【8】

温泉に行こう!!

堂上ニ正に見られたら何言われるか・・ と頭を掠めたが とにかくこの場はしょうがないと 手塚が
ハンカチ代わりを承諾して ほら と郁に向き直る。
その手塚が困惑したような表情になる。あ・・ 息をのんでいるようだった。

ややあって郁が後ろを振り返ると 郁の後ろに堂上が立っていた。

「笠・・ 郁」
笠原と言い掛けて 郁と呼びなおす!? 教官それって・・思いっきり公私混同してませんか・・

それには 一緒にいた小牧も 郁の傍にいた手塚も驚いて堂上を見る。

「あの・・堂上ニ正。自分は泣かせるつもりはなくて 話だけ聞いてくれというので・・で自分はハン
カチの代わりをしようと・・」
何を言っていいのか分からない手塚の発言に
「ああ ありがとな」
堂上は 礼を言いつつ 
「郁 話がある」
と また 名前呼びをする。

「じゃ 俺達はあっちで用事があるから」
小牧は まだベンチに座ったままの手塚の腕を引き上げながら歩き出した。
「あの・・」
状況の説明をと まだ何か言いたげな手塚に
「あとは堂上に任せとけばいいから」
と言うと やっと手塚もそれに従った。



堂上は手塚の座っていた場所に腰掛けるなり
「郁 悪かった」
そう言って頭を下げる。
ビックリしたのは郁の方で・・。
「きょ、教官!」
反射で堂上を見ると 切なそうな顔で郁を見ている堂上と目が合った。が、すぐ目を逸らす。

「お前のことを分かってあげれなかった俺の落ち度だ。機嫌直してくれないか」
「教官が悪いんじゃないです。私がこんなだから・・・こんなだから 嫌になったってしょうが無いです」
膝の上で握った拳に更に力が入る。
「アホウ。俺が嫌になるわけないだろう」

そこは中庭の真ん中だった。
ここでラブシーンとは 職務中につき 非常に不味い。
よくよく考えると 今は午後の館内警備中だった。
これはどう見ても公私混同で 職務放棄と言われたらしようがない。
だから抱きしめてなだめたい思いも 何もかも 宙ぶらりんでどうにもならない。

「郁 こっちへ来い」
腕を引いて ベンチから連れ出す。
誰にも見咎められない場所。昼間でも姿を隠せる場所・・それを頭に描きながら 堂上はずんずん進
んで行く。
特殊部隊の庁舎の裏手の木陰。
もし誰かに見咎められたとしても 別の部署の奴等よりはマシだろうと踏んだのだ。

足を止めて振り返るなり 堂上は郁を抱きしめる。
「頼むから・・。頼むから俺がお前を嫌いになるとか考えてくれるな」
「教官・・。だって私こんなだし いつも怒られる様な事ばっかりで・・いいトコ全然無くて・・」
郁はさっきから涙が止まらないでいる。

「バカ!怒って無いと俺がもたないんだ。怒って無いと公私混同しそうなんだよ!」
吐き出すように 堂上が呟く。
「えっ!?・・・それで怒られてるんですか?」
「おい。そこに食いつくな!確かに怒られるような事ばっかりしているのはお前だ」
「もう!どっちなんですか・・」
半分泣き笑いになる郁に堂上は
「お前は そのままでいいんだ。そんなお前の事が俺は好きなんだから」
と囁いた。

そして ほら とティッシュを渡す。鼻をかめと。鼻をかんだあと もう一枚で涙も拭く。
ありがとうございました とティッシュを返すと 持っとけ と言われる。つくづくこんなこともダメだなあ
と情けなくなる。
今日の郁は 堂上が何を言っても 自己嫌悪で落ち込むばかりだ。

それが分かったのか 堂上は郁をギュッと抱きしめる。
そして耳元で「郁」と低く囁くと引き寄せて 唇を重ねる。
今は職務中の時間だと分かっているから短く終わらせた。・・はずだった。しかし、重ねた唇が愛おし
くて 泣いている郁が愛おしくて 離れたばかりの唇をまた重ねる。

少し長いキスの後
「郁 俺を信じろ。俺はお前を嫌いになんかならない」
そう言って いつものように頭に手をポンと乗せると クシャッと何度も撫でた。

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