【14】
夏の野外訓練
この歳になって 女と手を繋ぐという行為は すんなりと出来るもんじゃ無い。
うっかり繋いでしまった手を離すという行為も それに準ずる。
行くぞ! と腕を掴んで 笠原が歩き出したら離すつもりだった。
それが・・ 何で今俺は手を繋いで歩いている・・
否応無しに 繋いだ手に笠原自身を感じてしまう。
彼女の温もりを感じてしまう。
繋いでしまったら 今度は離すタイミングが分からない。困った・・
恋人同士なら一向に構わない事だが 上司と部下だ。
隊の誰かに見られないとも限らない。からかわれるのは必至だ。
もし見られたのが玄田だったとしたらと思うと やっぱりこの状況はマズイ。
俺はいいが笠原が嫌がるんじゃないか・・ いや こいつが隊の皆にからかわれるのを見るのが辛い。
悶々と 考えながら歩いていると
「教官。あのお店に入ってみたいんですけど」
郁が指を指したのは ファンシーな感じのお土産屋さんだった。
郁はあっさりと繋いでいた手をほどくと そのお店に駆けて行った。
郁は堂上と手を繋いで歩いているだけで 何だか幸せな気分になっていた。
会話も何もないけれど 何だか照れているような教官と その教官の温もりが嬉しかった。
このままずっとこうして歩いていたいなー そう思っていたら 可愛らしいお店を見つけてしまった。
堂上に 入ってみたい と告げると いいぞ と頷いてくれた。
お店の中が見たくて 気がついたら繋いでいた手を離してしまったけど・・
ちょっと惜しかったかな っていう思いもあったが お店の可愛らしさに入ってみたくなった。
堂上は駆けて行く郁を見ながら 残念に思いながらもホッと胸を撫で下ろしていた。
たかが 手を繋いでいただけなのに 何をこんなにうろたえるんだと自分で自分に呆れる。
教官も来てください 郁が入っていったお店の前で堂上は眉間にシワを寄せて立ち止まる。
やたらとピンクな壁に キラキラとした女の子モード全開な店内。
どうみても自分とは無関係な世界だ。
躊躇っていると 店内から郁が 教官なにしてるんですかー と再度お呼びが掛かる。
ええいままよ・・
一歩踏み込んでみるが 見慣れない光景に場違いを痛感する。
「笠原。スマンが 外で待ってるぞ」
そう言って出ようとしたところで 郁に腕を掴まれる。
「教官 コレとコレ 可愛いでしょ。どれがいいと思いますか。迷っちゃって・・教官が決めてくれませんか?」
多分笠原は 目の前の物しか目に入っていないのだろう。
きっと俺の存在は・・いや 俺の立場は二の次だ。
オ、俺か!?俺に聞くのか!?
怪訝な顔をしてみせるが 全くそれは意味をなさないと感じた。
仕方ない。恥ずかしさを捨てて 買い物に付き合うか と度胸を決める。
そう思って店内を見ると それなりに見えてくるからヘンなものだ。
「コッチの方が 可愛くないか?」
と 逆に指摘してみたりする。
「わあ!教官 凄い趣味いいです!!それにします!」
少女漫画のように目を輝かせて店内の商品を見ている笠原が何だかとっても可愛く見えてしょうがない。
こいつは どれだけ子供なんだ と笑ってしまう。
そう言う俺も 小牧が見たらかなりヘンで何を言われるか分かったもんじゃないが・・
郁はそこで 堂上がいいと言ったマグカップとメモ帳とキーホルダーを買った。
郁が店を出ると ちょっとしてから堂上が出てくる。
手には なにやら袋を抱えている。
「笠原」
呼ばれて はい? と振り向くと 無言でその包みを渡される。
手に取って固まってしまう。
えっ?きょ、教官!?
視線を堂上に向けると
「見てたら 笠原にちょうどいいのが目に入ったからつい買ってしまった。なんだな・・衝動買いってヤツだ。
要らないなら捨ててもらっても構わんぞ。」
仏頂面で何となく はにかんだ感じでいつもの教官じゃないみたい。
郁は そんな事を言う堂上が何だか可愛くなって プッと噴出してしまう。
「捨てるかどうかは見てから決めますから」
そう言いながら中を見ると・・ 熊のキャラクターの付いたハンドタオルだ。
袋から取り出して手に取り キャアー可愛い!!でも・・何でクマ!?
「まあ何だな。笠原と言ったら 熊 とまあ そんなイメージがだな・・」
「それ・・教官もですよね!」
熊殺しか・・ そう言うと 二人で顔を見合わせて大笑いをした。
「教官 大事にします。ありがとうございます」
にっこり笑う郁に 堂上は抱きしめたい衝動に駆られる。
ダメだ・・ こいつ今 めちゃくちゃ可愛い。
俺かなり普通じゃないな。
赤くなった顔に気付かれない様に 気の無い素振りを漂わせながら 次の店を探し始める。
「次どうするんだ?」
とりあえず見つけた可愛いお店で買い物をした。
特にこれと言って 何が欲しいという訳でも無い。
次 と言われて じゃあ次は・・ とは思いつかないし 土地勘も無い。
はて・・ どうしたもんだろう。
うーん。
「考えてないです。すみません」
この場合謝っておいたに越したことは無いなと 口にする。
「バカ!謝る事ないぞ。そもそも俺が 付き合え と誘ったんだしな」
あれ・・?
そっか・・教官って 食って掛かると怒鳴られるけど 先にしおらしくなっちゃうと優しいんだ。
さっきも思った。何だか今日の堂上教官 いつもと違う。
教官と恋人同士になれたら 教官はいつもこんな優しいんだろうか・・ふとそんな事が頭を過ぎる。
やだ・・私ったら 何考えてるんだろ。
ありえない ありえない ありえない
そんな事を考えながら 堂上の後を付いて行くと
「ここに入って行くか」
急に立ち止まってそう言うので見ると
休憩5000円 の文字が・・
はあ??
「教官!!ありえないですっ!!」
ぶっ、わっはっはっは!!
慌てる郁に 堂上の馬鹿笑いが降ってきた。
「堂上教官 おかしいですよ!違う人みたいです。教官がそんなこと言うとは思わなかったです!!」
「おまえ 俺が優しいとか ヘンな事言うから構ってみたんだ。優しくしてやるぞ」
「そんな事言って無いです!!」
「ダダ漏れだったぞ」
「バカッ!!」
郁は 力任せに堂上をどつくからたまったもんじゃない。
「悪い、悪い。冗談だろ。そんな気はないから 勘弁しろ」
いつものように頭をクシャっと撫でると
「当たり前です!!」
と 威勢のいい声が返ってきた。
ご機嫌直しのつもりで ちょうどそれなりの喫茶店が目に入ったので そこへ郁を誘導する。
店内に入り 眺めのいい窓際の席に座る。
メニューを見ると ハーブティーががお勧めらしく いろんな種類を揃えている。
郁の顔もパアーッと明るくなり さっき入ったお土産屋さんに居る時のようにウキウキしているのが分かる。
やっぱり可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
しかし・・俺が本当に 笠原とそうなりたいと言ったら やっぱり今みたいに否定されてしまうんだろうか・・
これはきっと告白する以前の問題だな。
「教官。ここカモミールのお茶ありますよ」
嬉しそうな郁に じゃあそれにするか とカモミールティーを二つ頼んだ。
雨も降りそうだし コレ飲んだら帰ろう と言うと はい! と笑顔の笠原に また一つドキッとした。