いつだって正義の味方    【おまけ篇】

小牧と手塚が事情聴取の為に連れて行ったあと、堂上は放心状態の郁に声を掛けた。
「大丈夫か?」
「・・はい。なんとか」
「顔色が悪いぞ。どこかやられたか?医務室にでも行っとけ」
「なんでもないです。大丈夫です」
強がっているのがありありの郁の態度に堂上は溜息をつきながら
「こういう時は言う事を聞いておくもんだ。へたり込んでるくせに何言ってるんだ」
と、手を差し出した。

 ―― 手・・ と思って躊躇っていると、堂上はそれを動けないと取ったようで、郁の意表をついて
座り込んでいた郁を抱えあげる。
「きょ、きょうかん!?」
抱えられて慌ててジタバタすると、堂上から うっ と声が聞こえた。
「このアホウ!部下を助けようとした上官のみぞおちを肘鉄で襲うとはいい度胸だ」
「やだ・・そんな事はなくてですね・・あの、すいません・・」
「まあいい。まだ混乱してるんだろう。早く医務室に行ってこい」

ああ、なんだか教官が優しい― 何も考えは無かったが、この状況にもうちょっと浸りたくて郁はそ
の場にまたヘタヘタと座り込んだ。
「おい。大丈夫か?」
驚いたのは堂上で。
しかし、当事者ということもあり、それだけ精神的に辛かったのだろうと判断する。
「今度はおとなしくしとけよ」
そう言うと、堂上は郁を抱きかかえた。

おとなしくしておけって言われても、抱きかかえられ、いわゆるお姫様抱っこをされてジタバタしない
訳がない。
「教官!無理です!重たいですから!きゃあー」
「うるさい!!黙ってろ!動くな!」
怒鳴られてシュンとするところが既に読まれている。
あとはなすがまま。
恥ずかしさで顔を隠したいが抱きかかえられていてはそうもいかない。
見下ろされて目が合う度に気恥ずかしい。

医務室に向かう途中で同期の仲間がこちらに向かって来るのが見えた。
今顔を見られたらたまらない。
顔を隠すとしたら・・後の事も何も考えずに、とっさにに堂上の胸にしがみついた。
いくらそうやって顔を隠したとしても、傍から見たらどう見ても堂上と郁に見えるわけなのだが・・。

急に抱きつかれて堂上はギョッとする。
すぐさますれ違う人から顔を隠したいが為の行動だとは理解できた。
しかし郁を愛おしく思っている堂上には、その行為は想いを加速するだけだ。
―こいつはまったく・・ 堂上は溜息をつく。
郁が無自覚なのが堂上には痛かった。
―さっさと医務室に置いてこないと俺がもたん・・郁・・

抱きつくようにしがみついていた郁は、不思議な感覚に小さく固まった。
―あれ?今、郁って聞こえた気がする・・ 教官!?
でも、こんなに顔が近くて、しがみついている今はとても顔を上げれない。
―空耳だよね? 私が教官のことばっかり考えてるから・・

抱きかかえられた時、あんなに抵抗したのに、今はこのままこうしていたい などと考えていたら
「着いたぞ。立てるか?」
と声が耳元で聞こえ、今更ながらの状況に
「ぎゃー!」
と身体が反応する。
叫んだ反動で上を向くと当たり前だが間近に堂上が郁を見下ろしていて、さらにパニックになった。
しかし動揺した郁には、その当たり前という事実を解釈することが出来なくなっていて、抱えられた
時と同様にジタバタ暴れてしまう。

「何やってんだ」
呆れて下ろされた。
「それだけ元気なら回復も早そうだな」
そう言って笑う堂上の笑顔が眩しい――と、思った瞬間にふらついて身体が傾いだ。
瞬間に堂上に支えられ
「そうでもないか・・」
と、呟きが聞こえた。

― あ、また心配かけちゃってる・・ 今は堂上教官への想いでふらついただけなのに・・
そう思っても、この想いは伝えることははばかられる事で。
「平気です」
気丈に言ったつもりの声も、郁の思いに反してかすれて気弱な一言になり、更に堂上が心配した
のだろう、支えて掴んだ手に力が入ったのが分かった。

しかしその時の堂上は・・複雑な気持ちで郁を抱きとめていた。
今回の事件で、よっぽど精神的にダメージを受けていたのだと勝手に解釈する。
― こんなにも辛い思いをしていたくせに、何で俺に電話の一本もしてこないんだ・・
そう思ったら支えた手に思わず力が入ってしまった。
上官としてさえも頼られていないのかと、心がグラついた。
理不尽だが、つい扱いが荒くなる。

郁を引っ張り
「そんなんじゃ仕事にならん。さっさと診察受けて今日は寝てろ」
と医務室のドアを開けた。
「教官・・」
「何だ?」
郁は、さっきまでの優しそうな顔だった堂上がいつもの仏頂面になっていることに気づいて混乱
する。
― きっとまた私何かやっちゃった?
そう思ったら、引っ張られた手に逆に力を入れていた。
「教官、まだ一緒に居てください。ひとりじゃ不安で・・。迷惑・・ですか?」

きっとこれも素なんだろう。
こいつには負ける・・。
一人でイラついてしまって、俺は情けないな、いったい幾つだ と溜息が出た。

堂上は郁の頭に手を乗せポンポンと叩くと、不意に笑顔が返ってくる。
その笑顔に自分の気持ちを誤魔化すように、堂上は乗せた手でいつものようにクシャクシャと頭を
何度も撫でた。
「迷惑なわけないだろう。俺はお前の上官だ」
そして心の中で 今はな・・と。
                              
                                             fin. 
    
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