すれ違い
郁は 怒って席を立ったのでは無かった。
ムッとした態度を取ってみたものの ただ その場に居たくなかった・・それだけだ。
堂上教官 もてるんだ・・・
何だろう このモヤモヤは・・・
あの人 出て行くときに 私を見て笑ったような気がする。
なんで?
すごく 嫌な感じなんですけど!!
歩きながら 気が付くと 涙がこぼれてきた。
やだ・・
なんで 涙なんか出てくるの・・
思えば思うほど 止まらない。
ダメだ これじゃ 仕事にならない。
泣き顔じゃ 戻れない。どうしよう・・・
どこをどう歩いて来たのか分からない。
ふと見れば 誰も使っていない 会議室が目に留まった。
そっと戸を開けて 中に入る。
しばらく ここに居よう。ここなら 誰にも見つからないかな・・
椅子に座らず 片隅にうずくまるように腰掛けて 余計な事は考えない・・と自分に言い聞かせる。
とにかく泣き止まなきゃ。
せっかくいい日になる筈なのに・・
うずくまっていた郁は いつの間にか 眠りに落ちていった。
「いないなぁ 笠原さん」
そう言いながら 小牧は事務室に戻ってきた。
その声に 皆が振り向く。
「いないんだよ。一通り探してみたんだけど。ねえ堂上 笠原さんが行きそうな場所知らない?」
「なっ・・俺が知るか!」
「堂上なら 分かるかと思ったんだけどね」
困ったな やれやれ・・ と玄田は
「まあ今回のは俺も悪かったしな。笠原が戻って来るまで そっとしておくか」
で 手を打つことにした。
手塚だけが 何のことかサッパリ分かって無いが この際 放っておく。
「ちょっ、待ってくださいよ。何で俺だけ・・」
ガタッ!
少しして 堂上は急に立ち上がり
「ちょっと・・」
と言いながら 出て行った。
それを見送りながら 小牧は にっこり頷く。頑張れよ 堂上。
「やっぱ 気になりますよ。何があったんですか。小牧ニ正」
手塚はどうもこの空気に居たたまれない思いだ。
「ああ。実はね・・」
小牧は話始める。
まあこういう事だ。
堂上と小牧とも仲のいい図書大からの仲間で 業務部の吉原ニ正の彼女が 今朝堂上と話してい
た田中三正。
2ヶ月後の二人の結婚式に友人代表で どうしても堂上に挨拶をしてもらいたいと お願いに来てい
たのだ。
その田中三正もまた 図書大からの仲間でもある。
堂上は そういった場所での挨拶は苦手だから と まあそんな話をしていた。
「それを笠原さんがね 何か勘違いしちゃってさ。これが朝の一部始終」
「はあ・・笠原はまた 何を勘違いしたと言うんですか?」
コーヒーを飲みかけていた小牧は ブッと噴き出す。
「手塚。まあいいや。そこがお前のいいとこだよな」
と 笑い出した。
その頃 堂上は 当ても無く郁を探していた。
どこを どう回って来たのか。
畜生!なにやってんだ 俺は!
探し出して 何て言うつもりなんだ。お前は誤解している・・とでもいう気か。俺の彼女でもないのに。
そう思うのに 探さずにはいられない。先へ先へと急ぐ。
あそこは・・
一つの会議室の戸が 微妙に開いている。
そーっと戸を開き 中を見回す。
気のせいか・・居ないじゃないか・・ そう思って戸を閉めようとした瞬間 隅っこに誰か居る!
見つけた!!
ホッと胸をなで下ろす。
側に近寄っても 郁は全く気付かないでいる。
寝ているのか!?
その無防備な寝顔に 不意に愛おしさがこみ上げてくる。
笠原は 俺のせいで こうなっているんだよな。自分に問いかける。
笠原・・お前 俺のこと・・ そう思っていいのか!? どうなんだ・・
いっそ 好きだと告げてしまおうか。
しかし 逃げられるのが一番辛い。同じ職場だ。顔を合わせにくいのは ゴメンだ。
今はまだ このままの関係がいいのかもしれない。
堂上は 大きく息を吸ってから
「バカ野郎!貴様 こんなところで 何寝てやがる!今日は無断欠勤する気か!」
ワザと大きな声で怒鳴る。
「えっ!?」
いつもの怒鳴り声に ビックリして 郁は飛び起きた。
あ・・堂上教官。 やだ あたしったら 寝てしまってたの!?
「あの・・ これは ちょっと・・」
「まったく お前は・・。さあ 行くぞ!」
堂上は先になって 会議室を出て行く。
「はい!すいませんでしたっ」
慌てて郁も 後を追う。
教官 探してくれたんだ。そう思うと 胸がキュンとする。
あんなに 汗かいて・・
心配掛けちゃったんだ 私・・
「堂上教官。本当にすみませんでした」
もう一度 謝りをいれる。
それに答えるように 堂上は立ち止まり 郁の頭をグシャっと撫でると
「もういい。こっちも 誤解を招くような事をした」
事務室に戻る道すがら 堂上は 今までのいきさつを 郁の誤解を解く為に話すこととなった。
「別に お前がどう思おうと関係ないが 勘違いされたままっていうのも 気分悪いのでな」
と 理屈を付けて。
fin
後篇