【15】最終話

夏の野外訓練

昨日の別れ際に 堂上から言われた。
「最終日 晴れるといいな」
その一言で充分だった。 きっと晴れる!!
てるてるぼうずより 絶対効果あるって そう思えた。

そして 朝から射すような日差しで目が覚めた。

昨日の雨雲は あれは自分の心の雲だったのかもしれない と思う。
くよくよしている自分。今にも泣きそうだった自分。

それが 堂上と半日だったけど一緒に過ごしただけで もう雲は晴れた。
握られた手。選んでもらったマグカップ。そして もらったハンドタオル・・
今は それだけで頑張れる そう思った。

きっと 今日の晴天は私の心と一緒。




毬江は小牧と既に約束しているので 朝食が終わると そのまま小牧のところへ行ったようだ。
部屋へ戻りながら 郁と柴崎は1日のスケジュールの打ち合わせをする。
帰りのバスが宿を出るのが18時。

「時間はいっぱいあるわね。昨日の約束どおり 今日は一緒に遊んであげるわよ」
そんな柴崎に 今日は手塚はいいの? と うっかり聞きそうになって止めた。

いったい手塚とはどうなっているのか・・ 私をほうってまで 何の話しがあったのだろう。
話を振って 逆に堂上教官の事でも言われたら困るのは自分だから 余計な事は言えない。

そう思って黙っているのに
「そうそう。堂上教官に ネタバレしておいたからね」
と 言う。何の事だ?
「ネタバレ・・?何のこと?」
「教官が笠原に渡したのは 散々悩んで買ったばかりの『水着』ですよーって」
「えーーーーーっ!」
「ご自分で渡したんだから ちゃんと見届けてやってくれるんでしょうね って言っておいたわ」
しれーっとして言う。
ちょっと待ってよ えーっ!!

「堂上教官ったら可愛いのよー」
クスッと笑ったと思うと
「そう言ったとたん 固まっちゃったわ」
更に続けてそう言うと ほっほっほ と笑う。
笠原の事しっかりと意識しちゃってるのね と言おうと思ったが黙っておく。
だって その笠原が既にいっぱいいっぱいに見えたから。
海に行く前に ちょっとからかい過ぎたかしら・・少し反省もしてみる。



用意できた? 
柴崎の問いかけに うん・・ と答えて 渋々部屋を後にする。
郁は柴崎にいいように煽られて 堂上教官に見られたらどうしよう とビクビクしまくっている。
とりあえず 上にTシャツを着て 下にホットパンツを穿いて。


宿から直ぐに行ける浜辺では 隊の皆が既に各々夏を満喫していて賑やかだ。
引き気味に でも期待も込めて一通り周りを見渡すと 郁より先に見つけたらしい柴崎が
「堂上教官!」
と叫んで こっちこっち と手を振る。
手を振る先に目をやると 堂上と手塚がこちらに向って歩いてくるのが見える。

ひゃあー どうしよう・・
郁は気付かなかった風を装おうと海に目線をやる。

程なくして 堂上が二人の元へとたどり着く。
水着姿を惜しげもなく披露している柴崎の隣に Tシャツに短パン姿の郁。
どう見てもアンバランスな郁に
「おまえなんで 普通に服なんだ?」
と声を掛けてきた。

郁が答えるより先に答えたのは柴崎。
「ヘタレでしょ。浜辺でありえないですよねぇ。教官脱がしてやって下さいよー」
「脱がせって バカ野郎!何言ってる」
慌てる堂上に 郁も
「柴崎!!」
脱がしてって あんたねー そんな事を言われたらなかなか水着になれないよ。
睨みを利かせるが そんな郁の視線にはお構いなしに
「折角買った水着が可哀想でしょう。あんたそのまま海に入るつもりじゃないでしょうね」
と 逆に睨みを利かせてくる。

うっ・・!困った・・
でもここで粘ったら さらに服を脱ぐタイミングを逸してしまいそうだし・・

と 突然柴崎が 
「もう あんた勝手になさい。私先に海に入ってるから。行こう 手塚」
手塚の手を引いて 歩き出す。
「し、柴崎 ちょっと・・」
益々状況が悪化しているような・・
堂上をチラッと見ると 堂上も困ったような顔をしている。



ホットパンツだけでも 郁のキレイな脚が露になっているのに 水着だとどうなんだ・・ そう思っただけ
で 堂上は目のやり場に困っていた。
しかし水着姿は身体のラインがハッキリ分かってしまうので 堂上的には 他の男どもに郁のそんな姿
を見られたく無いと思う気持ちもある。
が、ここは海だ。誰もが海水浴を楽しむ海だ。
複雑な思いでいると 自然に顔が強張る。


「俺も行くぞ」
ムスッとした顔で言われ 益々不味い。
知らずに身体が勝手に動いて・・堂上の腕を掴んでいた。
怪訝な表情の堂上。
「なんだ?」

「あの・・本当に水着になるの 自信ないんです。胸無いし・・。教官も・・やっぱり胸ナイよりもあったほ
うがいいですよね・・」
頬を赤らめて 郁がそう言うので 堂上もつられて照れてしまう。が・・
「バカ!そりゃ人それぞれだぞ。俺は 好きなヤツだったら 胸があろうが無かろうが関係無い」
そう言いながら 郁の頭をクシャッと撫でる。
今の発言は セーフだろうか・・

それって どういう・・?
教官は 気にしないと言ってくれたって そういう事・・でいいのかな。

「とにかく・・行くぞ。脱ぐなら脱げ。待っててやる」
そう言って郁に背を向ける。
これ以上待たせるわけにはいかない。郁は腹を決める。

「はい!笠原脱ぎます!」
何故か敬礼して 脱ぎ始める。
「バッ・・ 声がでかい!いちいち宣言するな!」
つい振り返ってしまった堂上は ホットパンツを脱ぎかけの郁と目があった。
「す、スマン」
慌てて身体の向きを元に戻す。
何謝ってんだ・・ 水着になれば一緒じゃないか・・



そんな二人を 海から眺める柴崎と手塚。
「あれは どう言ったらいいのかしらね」
「どうって?」
「初々しいんだか タダのおバカさんか・・はたまた 痴女と唐変木か よね」
「どれも・・違うような気がするが」
「あんたって 相当面白くないわね」
手塚は何だかバカにされたようで面白くないのはこっちだ とふてくされる。


郁は自分よりちょっと肩の線が低い堂上の背中を目の前にして 戸惑っていた。
その頼りがいのある 何かあるといつも助けてくれる そんな堂上のよく鍛えられた背中。
とても眩しいと思う。
私は 教官の目に どんな風に映っているんだろう。



そんなこんなで 海に入るまでにかなりの時間を掛けてしまったが 入ってしまえばそれはそれ。
郁達は 時間までタップリと夏を楽しんだ。

帰りのバスの中。
来た時と同じ座席に座るという玄田の指示で 郁の隣はやっぱり堂上だ。

「楽しかったですね」
「ああ そうだな」
そんな普通のやり取りの中で 突然堂上の爆弾発言で郁が固まる。
「おまえの水着・・かなりセクシーだった」

きょ、教官 それ セクハラです!!

「また 海に来れるといいな。今度は訓練無しで がいい」

そ、それって 誰とですか・・もしかして誘ってる??

郁が返事をしないので 堂上は郁を覗き込もうとするので 寝たふりを決め込む。
どうした 寝たのか? 
それもそうだな。かなり疲れたしな・・ そう言うと堂上も目をつむった。

後は・・
行きのバスの中と同様 寄り添って寝る二人がそこに居て また小牧にバッチリと撮られていた。

毬江は 小牧にそっと呟いた。
「本当に 堂上さんと笠原さんって 付き合ってないんですか?なんだかとっても不思議・・」

いろんな思いを乗せたバスは一路 武蔵野の基地へと向って行った。


・・また海に一緒に行けるといいですね・・

                                               fin.

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