
小鳥のさえずりが聞こえる。
窓から朝の日差しがキラリと差し込んでいる。
何だか身体がだるいような・・
頭も何だか重たいような・・
気持のいい朝なのに、ちょっとスッキリしない朝だな――
そう思いながら布団に入ったまま伸びをする。
そしていつものように布団から出ようとして、ハッと息を呑んだ。
ちょっとした違和感があったと言えばあった。
何だかオカシイな?と、思えばそんな気もしたことも確かだ。
郁が息を呑んだワケ。
それは・・
郁の見詰めた先には、未だ目を覚まさずグッスリと寝ている堂上の姿が映っていたのだ。
声も出ずに え?ええーっ?! と叫ぶ。
何で? 何があった? どうして?
頭の中は真っ白で、パニックに陥るが誰に問いかける事も出来ず、一人固まるしかない。
ハッと気付いて自分を見る。
服はちゃんと着てる!! それも、ちゃんと浴衣に着替えてる!!でも、コレ、私のじゃない。
おそるおそる堂上を見れば、堂上も浴衣だ。
もっと正確に言えば、二人とも同じ浴衣を着ているのだ。
!!
これはどう言う事を意味しているのだろう・・?
パニックに陥った郁の脳では、許容範囲を超えていて、もう何も考えられなくなっている。
私、ヤバイことしてないよね。大丈夫・・だよね?
でも、辺りを見渡せば、見慣れない部屋の中。
もう、ワケ分んないよー。
もしかして夢かもしれない。
もう一寝入りして起きたら、きっといつもの自分の部屋に居る筈。あの、寮の部屋に居る筈。
そう思おうとして、ギュッと目をつむる。
目をつむるが、心臓がバクバク言って、なかなか眠る事が出来ない。
・・・?って事は、これって、夢じゃない?
もう一度むっくりと起き上がって、状況を理解しようと全身全霊を掛けて努力だ。
ほっぺたをつねってみると、かなり痛い。・・って事は・・。
これ以上考えても分からない時は、後は堂上を起こして聞くまで。
しかし、起こす事にも一苦労だ。
いったいどう言って、どうやって起こしたらいいというのだろう・・と。
少しずつ落ち着いてきた気持ちを切り替えて、昨日の出来事を自分の細胞を総動員して思いだして
みる。
昨日は図書特殊部隊の新年会があったハズだ。
玄田の傍で、ピッチも速く、いつも以上にお酒を飲まされていた自分が思い出された。
宴会の最後は、残念ながら覚えていない。
頭が重たいのはそのせい?
でも、何で堂上教官と自分がここで一緒に朝を迎える事になっているのだろう・・と考えると、また頭
の中がグルグルになるだけだった。
恐る恐る寝ている堂上を覗き込むが、余程熟睡しているのか、起きる気配すら無い。
ふと思いついて、これ幸いと寝顔を改めて覗きこむ。
普段は憎まれ口ばかり言う上司だけど、その寝顔はとても優しそうで、いい夢でも見ているのか幸
せそうな寝顔に見える。
長いまつ毛、整った顔。
堂上を意識し始めた郁には、いつまでも見て居たい寝顔だった。
もし、堂上教官と結婚できたら、こんな寝顔を毎日見れるんだよね――
何気なくそう思った自分に、真っ赤になりながら思いっきり突っ込む。
「うわあ、何言ってんの私!!ありえないからーーー」
一人騒いでいる傍らで、起きる気配なくなおも眠り続ける堂上。
そんなに疲れてるの??――
でも、このままじゃ困るから、起こさなきゃいけないと焦る。
起こして、事態の収拾を図らなくてはならない。
☆☆☆
その晩、図書特殊部隊での恒例の飲み会があり、玄田に付きっきりで話込まれてしまった郁は、片
手にグラスを持ち続ける羽目になっていた。
どうしてそうなったかは定かでは無いが、郁の飲み易いワインで、アルコール度数も一番弱いタイプ
なら良かろうと言う事になった。
少し味見した玄田に
「なんだこりゃ?水じゃないか。アルコール入っとるのか?」
と、かなり怪訝そうに言われるほどの物を、ちゃんと堂上のチェックが入って了解が出た。
それでも
「分かっていると思うが、弱目だからといっていい気になって飲み過ぎるなよ。いいな!」
と、釘をさされる。
「分かってます。今年は失態の無いようにって誓ったんですから」
鼻白んでこたえると
「お前の分かっているが通用した例がないから言ってるんだが」
と、眉間に皺を寄せて睨まれる。
「おいおい。まあそう言うな、堂上」
玄田は気にする事も無く、高笑いを残して郁を連れて行った。
「心配でしょうがないんでしょ?」
堂上が、玄田と郁が去って行く姿を見ていると後ろからコソッと小牧に耳打ちをされる。
「おわっ。何だ?」
「心配なら一緒に居てあげたらいいのに」
クックッと笑う小牧に
「何の事だ。俺には関係ない」
しれっと返すが
「へぇー。関係ないって分かってるって事は何の事かも分かってるんでしょ」
と、突かれる。
「知るかっ!」
察しの良すぎる小牧は時にうんざりで、相手にしたくない。
が、一歩言い方を間違えると、どこまでもとことん からかいに来るから厄介だ。
「今日も覚悟しとかなくっちゃだね。笠原さん、きっと寝落ちだよ」
面白そうにクックッと笑う小牧にあえて仏頂面で返して
「そうだな。班長として、責任を持って送り届けるとしたもんだろう」
と、何事もない素振りをする。
「班長の仕事も大変だね。俺、班長じゃなくて良かったなー」
「それは良かったな」
あからさまにからかい口調で、さっきよりも上戸が増した小牧が、時として堂上は苦手だ。
そして、玄田が郁を連れて行って数分後。
案の定、寝落ちした郁を堂上が毎度の如く寮に連れて帰る事になる。
「堂上、帰り道送り狼になるなよ」
「明日は公休日だからって、どっかにしけ込む事はないだろうな」
お先に失礼しますと、それもいつものように挨拶を済ませて帰ろうとすると、酔っぱらいの皆からいい
ように野次が飛ぶ。
そんなヤジは無視して、頑なな態度で一礼すると、これもいつものように堂上は郁を担いで会場を後
にした。
その帰り道、寝ているはずの背中に担いだ郁の寝言で、今回も溜息をつく。
最初は戸惑ったソレも、今では慣れっこになっているが、未だに硬直ものだ。
どうじょうきょうかん・・
どうじょうきょうかん・・
どうじょうきょうかん・・
何度も連呼する郁に、どうしたもんかと、何度目かに呼ばれた時につい返事を返してしまった。
「笠原。どうした?」
「良かったぁ。教官がどっかに行っちゃうかと思って・・」
起きているのかと思えば、そう言った後に、スヤスヤと寝息が聞こえる。
ああ、これもいつもの寝言か・・と堂上は溜息をつく。
もう少しで寮に辿り着くといったとき、不意に
「今日はまだ寮に帰りたくないです。もうちょっと教官と一緒に居たいです」
そんな郁の声に、どうせ寝言だろうと、でもそう分かっていても返事を返してしまった。
「ばか言うな。そう言うワケにはいかんだろう」
当たり前にその返事は無いなと思って、フッと自分に笑いが出た。
俺は何言ってるんだか。
少しの間が空いた後、
「教官は私と一緒に居たくないんですね・・」
呟くような郁の声に、歩みが止まってしまった。
「笠原。起きているのか?」
ソレには返事は無い。やはり寝言か。
次の瞬間、堂上の心臓は跳ね上がる。
「教官!」
おんぶしていた郁の腕がギュッと堂上にしがみついてくる。
「何の冗談だ?起きているんだな?」
少しキツメの声色でそう言うと、背中の郁はエイッと堂上から飛び降りた。
そして、目の前のビジネスホテルへと駆け込んだのだ・・
お、おい!!
靴は堂上が持っている。郁は裸足だ。
躊躇している暇は無く、堂上もその後を追いかける事になる。
「何考えてるんだ!起きてるなら帰るぞ!」
堂上の声も空しく響き・・・
堂上が遅れて部屋へ入ってみると、すでに郁は眠り込んでいる。
揺すっても声を掛けても何の返事もない。
溜息と共に、ドッと疲れが押し寄せる。
小牧に煽られ、今日はいつもより少々酒の量が多かったのかもしれない。
そのまま連れて帰ろうと、抱きかかえてみるが、気が変わった。
俺だって、笠原と一緒に居たいんだ――
服が皺になるからと、自分にいいわけを言いながら堂上は郁を着替えさせると自分もホテルの浴衣
に着替えた。
微動だにしない郁をベッドに寝かせ、抱きしめたい衝動に駆られながらも、明日起きた時のいい訳を
考えながら眠る事にするが、隣が気になって眠れない。
悶々とした中、夜が更けていく・・
そして、朝。
状況が分からず飛び起きた郁と、まだまだ夢の中の堂上がそこに居た・・
fin.