【10】

温泉に行こう!!

玄田に一礼して 特殊部隊の事務所をあとにする。
寛大な隊長に感謝だな。
堂上はそう思いながら郁に目をやると 心なしか笑顔が戻っているように見えた。

今日の俺はどうかしちゃったんじゃないかと思う。
こんな公私混同はありえない。
真昼間から 誰かに見られても仕方の無い場所でキスをしたからか・・。
自分の中の何かのネジが取れてしまったのかと思うくらいだ。

傍らの郁にまた目をやると 郁もまた見つめ返してくる。
口に出してしまうと郁は調子に乗るし 俺も歯止めが利かなくなりそうだから言わないでいるが 俺は
こいつに色んな意味で 本当に弱い。

見つめ返してくる郁が 可愛くてたまらない。愛おしい。
俺は学生か?いったい幾つだ。まさか自分が恋愛でこんなになるとは思いもしなかった。
それだけ 笠原の事が好きでたまらないのだ。

やっと手に入れた恋だ。
何年越しだと思ってるんだ。俺がこいつを嫌いになるわけがない。なれるわけがない。
逆に逃げられる事のほうが辛い。だから 大事にしたい。どんなことがあっても 守る。そう決めた。
俺の大切な人だ。それを こいつは分かってない。俺の愛し方が足りないのか・・。

だから 今日は自分で自分の殻を破ってみたのかもしれない。

これほど大事だということを 分かって欲しいから。



何の言葉も交わさず 寮にたどり着く。
玄関に入ると郁はペコッと頭を下げて 
「堂上教官 今日は本当にごめんなさい。そしてありがとうございました」
と言い 女子寮に向かおうとした。

この時間 まだ多くの皆は仕事中だ。
公休の者が何人か寮には居るだろうが 部屋にいるようで 辺りはシーンと静まり返っている。

「郁・・」
名前を呼ぶと 堂上は郁の腕を掴んだ。
「教官!?」
驚いた顔の郁に 堂上は顔を近づけて 俺の部屋へ来い と郁を引っ張った。
自然と手と手を繋いで歩き出す。

「えっ・・!教官の部屋ですか?」
更に驚いて 大丈夫なんですか と続ける。
「バレたらやばいだろうな」
そう言うと 郁の足は止まり 
「駄目ですっ!そんなヤバイのは駄目です!」
焦ったその様が また無性に可愛くて 
「大丈夫だ。そうなったらその時はその時だ」
と 笑って掴んでいた手をギュッと握った。 本当に今日の俺はどうかしちゃったかのようだ。

誰にも見られる事もなく 部屋にたどり着く。
初めて入る 初めて見る 堂上の一人だけの部屋。心臓は 落ち着こうと思えば思うほど高鳴る。

堂上はドアを閉めると内鍵を掛けて郁に上がるように催促する。

「こっち来て座れ」
そう言われて おずおずと上がり込む。
「さっきより 元気になったようだな」
 ジュースでいいか と言うと コクン と頷くので買い置きのオレンジジュースを冷蔵庫から取り
出し郁の前に置く。こんな時間からビールと言うわけにはいかないので 自分はスポーツドリンク
を取り出す。

堂上も郁を部屋に連れて来たはいいが どうにも間が持たない。何か言おうと思うが 言葉にな
らない。どうしたものか・・。
「落ち着いたか?」
自分自身にも言うかのように 声を掛ける。


郁は郁で なんでこんなことになっちゃったんだろう・・と朝からの出来事を思い返していた。
そして思い出せば出すほど 考えれば考えるほど 自分のやったことが子供じみていて短絡的
で 恥ずかしくなってくる。
そして 特殊部隊官舎裏手でのキス。こんな真昼間にと思うと ひゃあ と顔が赤くなってくる。
 堂上教官 本当に私のこと呆れてないかな・・嫌いになったりしないって言ってくれたけど 
 本当かな・・

郁が伏せ目がちにジュースをチビチビ飲みながら チラッと上目遣いに堂上を見ると 堂上はずっ
と郁を見ていたようで 目が合った。

「落ち着いたか?」

そう聞かれて はい と答えた声は聞こえただろうか。

↑top
←back
→next