いつだって正義の味方    【5】

「”幼児への人権侵害及び、その保護者の介入への不適切な対応”という疑いで、良化特務機関
が数日中にも動こうとしていたようです」

図書特殊部隊の事務室では、玄田を前に柴崎がそう報告する。
どこからでも図書隊に不利になる要素が見つかれば、それはまた図書隊のネガティブキャンペー
ンを展開できる。
メディア良化委員会は正当性なんかあったもんじゃない。
わずかな糸口でもあれば、どんな手を使ってでも図書隊を潰しにかかる。
何か口実があればいいのだ。そしてその事で騒いでくれる者がいたらもってこいな話である。
しかし、母の思いは複雑なようで、良化隊が動く前に本人が実力行使に出てしまった。


「今回は、その前に本人が動いてくれて助かりましたね」
ホッとしたように柴崎がそう言うと
「まったくだ。良化隊に笠原を連れていかれたらどうにもならんからな。厄介な事になる」
と、玄田が大きくそれに頷いた。

「ところで、笠原は?」
事務室を見渡すが姿が見えない。

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普段から訓練を積んでいる戦闘職種の者は、いくら刃物を持っているとはいえ特に非力な女性が
相手となれば取り押さえることなど容易なことだった。
それは女性隊員ではあるが、戦闘能力に抜きんでている郁も然りである。
男性相手でも負けることはないのに。

しかし今回は、その郁自身がターゲットになっていた。
精神的なダメージが一瞬の判断を狂わせる。
いつもの郁だったら簡単な捕り物も、その一歩が出るのが遅かった。


サチコと呼ばれた女性はマサトの母に弱みを握られていた。
事ある毎に、自分では手を下さないマサトの母の手足となって動いていたらしい。
イモ掘りの時も、マサトの母の身勝手から一緒に参加する事を許さなかったのだと後で分かった。


郁が一歩出遅れたせいで、堂上が駆け付けなかったら危うい事になるところだった。

サチコが鞄に震える手を入れたまま郁に近づき、目の前にきてナイフを取り出した。

「バカ野郎!何やってるんだ、笠原っ!」

堂上のその声でハッとした郁は、一瞬の躊躇いで取り押さえるどころか避けるのが精一杯だった。
郁が避けたことで、そうでなくとも青ざめてふらついていた彼女は態勢が崩れる。
そのサチコを堂上が後ろから取り押さえ、手塚がマサトの母が逃げないように捕まえた。

あっという間にケリがつき、二人の女性は事情聴取のために連行された。

郁はまた、堂上に助けられたと、その顔を見つめた。
いつだって、郁が危うくなる時にそこに居てくれる。
本当に、まるで正義の味方。
「大丈夫か?」
差し出された手に、郁は頷くだけで精一杯だった。

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「笠原さんなら堂上が医務室に連れてったはずだけど?」
と、小牧がニッコリと笑う。
それを受けて柴崎もニッコリと微笑む。
堂上教官が傍にいれば、笠原も安心といったところだろう。
「かなりダメージ受けてましたものね。でも、医務室に行ったにしては長くないです?」
「そうだね。そろそろ戻ってもいいころだよね」
時計を見ながら小牧が答えると
「俺、様子見てきましょうか?」
と、手塚が生真面目に応える。

柴崎は小牧と顔を見合せてプッと笑うと
「そうね。だったらみんなで迎えに行きましょうか?」
と提案する。
上戸が入った小牧は それいいねー と面白がっている様子で、手塚が一人不思議そうに二人を
眺めていた。


  ***

医務室に半ば連行されるように連れて行かれた郁は医師の診察を受けた。
怪我はどこにもなく、少し休めば大丈夫ということで、それを聞いて堂上は安堵する。

まだ職務中だが隊長に指示を仰いで帰寮でもいいと堂上に言われたが、それには気が引けたので
郁は医務室のベッドで少し横になることにした。
「時間になったら呼びに来る。それまでちゃんと寝とけよ」
堂上はそう言って立ち上がった。
が、違和感を感じて振り返ると、郁が堂上の服の裾を掴んでいた。

えっ!? 郁もとっさに取った自分の行動に焦る。
「何だ?」
「いえっ!な、何でもないですっ!」

 うわー、なにやってんだ私―― 

一人パニックになって 違う違う と両手と頭を振る郁の頭を、堂上はポンと叩くといつものように
クシャクシャと撫でた。
精神的なものだと分かっているから、ならば一緒に居てあげるのも上官の役目としたもんだろう、
と自分の中で折り合いをつける。
「アホウ。辛いならそう言え。お前が寝付くまで傍に居てやるくらいなんでもないことだぞ」
そう言いながら、頭をクシャっと撫で続ける。

「教官。あの二人どうなるんでしょうか?」
「隊長に親戚呼んでもらって、こっちとしては手が離れるかな。お前は事情聴取があるかもしれん
が・・」
「それって、止める事できませんか?」
「どういうことだ?」
怪訝そうな堂上に郁は
「子供が可哀想で・・。私は何も被害無いですから・・」
と、ポツリと呟く。
「お前はなあ・・。被害大アリだろう。今だってこうやってベッドに横になってる」
「そうだけど・・」
「まあ、温情処置は取ってもらえるだろうが、お前が心配する事じゃない」
「でも・・」
「またこんなことになったら困るからな。ちゃんとそれなりに反省はしてもらわなきゃならん」
分かったな と言った堂上は優しい目で郁を見つめる。

 こ、これって見つめ合ってるっていうんじゃ?? 郁はドキッとして顔が赤くなる。

「はい」
と小声で言うと赤い顔を見られるのを隠すように布団を頭から被った。
「笠原、寝ます!」
って、その宣言もどうかと思うけど・・。
「ああ。ちゃんと休め」
堂上は笑って応えた。


  ***


そして、いつの間にか時間が過ぎて――

小牧たちが医務室に行くとドアに「不在」の札が掛けてあった。
医師が席を外す時には必ず札が掛かっている。

あれ? 
三人は顔を見合わせ中に入る。
シーンと静まった医務室のベッドの一つにカーテンが閉まっているのが見て取れた。
何かいけないモノでも見るかのような気になって、三人は足音も立てずに近寄ってカーテンをソロリ
と開けると・・

「あらあら。これじゃ、なかなか戻って来ないわけよね」
「よく寝てるね」

ベッドに寝ている郁の傍らで郁の手を握って、椅子に座っている堂上も寝ていた。

「どうしますか。起こしましょうか?」
無粋な手塚の言葉に
「うーん。このままも困るけどね。でも起こすのも可哀想なくらい、二人ともいい顔して寝てるよね」
と小牧が答える。
そして、それを聞いた柴崎は
「じゃあこれで!」
と、携帯電話を取り出して二人の寝顔を撮った。
「お前、何やってるんだ!」
手塚が慌てるのはお構いなしに。

                                             fin.

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