「なんでこうなっちゃうのかしら。堂上教官 責任とってください」
美人が怒るとかなり怖いものがある。しかも相手は柴崎だ。
「俺が何で責任取るんだ。訳がわからん」
堂上も不機嫌な顔になり 柴崎を見る。

「でも 何で泣くんですかね」
手塚の何も分かってない発言で 堂上の箸が止まった。

泣いてた!? 俺のせい?? 益々わからん・・

そう思うが 郁が泣いていると聞かされて 心中穏やかでは無い。
俺は 迷惑じゃない って そう言ったはずだ。 なのにどうして??

「突き放した言い方すれば 誰だって傷つくさ」
「ホント朴念仁ですよね。女心がまるで分かって無い」
小牧の言葉にも柴崎の言葉にも どうして・・ が消えない堂上だった。



昨日 眠ってしまった郁を抱き上げてしまった。
しょうがないと思って抱き上げたが 男とは違う柔らかいその感触に なお更郁を愛おしいと思った。
昨日の今日だ。 堂上は一人で かなり意識してしまっていたのだった。

プライベートで隣に居たら また何か違う目で見てしまうかもしれない・・
だから自分の気持ちを悟られないように 郁から見えない席に真っ先に座ってしまった。
悟られないように 態度を強張らせてしまった。
それがいけなかったのか・・
言い方・・ それにも表れてしまったのか。

「悪い 先に失礼する」
そう言って一足先に 部屋へ戻る。
小牧と柴崎は 顔を見合わせて頷いている。

しかしやっぱり堂上は どうして・・ が消えない。
でも このままではよくない事だけはハッキリと分かる。
堂上は 昨日柴崎から預かった紙袋を手にすると 郁の泊まっている部屋へと急いだ。




部屋に戻った郁は ベッドに座り込むと 今にも雨の降り出しそうな窓の外を眺める。
私の気持ちみたいだね・・ 今にも泣き出しそう・・
こんな時に知らされる。
堂上教官の事がこんなにも好きだって。そして その気持ちが届かないってこと・・

水着持ってこなくて正解だったね・・

頬を両手でバシバシ叩くと 一つ大きく深呼吸をした。
テレビのリモコンに手を伸ばし スイッチを入れる。
見るでもなく そのままベッドに横たわった。

そこへ ドアがノックされる音がした。
柴崎達 戻ってきたのかな。
鍵開いてるのに・・

「はーい。鍵開いてるよー」
落ち込んでいると思われないように 元気よく叫んでみた。



郁の部屋の前まで来て 堂上はかなり躊躇っていた。
何を言えばいい・・ 何を言えばいい・・ 何を言えばいい・・
考えてもしょうがない と ドアをノックする。
中からは 郁の元気のいい声が返ってきた。

・・!? あいつらの思い過ごしじゃないのか。 元気じゃないか。
なら 大丈夫だ。

そう思った堂上は
「俺だ。入るぞ」
と言って ドアを開けた。



中に入ると ベッドに横たわっている郁が目に飛び込んでくる。
目と目が合って お互い息を呑む。

「スマン。女性の部屋だったな。入って悪かった」
と顔を横に向ける。
慌ててベッドから飛び起きるて反論する。
「そうですよ!なんで教官が入ってくるんですか!普通入るぞって言いながらドア開けないでしょ。
信じられない!」 
「・・そうだな。迂闊だった。おまえも女だったな」
「って それ どういう見解ですか!」
「だから悪いと言ってるだろうが」
「あー それ悪いと思ってるとは思えない言い方!」

堂上は困ったといった顔をしながら それでもこれ以上部屋へ入るのはマズイと思ったので 郁を
手招きする。
「用事があったから来たんだ。本当に悪かった」
「用事ってなんですか?どうぞ 入っていいですよ」
「いや・・やはり女性の部屋はまずいだろう。笠原 おまえがこっちまで来てくれ」
さっき入ろうとした人が何言ってんですか という言葉は余計に怒らせそうなので言わないことにする。

「まだ柴崎達来ないし いいですよ」
そう言いながら郁はドアの所まで行く。
「おまえはなあ・・少しは警戒ってもんしないのか」
堂上は一つため息をつく。
「ありえないですよ。だって堂上教官だもん」
郁は真面目な顔でそんな事を言う。

俺だとありえないのか・・こいつにとって 俺は単なる上司でしかないのかもしれない・・
その枠から外れる事はないのか・・
「そんなことはない。俺だって男だからな。何するかわからないぞ」
堂上も真顔で見つめ返す。


と 堂上が 紙袋を郁に差し出した。

「なんですか これ」
「俺も分からん」
「は?」
受け取りながら そんなやり取りで 郁はプッと噴出してしまった。
「分からないって・・ 教官が持ってきたのにですかぁ?」

堂上は頭を掻きながら 
「柴崎から 笠原に渡してくれと頼まれたんでな」
「柴崎からですか??なんだろ」
「開けてみれば分かるだろ」
堂上に促され なんだろう と言いながら 郁は紙袋を覗き込んで あっ! と息を呑んだ。

【12】

夏の野外訓練

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