう言いながら、盛大に噴き出している。
「何かあったんでしょうか?」
手塚は難しい顔でそう応えるが、上官の小牧が大笑いしているのでワケが分からない。
「何かあったんだろうねー。まだまだ時間掛かるらしいし?」
「笠原がまた何かやらかしたとか・・」
「まあいいじゃない。将来を誓い合った二人なんだし。ほっとこう」
クックッと上戸が入りながら小牧は、
「どうせ、もう少しで終わりの時間だしね」
と言う。
そして、 今晩の酒は美味そうだなー と呟くと ね、手塚 と言ってニッコリと微笑んだ。
fin.
蜂蜜さんのリクエストです。
ありがとうございます。
「ベタ甘を読みたい」との事でしたが、R指定無しのベタ甘って
こんなんで良かったかしらと・・汗
ご希望に添えてなかったら、ごめんなさいですm(_ _)m
まあ、その先なんだかんだあるんだろうな・・と。
まあ、いちゃいちゃ仲いいんだろな・・と。
で、小牧に突っ込まれてまた撃沈するんだろうな・・と(^v^)
(2008.12.17)