【7】

温泉に行こう!!

昼食時も二人の頭上には暗雲が立ち込めているようで 他のメンバーもその黒雲の影響を受けて
いる。会話も少ないし続かない。
午後の業務中の二人も 仕事上の会話はするものの それ以上も以下も無い。

それでも堂上から 何とか話し掛けようとしてはいたが郁は全く気付かない振りをしていた。
いつもの喧嘩と違う事は 今日の郁は何かすると直ぐに目に涙を溜めているようだった。
その涙に 堂上は動揺する。
朝のやり取りを思い出して 何が笠原をそこまで追い詰めたのか必至になって考えてみる。
が・・分からない。

  今日の俺は 何処がいけなかったのか・・
  公私混同しないようにとやってる結果がこんなことになるとは・・
  もうこんな俺のことは嫌になったのか・・

考えたくない事が頭を過ぎり振り払う。
いつもの説教だったつもりだった。多少長かったかもしれないが。
知らず知らず 眉間のシワが更に増えていた。


「堂上 早く仲直りしてよね。こっちがやりずらくてしょうが無いからさ」
小牧がポンと肩を叩く。
堂上は難しい顔をしながら コクンと一つ頷く。 

「いったい何がどうしたの?」
「俺にも分からん。何か俺 余計なこと言ってたか?お前も聞いてただろ」
「そう言われてもね。当事者じゃ無いしさー」
「だよな・・」
「こんな時に良化隊が攻めてきたら困るなあ。しっかりしろよ 班長!」

 ああ分かってる そう呟くと堂上は 前方をキッと睨むように見つめた。
睨むように見つめた目は そのあと切なそうな顔の一部となっていく・・

小牧がその目の見つめた先を追うと その友人の可愛い恋人であり部下である彼女がベンチに
座り頭を垂れていた。その姿は それこそ泣いているかのようで・・
傍に居る友人に目をやると 顔を強張らせて立ち尽くしているように見えた。

「行ってあげれば?」
小牧の勧めにも 堂上は首を横に降るだけだ。



「小牧・・」
「ん?何?」
「昨晩 笠原からメールが来たんだ」
「それが何か関係があることなの?」
「さあ・・どうだか分からん。ただ・・」
どうも 堂上は煮え切らない言い方だ。

「ただ?」
「そのことについて あいつは何も言ってこないんだ」
「うーん・・ 言ってる事が分かんないよ。大体 朝は笠原さんが来るなり説教だったじゃない。その
後にこんなになってるんだし」
小牧の言うのはもっともだ。
「そのメールって どんな内容だったわけ?」

「商店街で買い物をしたら 温泉旅館の優待券をもらったんだそうだ。皆で行こうって 行き先とか
日程とか決めるとか・・そんなメールだ」
  それがこんなじゃ その優待券使うどころか しばらく外泊も無理だな・・ 
ガックリと肩を落として項垂れる。

小牧は あれあれ と可哀想な友人に目をやる。
なるほど そう言う事か。
笑っちゃ悪いけど それってお前自分のせいじゃん  と いつものように上戸が入りかけるが友人
の余りの落ち込みように 笑うのははばかられた。
しかし言う事はちゃんと言っておく。

「それってさ 笠原さん可哀想だよね。きっと お前と旅行に行くのが楽しみでさ なかなか寝れな
かったんじゃないかな。それで寝坊して遅刻。なのに朝からあの説教だもんな」
項垂れていた堂上は ハッとして小牧を見上げる。

「多分 自分自身に腹立てて こんなんじゃお前に嫌われる とか思ってるんじゃないの?」

 お前そんな事も分かってあげれなくて 彼氏失格!  と小牧は笑うと
 全くだ  と堂上は眉間のシワをさらに増やしたような複雑な顔で呟いた。



郁はベンチに座り手塚相手に独り言を言っていた。
慰めなくていいから と前置きして 相槌も何もいらないから黙って聞いてて と。

「私 こんなんで堂上教官呆れてるよね。もうあんなヤツ嫌だとか思ってるんじゃないかな。何やって
もダメだし。面倒ばっかり掛けるし。可愛くないし。男みたいだし。教官より背だって高いし。胸なんて
無いし。そもそもこんなだし・・」
おいおい 最後の方は身も蓋もないだろ と 手塚は郁を見る。何も言うなと言われているからとりあ
えず黙って見守っておく。

言われたように黙って聞いていたら
「ねえ そう思うでしょ」
と聞いてくるので どうしたもんかと思いつつも手塚は
「そんなことひっくるめて 堂上ニ正はおまえがいいんだろう」
と言ってみる。

言ったら言ったで
「黙っててって言ってるでしょ」
と返ってくるが その声はいつもの元気は無く 今にも泣きそうな声だ。

「今日だって本当は旅行の話しようねって昨日メールしたら 楽しみにしてるって言ってくれたのに・・」
 全然楽しみそうじゃ無いんだもん・・ 
 私一人ではしゃいでバカみたい・・  そう言って項垂れる。

「手塚 ハンカチ代わりになってくれる?」
そう言って手塚を見上げる目は もう涙でいっぱいになっていた。
「ああ いいけど今回だけだぞ。俺はハンカチじゃないからな。それから ちゃんと堂上ニ正と話し合
えよ。堂上ニ正はそんな人じゃないって 自分がよく知ってるだろ」

それだけは伝えて とりあえず代用ハンカチになることを承諾した。これで仲直りしてくれたら安いも
んだ。そうじゃなきゃ 暫らくは居心地が悪い事この上ないからだ。

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