【11】
温泉に行こう!!
「なあ 郁」
目の前に座っている恋人は さっきから見ていると 赤くなったり肩をすぼめてみたり なんだか本当
に落ち着かないようだった。
「俺が怖いか?」
そう聞いて あ、そう言えば鬼教官とも言われてたりしたんだったな と別の感想が頭を過ぎり
「上官としてとかじゃないぞ。一人の男としてだ」
そう言うと ぷっと吹き出して郁は笑い出した。その笑顔を見ながら 余計な事を言ったかなとも思っ
たが 功を奏したのかもしれないとも思った。
郁が笑顔になってくれたらそれでいい。いつも元気な郁でいてもらいたい。俺の為に泣かれるのは
一番辛い。
今回は 泣かせたのは 俺だ。
そうだ。
昨晩のメールの事を思い出す。まだ拗ねているようだったら今切り出すのは早いかもしれない。
こいつの性格からして やっぱりいいです と言いかねないからな。どうすればいい。
ここは俺の部屋だ。誰も入ってはこない。そして今はまだ皆は仕事中だ。
仕事中のこんな時間に何やってるんだか という事には目を瞑ることにする。
すでにここに来る前に特殊部隊官舎裏手でキスもしている。
仕事も大事だが 部下も大事だ。しかも部下である郁は俺の恋人だ。慰め方は・・もうこれしか思い
つかなかった。
郁が笑ってくれた勢いで 堂上に迷いはもはや無くなった。
傍に行って抱きしめ 唇を重ねる。何度も何度も角度を変え深いキスをした後 そのまま郁を抱き
上げてベッドに運ぶ。明るいのを嫌がる恋人の為にカーテンを閉める。
「きょ、きょうかん!?・・ここ教官の・・」
驚いている郁の口を唇で塞いだ。肌を重ねたのはまだ数回だが 郁はこれからされることを分かっ
ていた。しかも ここは独身寮内の堂上の自室だ。
そしてまだ皆が仕事中だということが 更に二人の気持ちに火がつくことになった。
*
「怒ってないか?」
ベッドの中で 堂上の胸に顔を埋めている郁の頭を撫でながらおでこに軽いキスを落とす。
コクンと頷くと 郁は
「今こうやって 堂上教官のお部屋に一緒に居る事が信じられないです・・」
と呟いた。
「郁 俺はいつでもお前とこうしていたい。ずっとこうやって一緒に居たいと思っている。だから頼むか
ら一人で悩んでくれるな。俺がいけなかったら何でも言ってくれ。一人で泣かれるのはもっと辛い」
また一つ コクン と堂上の腕の中で郁は頷いた。
郁 可愛い・・ そう言いながら堂上は何度も何度も頭を撫で続ける。
ふと気がつくと 寝息が聞こえてきた。そこで堂上は ハッと我に返る。とっさに時計を見るとそろそろ
帰寮の時間が近づいている。
「郁起きろ。寝るんじゃない」
体を揺すって起こしながら 堂上はいつか近い将来 帰ることを気にすることなくずっと一緒にいれた
らと思った。本当に こんなに 一人の女性にのめり込むとは・・。
「ほら 起きろ」
慌てて身支度を済ませ 堂上が先になって男子寮を抜けて共同のスペースに落ち着いた。
ここまで来れば 誰に見られたところで大丈夫だ。
ずっとそこで話をしていたかのように 缶ジュースを買って長椅子に腰を下ろすと 二人でホッと息を
ついた。それが可笑しくて顔を見合わせて笑う。
「ああ そうだ。そう言えばお前 何か話があったんだろ。旅館の優待券がなんとか・・?」
やっと話を持ち出すと 郁は アッとした顔になり 堂上を見る。
「そう!忘れてました!」
急に元気な郁に 今度は堂上が ぷっと笑い出す。
「いえ 正確には 最初その事で 私ばっかりはしゃいでて教官は全然そんなこと考えてくれないの
かと思ったら なんだか怒られてばっかで自分が情けなくて・・ それで落ち込んで・・」
と 郁は顔を真赤にしながら告白したのだった。