【13】
温泉に行こう!!
仕事を終えて小牧は指定された居酒屋へと急いだ。
堂上と郁を早退させ 手塚を定時に帰らせた都合上 多少のしわ寄せはあった。
しかし あのまま数日ゴタゴタされるよりは 落ち着くところに落ち着いてもらえば気苦労は減るから
このくらいの残業は許容範囲内だ。
後は友人からそれなりの詫びでも入れてもらえれば それでいい。
さしあたって 今回の飲み代は奢りだな。と思う。
居酒屋へ着いて 小牧は通された部屋へ入る。
「ごめんごめん 遅くなって。・・あれ?」
ちょっとした違和感を感じてぐるりと一同を見る。
「どうした」
と 逆に堂上が聞いてくる。
「いや・・ 何か空気が違ってた気がしたからさ」
「そうか?」
小牧はてっきり本題の話しの真っ最中で わいわいと盛り上がっている頃だろうと思っていたのだ。
それが 柴崎さんはしれっとしているし 笠原さんは赤くなって堂上に支えられているし 手塚はふ
てくされたような、心ここに無しといったような顔をしている。
一番小牧が驚いたのは堂上の様子だった。
いくら気心が知れている仲間で いくら今がプライベートだとはいえ 今にも恋人を抱きしめんばかり
なくらいで表情も甘い。これが あの堂上?へえーっと感心する。
きっと柴崎さんのあの態度は それを見てのことなんだろう。
そして それは手塚も同じなのだろう。
そう思うと 少しばかり上戸が入ってしまう。気の毒に・・
まあ俺は当てられる事はないけどね。
小牧は堂上の隣に座るなり
「若い二人が気の毒だよ。仲良いのは なりよりだけどさ」
と 堂上に耳打ちをする。
「な・・、バカ言うな!」
少し驚いたようだったが それから不機嫌な声が返ってきた。
「だってそうじゃない。今日どれだけこっちが気を遣ったか分かってる?」
「・・それはすまなかった。言い訳はしない。全面的に俺が悪い」
「笠原さんに対して悪いと思う気持ちは分かるけどさ 柴崎さんと手塚が可哀想だと思わない?」
とりわけ今日は分が悪いのは分かり切った事な上に 到底小牧には口で勝てはしない。
しかし今日はどうにも気持ちを抑える事が出来ないのだ。
人目より恋人が大事だ。
そう思ってしまう自分が居る。
こんな事は初めてだ。
喧嘩になるのは大体が 郁が拗ねるか怒るかだ。
いつもなら 郁が落ち着くのを待って、頃を見計らって外泊に持ち込む。
今日に限っていえば、待つ事が出来なかった。
郁の涙を目の当たりにしたら何かのタガが外れた。
泣かれるのは弱い。
自分でも俺はこんなんだったかと 思う。
「で、今日のお礼とお詫びと報告だっけ?」
そうは言っても一部始終を聞く気は無く 笠原さん落ち着いたようで良かったよ と先手を打つ。
まあ仕事のことについては謝りを受け付けるかな と思う位だ。
そのへんは堂上もわきまえている事なので 小牧に感謝しつつ話し始める。
「早退してすまなかった。仕事の方は大丈夫だったか?」
「そりゃ急に二人いなくなったんだから大変だったよ」
「・・だろうな。本当に申し訳ない」
隣の郁も 私のせいでごめんなさい と神妙に頭を下げている。
そしてまた堂上が お前はいい俺がいけなかった と・・ だからその甘いのは今はいいから!
始まりそうな二人の世界に釘をさして
「班長しっかりしてよ」
と そんな会話はここで区切りをつけて 小牧は見るからにこの中で一番しっかりしているであろう
柴崎に今日のこの集まりの趣旨を聞く。
「俺さ、よく分かってないんだけど 何の話しなわけ?」
柴崎もやっと話しが進みそうな状況に 鞄の中から商店街でもらった『優待券』を取り出しテーブル
の中央に置く。
「今日はこの相談をしたいと思いまして」
柴崎はそう言いながら にっこりと微笑みながら一同を見た。