すれ違い
女子寮の窓を開け 外を見ると 一段と爽やかな青空が広がっている。
今日も いい日になりそうね。がんばるぞー と気合を入れる。
そんな郁を見ながら
「あんた そうやって張り切り過ぎてヘマやらかさないでよね」
と 寝ぼけ眼で 柴崎も起きて来た。
「うん。大丈夫。何だか 今日は いい日になる予感もするのよね〜」
と 爽やかな空気を吸い込む。
いつもよりも 少し早く仕度を終えた郁は ちょっと早いけど出勤する。
「おはようございま〜す!」
郁は今日も元気に 図書特殊部隊の事務所の戸を開けた。
「朝から相変わらず 威勢がいいな」
入り口のすぐそこに居た 玄田が おお!おはよう と郁に答える。
他の出勤していた隊員達からも おはよう と声を掛けられ えへへ・・と頭をかきながら 中に入って
足が止まった。
いつも朝早く出勤している堂上の脇に居る人物に目が行く。
誰?
困惑して でも悟られまいと 周りを見るが 誰も気に止めた様子も無い。
なんで?
いつまでも 立って二人を見ているのはおかしいので 自分の席につく。
座ってしまうと 郁の後ろになるので 見ることは出来ない。
誰?? その女の人・・
自然と 聞き耳を立てる格好になる。
堂上に馴れ馴れしく話しかけていたのは 業務部の人だとは分かるが 何の用なんだろう。
「やだぁ・・」「うふふ そんな事言わないでよー」とか たまに なんだか甘い声が聞こえてくる。
何よ!今日はいい日になる筈だったのに!
なんで朝から・・ と思い そんな事を思っている自分に落ち込む。
アタシ 嫉妬してる!?
堂上教官は いったいどんな風に 彼女と話しているんだろう・・
楽しいのかな・・
すると
「もう いい加減にしてくれ!とっとと持ち場に戻れ!」
堂上の怒鳴り声がする。
「あらあら 怒らせちゃったかな。今日のところは帰ってあげる」
と 差ほど気にする様子も無く じゃ〜ね〜と言い残し その女は部屋を出て行った。
出て行く前に 郁をチラッと見る。
気のせいか フンッ と笑われた気がした。
・・!?なんだ この人!
すれ違うようにして 小牧が出勤して来た。
目の前に座って 何だか落ち込んでいる風体の郁と その奥の席で イライラしている堂上を両方見
て、クックッと上戸が入る。
「おはよう 笠原さん。どうしたの?元気ないよ」
「えっ!?そ、そんなことないですよー。やだなぁ 小牧教官」
あはは と笑ってみるが その丸分かりの様子がまた笑える。
小牧のその言葉に 堂上がビックリしたように振り返って そこに郁と小牧を確認する。
「あれ?堂上どうしたの?なに慌てて・・」
どうやら 堂上は 郁が出勤して来たことにも気付いていなかったようだ。
「あれ?もしかして 後ろに笠原さんが居るの 気付かなかった?」
「い、いや。なんでもない」
「そういえば今 業務部の田中さんだっけ?そこですれ違ったけど。来てたんだ」
ムスッとして 堂上は あの野郎と呟いている。
小牧は 何かあった?小声で堂上に聞くと 実はな・・ なにやらヒソヒソ話し出す。
あの・・・
郁は 聞きにくいことを 聞いてみることにした。
「その田中さんって あ・・あの・・ええと・・ 堂上教官の 彼女なんですか?」
その問いかけに 小牧の最大の上戸が入った。
え?何笑ってんの?
「ば、ばか野郎!そんなんじゃない!」
堂上の拳骨が落ちる。 なんで 殴られなきゃいけないのよ!
「あはははは。笠原さん 二人の様子見て そう思ったわけ?」
と 小牧はお腹を抱えている。
「へぇー 堂上 なにイチャイチャしてたの?」
すっかり上戸が止まらない。
「いちゃいちゃなど してない!小牧 いい加減にしろよ!」
「いえ・・ 後ろだったから 見てはないですけど・・ 仲良さそうだなーとか・・」
ポツリと郁がつぶやく。
その表情に 堂上は胸の奥が痛む。違うぞ。勘違いするな。
しかし 付き合っているわけでもない郁に そんないい訳をするのもヘンだ。
堂上は どう言っていいのか分からず 途方にくれる。
小牧の野郎!!隣でまだ笑転げている 友人を睨んだ。
そこへ 話を面白そうに聞いていた玄田が加わる。
「おう 笠原。堂上はもてるぞ。毎朝誰かしらやってくるからな」
と 言いながら豪快に笑う。
はあ!?
隊長まで 何を!! 堂上は唖然とする。
「ち、ちがっ・・」
「別にいいです。私 堂上教官のこと別に何とも思ってませんし。私がとやかくいう事じゃないですか
ら!」
ついさっきまで 確かに元気の無かったはずの郁が 何故か怒りながら 立ち上がった。
「失礼します!」
と言って 部屋を出て行った。
堂上は もう訳が分からない。
なんで こうなるんだ・・
「あれ!? 怒っちゃったのかな?」
小牧も上戸を納めて 悪かったな と堂上の肩をたたく。
その手を払いながら 何を今更・・とつぶやく。
・・堂上教官のこと別に何とも思ってません
思いがけず聞いた郁の言葉に 堂上は脳天を打たれた思いがした。
俺は・・想いを伝える前に また振られちまったな。
これで何度目だろう。俺 あいつに何度振られてるんだ・・
上官としてあいつを守ると決めた。
そして 自分の気持ちに素直になろうとも 決めた。
しかし 俺の想いは 届きそうにもないと いつも痛感させられる。
笠原のあの可愛い顔を 独り占めしてしまう奴が現われるであろう事実に まだそんな奴が現われて
いないのにも係わらず狼狽する。
俺だけののものに なる事はないのか・・・
「ごめん堂上。ちょっと 茶化しすぎた。俺行って 説明してくるよ」
小牧はそう言って 事務所を出て行った。
「よせ。別に構わない・・」
そう言ってみたが もう小牧は出て行ったあとだった。
ここにも一人 青空に誘われていつもより早く出勤したが為に 朝一番で業務部の書架の整理に借り
出されてしまった手塚が戻ってきた。
「堂上ニ正。なんだか みんなドタバタしてませんか!?小牧ニ正が珍しく 走って行ったんですが」
不思議そうに 訊ねる。
「いや たいしたことじゃない。気にするな」
気にするなと言われても そう言ってる堂上も どうみてもヘンだ。
「はあ・・」
返事をして 席についてみたものの 玄田を見ればバツが悪そうに頭をかいている。
「あれ?そう言えば笠原どうしたんですか」
いつもの賑やかな声が無いと気付いた。ああ それで静かだからヘンだと思ったのか。
一人納得してみる。
それにしても・・・
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