【13】
夏の野外訓練
「どうした?」
固まった郁を見て 怪訝そうに堂上は尋ねた。
「・・何でも無いです」
「何でも無いことはないだろう。何が入ってたんだ」
「教官は見てないんですか?柴崎から渡されたんでしょ」
戸惑っている郁は 堂上も知っているのかという視線で堂上を見る。
「中を見ないという約束だったから それはちゃんと守った」
そう断言するが 郁は
「ホントですか??見てないんですか?」
と なおも聞いてくる。
相当見てはマズイ物が入っていたのか・・ これは困ったもんだと堂上は渋い顔になる。
柴崎め 俺から何をコイツに渡させたのか。
「おい!そんなに言うなら 中をみせろ。見てないのに見たんじゃないかと疑われるのもなんだからな」
すると 急に郁の態度が変わる。
「本当に見てないんですね」
「ああ」
言いながら 思いっきり頷くと 郁はホッとした様な顔で ニッコリと笑う。
「じゃあいいです」
何がどういいのやら・・ 俺だけ何だか面白くない。
少々ふてくされながら
「それを届けたお礼だ。今日は俺に付き合え」
そう言うと
「どういう理屈ですか ホントに!」
郁は驚いたように目を丸くして しかしニッコリと微笑みながら頷いた。
朝食から戻ってきた柴崎が部屋に入るなり 郁は柴崎に抱きついた。
「しばさきー」
「笠原 いくら私がいい女だからって くどこうったって駄目よ」
急なことに驚いたが おどけてそう言ってみる。
後ろで毬江も 驚いて目を丸くしている。
「だってぇー 水着持って来てくれたんでしょ。海諦めてたから 凄く嬉しくてさー」
「あら 私を誰だと思っているの。柴崎麻子さまよ。抜かりはないわ」
その いかにも 当たり前よ といった態度に郁は感心しきりだ。
でも なんで荷物に入れてないって分かったんだろう。
本当に柴崎はあなどれない。
「でも なんで堂上教官なのよ」
「あ〜ら それが大事なんじゃないの。で? 教官はなんて?」
「ん?・・・特に 何も・・」
「何も!!」
柴崎は 失敗したか! と舌打ちをする。
「堂上教官 中を見なかったワケね」
と 聞くと
「うん。見られなくて良かったよー。恥ずかしいもん」
と郁は ホッとしている。
普通 人間は 中を見るなと言われると見たくなるものだ。
あの朴念仁は 見るなと言われて忠実にそれを守ったわけね。ほほう。
でも 仲直りの材料にはなったらしいから 良しとするか。
なにより 郁の機嫌がすこぶるいいのだ。
「まだ何か言うことがあるんじゃないの?」
ちょっとつついてみると 郁の顔がパアーッと赤くなった。
「堂上教官がね 今日は俺に付き合えって・・」
あー もうやってらんない。
こんな二人の為に 私何やってるんだろ。
柴崎は 携帯に事の成り行きを打ち込んで毬江に見せると 毬江も 良かったですね と微笑んだ。
でも 困ったお姉さんでしょ と打ち込んで見せると ホントに と言って肩をすぼめて笑った。
待ち合わせの時間にロビーに行くと 既に堂上は来ていた。
「すいません 遅くなりました」
「任務中なら怒るところだがな。今はプライベートだ。待ち合わせに女性が遅くなる事くらい 織り込み
済みだ。気にするな」
あれ・・ 今日の教官は 何だか凄く優しい。
まさかここで教官とショッピングに行けるとは思ってもいなかった。
出掛けるなら柴崎らと一緒だろうとしか思わなかったから 持ってきている私服は 少年のようなもの
ばかりだった。
そんな中から 少しでも女の子に見えるように 悩んでいたら遅くなってしまった。
先に外に出て 空を見上げた堂上が
「こりゃ土砂降りになりそうだな。出掛けるのは 止めにするか」
と 言った。
それは ただ何気にそう思っただけに過ぎなかった一言だった。
でも 言ってしまった後 何だか郁の様子がおかしいと悟る。
これは余計な事を言ってしまったようだ・・・
「ああ 今のは無しだ。ほら 行くぞ!」
そう言って歩き出す。
しかし 郁がついて来ないことに気付くと どうしたもんかと頭を掻いた。
出掛けるのを 止める・・
それを聞いただけで こんなに切ないと思ってしまうなんて。
どれだけ 私 教官と出掛けれるのを楽しみにしていたのだろう。
堂上教官 やっぱり私と出掛けるの 嫌なのかな。
こんな男の子みたいな私じゃ 嫌なんだろうな・・
でも 誘ってくれたのは教官の方なのに・・
「おい。聞こえなかったか?ほら 行くぞ!」
堂上はもう一度 そう言うと 郁の腕を掴んだ。
えっ!?
郁の中で 小さな えっ だった。
教官・・腕・・
戸惑っている郁にはお構いなしに 堂上は掴んだ腕を引っ張りながら歩きだした。
自然と掴んでいた手は下へ降りていき 手を繋ぐ形になっていた。