【9】

温泉に行こう!!

落ち着いてきた郁をエスコートしながら とりあえず堂上は特殊部隊の事務室へ行く。
歩きながら無線で小牧に報告を入れる。

「そう。笠原さん もう大丈夫なんだね。了解」
小牧の声も 安堵の色がみえる。
同じ班に居て 二人の根の深い喧嘩は仕事がやりずらくて困るから。
「そうだね 事務所で落ち着いたら 今日はそのまま帰寮でもいいよ」
と小牧は返信する。
「ああ。悪いな」
班長で上官で小牧の友人である堂上のその声は 今日に限って言えば かなり弱々しく聞こえた。
いつもの友人では無いかな と思う。が、だからと言って 余計な事は望んでいないと思うから その
まま見守ることにする。

そういう小牧も 最近は恋人の毬江となかなか公休と毬江の都合が合わずに 会えずに居た。
メールのやり取りはしているが 逢いたい気持ちはどうにもならない。
お互いの気持ちは分かりきっている。でも お互いの距離がもどかしかった。

 堂上の心配どころじゃないよな・・

無線を切ったあと 大切な友人には申し訳ないと思いながらも 自分の現状を思い悩んだ。
毬江は 小牧に心配を掛けまいと ひたすら耐える子だ。そんな姿がいじましい。愛おしいと思う。
だからなお更 時間の都合がつけば 飛んで逢いに行きたい。自分がそんなキャラでは無いことも
分かってはいる。
でも 人は恋をしたらどんな人も 彼女と彼と ずーっと一緒に居たいと思うものだ。
一時も離れたくない。自分だって同じだと 小牧は思う。そしてそれはきっと毬江ちゃんも分かって
くれているのだと そう思っている。

 想いは同じ!

ただ心から信じている。それだけだ。

そして大切な友人は 片時も恋人と離れる時は無い。よくよく考えたら これほど羨ましい事は無い。
なのに 喧嘩は毎日の日課のようにしている気がするのは気のせいか・・。

そして今日の喧嘩は キモを冷やすような また業務に支障をきたすような最大級だった。
それがどうにか納まった。やれやれと思う。
当事者としたら やり切れないことこの上ないのだろうと察しはつく。
幸い 自分は傍観者だから 何とでも言えるといえば言えるのだが・・。
落ち着くところに落ち着くとは分かっていたが とりあえず ホッと胸を撫で下ろす次第だ。




事務所に入ると堂上は郁を席に座らせて 自分はコーヒーを入れに立つ。
小牧に 落ち着いたら帰寮してもいと言われたから かなり気が楽になった。郁にもそれを伝える。

「すみません・・」
落ち込んでいるのは相変わらずのようだった。
堂上は何も言わず いつものように頭に手をポンと乗せ クシャっと頭を撫でる。そして抱き寄せる。
事務所には他の隊員も居るのに 今日の堂上は躊躇う事をしなかった。

 それだけ お前が大事だという事をわかれ


ガチャ。
ドアが開いて玄田が入ってくる。
事情は聞いて知っているからか特別驚きはせず 
「おう堂上。見せ付けてくれるな。ひとりモンが目のやり場に困る」
あえて豪快にガハハと笑いながら そんなことを言う。
そして堂上に小声で
「しかしだ、あんまりこういうゴタゴタは仕事に持ち込むな」
と 釘を刺すのも忘れない。
しかも 堂上が郁にするように堂上の頭にゴツイ手を乗せると グシャグシャと撫で回した。

玄田なりの部下への愛情表現なのだろう。
「お前の真似だ」
そう言って もう一度豪快に笑う隊長に堂上は バツが悪いよう苦笑いをして頭を下げた。

「笠原を寮に送ってこい。それじゃ仕事にならんだろ。堂上は早く持ち場に戻れ」
そう言う玄田の顔は優しい。
なんだかんだ言っても 二人を見守ってくれているのだろう。
堂上は感謝しつつ しかしもう一歩踏み込んで玄田の懐に飛び込んでみる。

「隊長。笠原を送ったら 自分もそのまま早退させてください」
「なに?」
玄田の目が一瞬険しくなる。
郁も驚いて堂上を見ている。
「お前分かって言ってるんだろうな。公私混同だぞ」
「はい。分かってます。しかし このままこいつを帰して 気にしながら仕事をするのはかえってよく
ないと思うので」
「ほほう。お前はそんなことはないヤツだと思っているのは俺だけか」
「・・・」

玄田の言っていることは確かな事で 堂上には反発する事もできない。
俯いて唇を噛み締めると
「分かりました。笠原を送ったら 直ちに持ち場に戻ります」
そう言って一礼すると 郁の腕を取って立ち上がらせる。
その間 ずっと郁は無言で堂上を見ていた。
その目に 大丈夫だ と頷いてみせて 行くぞ と声を掛ける。

公私混同も甚だしいよな・・分かってはいる。
でも このまま郁を一人っきりにしてしまうと またクヨクヨよくない事ばかり悩まれそうで いたたまれ
ない事は想像に難くない。傍にいてあげたい。気の済むまで抱きしめていてあげたい。


ドアを開け事務所を出掛かったその時 玄田の大きな声が響いた。
「堂上。お前も具合が悪そうだな。お前も帰っていいぞ」
そう言って 玄田は頷きニヤリと笑った。

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