その時何が・・ 〔前篇〕
いつもより遅く起きてしまった。
深夜、同室の柴崎と借りてきたホラーのDVDを見たら夢に出てきてうなされた。
それから暫く寝れなくて、いつ寝たのだろうか。
気づけば寝坊してこんな事態に・・。
柴崎はさっさと起きていて何度も起こしてくれたらしいがそんな記憶も無い。
「おいていくわよー」
の、声でハッと我に返り、目が覚めた。
バタバタと支度をして 遅刻して怒られないようにしなきゃ と・・・慌てた。
寮を出てから直ぐに気がついたが、もう部屋に戻ったら遅刻してしまいそうな時間だった。
今日1日くらい 無くても大丈夫だよね。
何も無い日だったよね・・
柴崎がもっと早く起こしてくれたらいいのにィ
と、とりあえず人のせいにしながらダッシュで図書特殊部隊の事務室へと駆け込んだ。
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そんな事を今更悔んでも仕方がない。
寝起きモードで今日のシフトの事は事前に言われていたのにすっかり忘れてしまっていた。
昨日の時点ではちゃんと覚えていたのに。
今日のバディは手塚とだった。
2人で町の哨戒へと向かった。
そこで事件は起きた。
いつもの道順で回り、良化隊に出くわす事も無く何事も起きずで 今日も平和ねー と冗談すら
言っていた時だった。
基地へと帰る途中で迷子の男の子を見つけた。
周りを見渡しても親らしい姿は見受けない。
ママー、ママーと泣く男の子は3、4歳位で この辺でよく見掛ける幼稚園の制服を着ていた。
あまりに泣きじゃくる男の子は何を聞いても埒があかない。
郁は思いあぐねて
「手塚、ちょっと先に戻ってて。私、幼稚園にこの子を送ってくる」
そう言って男の子の手を取った。
「分かった。幸い幼稚園はこのすぐ近くだしな。堂上二正には俺から言っておく」
じゃ!と手をあげて手塚とはそこで別行動になった。
無線も手塚に渡した。
幼稚園に子供を送り届け、園長先生から深々とお礼を言われて頭を掻きながら後にする。
いい事をしたなーっ と、ご機嫌で基地に戻る時だった。
たまたま通りかかったコンビニから悲鳴が聞こえる。
戦闘職種の性か 何事かと身体が勝手に動いてしまう。
「どうしましたか?」
駆け込むと 店員をナイフで脅している強盗に出くわした。
「なんだお前。こっちへ来るとコイツがどうなっても知らんぞ!」
サッと店内を見渡すと客は誰も居ない。
店員は逃げたのか、そもそも居なかったのか、脅されている1人だけのようだ。
犯人は店員にナイフを突き付けているのを合わせて3人。
腕には自信のある郁でも身動きが取れない。
もし攻撃に出たら人質になってる店員に危害が加わらない訳がない。
どうする・・
とっさに携帯の通話ボタンを押して、こちらの様子を聞こえるようにしようと思って・・思い出した。
・・そうだった。今日、部屋に携帯忘れたんだった・・
特殊部隊の隊員が持っている携帯にはGPS機能も付いている。
もし郁の帰りが遅いと何かあったと思って気がついてくれるはずだ。
でも、気がついたところで携帯が無いと連絡すら何も出来ない。
こんな日に限って なんでこうなるのよ・・
思っても後の祭り。
堂上教官に あほう!とまた拳骨かな・・ ってそれどころじゃないわよねっ
こんな男ドモ 私一人だったらやっつけてやるのに!
うー だの あー だの言っていると
「何やってんだ。へんな奴だな」
と犯人の1人に笑われて、こんな状況なのに
「五月蝿いわねー!強盗なんかやってないでちゃんと働きなさいよ!」
などとついつい言ってしまい
「女は黙ってろ!」
と、別の犯人にナイフを突きつけられる。
女は黙ってろって かなり人権差別じゃないのさー と声には出さずに膨れてしまう。
女だからと馬鹿にされるのも腹が立つ。
どうやったらこの状況をどうにか出来るかと思うが 堂上教官だったらきっと思いつくんだろうな
としか思えなくて・・
落ち着いて考えよう とブツブツ言っているとまた犯人に笑われたり・・
なんだ?このユルイ状況は?
ただ一つ落ち着けないのは、ナイフを突き付けられている40〜50歳位の店員のおばさん。
助けてー だの キャアー だの 殺さないでー だの五月蝿いのだ。
これじゃあ 犯人がそのうち切れてしまって刺してしまいそうだ。
まずは店員を黙らせないとだわ
それは分かるが、さてどうしたらいいのか・・
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その頃、図書特殊部隊の事務室では なかなか帰ってこない郁を堂上が酷く心配していた。
「手塚、笠原はまだ戻らないのか?」
「はあ・・ 直ぐに帰ってもいいんですが・・ 何かトラブルでも巻き込まれたんでしょうか」
あながちトラブルに巻き込まれないとも限らない と思われている郁だけに、本当に何かあった
のかと不安になるのも致し方ない。
「堂上、携帯に掛けてみたら?」
小牧にそう言われ そうだったな と今更気づいて不機嫌な顔で誤魔化しながら郁の携帯を鳴
らした。
が、出るはずもなく・・。
携帯が鳴っているのは寮の郁の部屋だ。
当たり前に「はい、笠原です」と出ると思っているのに 何度コールしても当人が出る気配はない。
これは ただ事ではない!堂上の眉間に皺が寄った。
「笠原が電話に出ない」
呟くようにそう言って、堂上は受話器を置いた。
何が起きてるんだ・・?
「え?笠原さん電話に出ないの?」
余りに心配症な堂上をからかって楽しんでいた小牧も 流石に難しい顔になった。
「自分も一緒に行動していたら・・」
手塚はいったいどうして?と困惑している。
手塚と郁の引き継ぎで哨戒に出た隊員に連絡を入れ、郁が戻らない事を伝える。
「分かった。何か起きているのかも知れないな、それは。注意して見るが、他にも応援頼む」
良化隊に見計らいを勝手にやってしまった事がある郁だ。
良化隊と揉めているのか?
それとも・・
また何かに首を突っ込んでいるのかもしれない。
堂上は経緯を玄田に伝え指示を仰ぐ。
「警察はあてにならん。堂上、お前に任せる。好きにやっていいぞ」
その言葉に苦笑いしつつ敬礼する。
「堂上班は笠原を探しに出る。他に・・」
他班に協力を求め 急く気持ちを抑えながら堂上は街へと飛び出した。