その時何が・・ 〔後篇〕
先に出た仲間からは未だ何の連絡も無い。
堂上は、何がどうなっているのか分からないもどかしさで やり切れない思いが募る。
まるで雲を掴むような話だ。
何処をどう探せばいいんだ・・
携帯電話のGPS機能で追跡してもみた。
しかしそれは基地内を示しており、時間が経過しても動かない。
携帯していないのでは・・ と言う思いを裏付けるに過ぎなかった。
何処に居る・・ 何が起きてるんだ・・
手分けして街に散った仲間からは、見つからないといった連絡しか入らない。
「堂上、大丈夫だよ。笠原さんに限って何かあるわけがない」
「ああ。あってたまるか」
小牧の言葉に、余裕が無くなっている自分に気づく。
気を使われたな
力強く頷いてみると、小牧も大きく頷いて堂上の肩を力いっぱい叩いた。
喝を入れられた そう思った。
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「なんであんたたちこんな事したの?強盗なんて今どき割が合わない事だと思わない?」
冷静に冷静に・・ そう自分に言い聞かせながら、郁は自分にナイフを突き付けている犯人の
一人に問いかけてみた。
「こんなことしたって、うまくいきっこない。逃げれると思ってる?捕まったら人生棒に振っちゃう
んだよ」
ジロリと睨まれるだけで何の返事も返ってこない。
それでも続ける。
さっきから、郁のことでユルイ反応を示している犯人だ。
何の確証も無いが、きっと3人の中でも悪い奴じゃないのかもしれない と勝手に思い込む。
「今ならまだ警察にも通報してないし、私とあの店員のおばちゃんだけしか知らないから・・。ね、
考え直そうよ」
店内の様子をうかがっていると 3人の役割が見えてきた。
1人が入口で見張り役になっている。
店員のおばちゃんにナイフを突き付けているのが1人。
そして郁を押さえ込んでいるのが1人。
店員のおばちゃんはパニックに陥っているようで、どうやら犯人の要求に上手く答えれないでい
るようだ。
レジのお金と金庫のお金を袋に詰めるように指示されているようだが、騒ぎすぎていて身体が思
うように動いていなく、埒があかない。
今にも刺されそうで、郁は冷や冷やしながらそれを眺めていた。
いや、それ以上に店員のおばちゃんが今にも心臓発作でも起こすんじゃないかと心配になってき
た。
多分、店員のおばちゃんは足が竦んで歩くこともままならない状態なのだろう。
と言うことは、一緒に走って逃げることは困難になる。
郁はまず、郁を押さえている犯人を投げ飛ばす事を考えた。
その後、すかさず手に届く中で一番大きな物をカウンターの中の店員のおばちゃんを脅している
犯人に向かって投げつつ、持っているナイフを蹴り落とす事をシュミレーションしてみる。
頭の中では綺麗に決まるのだが、果たしてそう簡単に行くものだろうか?
郁の問いかけに、郁を押さえ込んでいた犯人が少し怯んだような気がした。
やっぱりこの人は悪い人じゃ無いのかも?
やるなら今だ。
「ね、考え直そうよ。今ならまだ間に合うって」
そう言い終わらないうちに、郁は得意の投げ技を放った。
意表をつかれ、踏んばることが出来ずに犯人は宙を舞った。
ドスン・・ ガッシャン・・ ガラガラガラ・・
そしてすぐさま近くにあったチラシを乗せていあった台を掴むと
「おばちゃん しゃがんで!!とにかくしゃがんで頭庇って!!」
そう言いながら、犯人に向けて投げつけた。
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・
「○○交差点近くのコンビニの入口に男が一人ずっと立っていて誰も中に入れないそうだ!」
これは怪しい。何かある。
無線に入ったコンビニは、堂上の現在地点のすぐそこだ。
「小牧!」
堂上と小牧は顔を見合わせ頷くと、力いっぱい駈け出した。
直ぐにそのコンビニに到着する。
近づいて見ると、いかにも怪しそうな雰囲気の目指し帽にサングラスの男が見て取れた。
何も知らないふうを装って、少しずつ近づいていく。
しかし特殊部隊の戦闘服の男が2人だ。
否応なしに目に付く。
構わず進み、入口までその男まで あと数メートルのところまで来て事態は一変する。
ドスン・・ ガッシャン・・ ガラガラガラ・・
店内から物凄い音が聞こえてきたのだ。
店の前に立っていた男がその音に驚き振り返る。
そして、小牧がその男を押さえ込みにかかる。
「堂上 ここは俺に任せて!」
「頼んだ!」
躊躇せずにドアを開け踏み込むと、ちょうど郁がそこにあった台をカウンターの中に向けて投げよ
うとするところだった。
床に転がった男と、カウンターの中に男が台を避けようとしているのが見えた。
瞬時に状況を把握して、堂上は台が飛んで行くのと同時にカウンターに駆け込む。
「笠原!転がってる男を捕まえてろ!俺はコイツを捕まえる!」
「・・きょ、教官・・」
なんでこの人って、私の窮地にいつでも助けに来てくれるんだろう。
突然の堂上の登場にビックリしながらも、命令に反応して身体が動く。
狭い店内の通路で大外刈りをくらい、陳列棚に激突した犯人は脳震盪を起こしているようで、郁
が抑え込まなくても大丈夫だった。
郁の瞳は自然と堂上を追っていた。
こんな状況なのに、犯人を取り押さえている姿に カッコイイ と思ってしまう。
気が張っていたからなのか、さっきまで犯人と対峙していた時には無かったのに、心臓がドキドキ
脈打っているのが分かる。
堂上は、犯人を取り押さえ、警察への通報と図書隊への連絡をテキパキとこなす。
店の外の犯人を取り押さえた小牧も店内に入ってきていた。
手塚や他の特殊部隊の仲間に任せ、堂上はその場にへたり込んで座っている郁の傍にしゃがん
だ。
「よくやったな。上出来だ」
そう言って郁の頭に手をやると2、3度ポンポンとした後でクシャっと撫でる。
それで郁の堰が切れた。
堂上達、特殊部隊の仲間の居る作戦の時と違って今回は一人だった。
大丈夫だと思っていたのに、自分でも分からないうちに要らない力が入っていたのだ。
堂上教官の手は魔法の手だ と郁は思う。
余計な力が抜けていくのが分かる。
大きな優しい手。
涙が頬を伝っていた。
そんな郁を見て、堂上はずっと頭を撫で続けていた。
「笠原・・。頑張ったな」
声を掛けずにはいられなくなってそう言うと、俯いていた郁が顔を上げる。
自然に視線が絡んだ瞬間、堂上は郁を抱きしめていた。
「頼むから、俺達が助けに来るまでじっとしていてくれ」
何度も何度も堂上に助けられ、また心配を掛けた。
そう言えば前にも同じような台詞を聞いた気がする と郁は思った。
***
事情聴取も済み、基地に戻った頃には夕方の6時をまわっていた。
玄田隊長や同僚に労いを受け、武勇伝が増えたな と、いい意味で元気づけられる。
視線は堂上を探していた郁だったが、そこに堂上は居なかった。
今日のお礼が言いたかったのに・・
そして、頭をポンポンとしてもらいたかった。
「今日は疲れただろう。もう上がっていいぞ」
玄田の言葉に お疲れ様でした と帰寮する。
あんな事があったせいか、かなりの疲労感だ。
最後の頭ポンポンが心残りだった。
堂上も事情聴取に呼ばれ、その後は事件のあったコンビニへの挨拶と雑務に追われていた。
こっちも被害者とはいえ、店舗の中を滅茶苦茶にしたのは郁だった。
挨拶は当事者として、上官として堂上の役目だ。
総てやり終え図書特殊部隊の事務室に戻ると郁は既に 帰寮 になっていた。
あの時の涙を溜めた顔が脳裏を過る。
今日はちゃんと寝れるだろうか
大切な部下であり、伝えられずにいるが、なによりも堂上の想い人だ。
帰寮 と書かれたボードをずっと見ていたからか、察しのいい友人が声を掛けてきた。
「心配なら電話したら?」
そうだな。
上官として、今日の労いをしてあげても問題はないだろう。
堂上のフッと緩んだ顔を見て、傍にいた小牧も上戸ではない笑顔になっていた。
fin.