想いの先にたどり着く場所は・・   

【1】

ここのところ女子寮では、駅の向こう側に新しく出来たショッピングモールの事で話題が持ちきりだ。
今話題のデザイナーショップや、女の子御用達のお店など、どこのどれが、どうでこうだ・・と、何処に
居ても、その話題が耳に入ってくる。
あそこのソレが素敵だったと聞けば、見たくなる。
あのメニューが美味しかったと聞けば、食べてみたくなる。

勿論、郁とて関心が高く、公休を合わせて柴崎と一緒に行く計画も立てているくらいだった。


「今月号の『新世相』に載せたコラムはあんな感じでOKだったかしら?」
気が付くと、隊長室から折口の声と共に本人が現れる。
「そうだな。あんなもんだろうな」
言いながら玄田が続く。

「いつから来てたの?」
郁は身をかがめて隣の席の手塚に尋ねる。
「お前がさっき飲み物を買ってくるとか言って席を外した時だったかな?どこまで買いに行ったんだか
って、堂上二正が怒ってた時に、確か隊長と一緒に来たんだったな」
うーん、と考えながら、手塚は郁の問いに答えた。

で、どこまで行ってたんだ?かなり遅かったじゃないか まあ俺には関係ないがな と、手塚は問い
ただしているようで、しかし気になどしていないといった素振りを見せる。
なによー、それ! と郁は口を尖らせて反論するが、そう言えば飲み物を自販機まで買いに行った所
で、業務部の数名があの例のショッピングモールの話をしていたので、ついついちょっとだけだからと
立ち聞きしてしまったら遅くなってしまったのだと思い出して、逆に肩をすぼめた。

そんな二人のコソコソとしたやり取りを耳にすると、折口はジャーナリストらしく、
「あら、郁ちゃん。そのショッピングモール行ってみたの?」
と、ササッと拾い上げる。
「え?」
な、なんで? 目を丸くしていると手塚に 口に出してたぞ と小声で囁かれる。
そう言えば・・と思い返していた内容が、いつものようにダダ漏れになっていた事を知らされ、身も蓋も
ない。

「いえ・・まだ行ったこと無くて。でも、皆の話聞くと凄いらしくて!あの・・折口さんは勿論行かれたん
ですよねー?」
「そう言う私もまだなの。若い子たちは取材を兼ねてって、直ぐに行ってたけどね」
ふふふっと笑う折口に玄田は
「珍しいな。そう言った類は、真っ先に出掛けてったクチだろうが?」
お前も歳取ったな と言うとガハハハと笑った。
「あら、失礼ねぇ。歳を取ったのはそっちも一緒でしょ」

あー、いい感じ! 

似た者同士ってこういう事をいうんだろうな と二人を見て郁は思った。
そんなふうに、同じく歳を重ねて行けたら・・
あの大きな背中をずっと追いかけて、もし最悪でも、せめてそんな二人になれたらと・・妄想を巡らせ
て、ニンマリと笑う。
それも、悪くないかなー と。

そうなるまでの玄田と折口の二人のいきさつなど全く知る由もない郁だったが―

「おい!さっきはさっきで行ったきり帰って来ない上に、今度はしまりの無い顔しやがって?」
気がつけば堂上が脇に立って睨んでいる。
おわっ!
のけぞるように反応すると、
「緊張感の欠片も無いな」
呆れたような低い声が返って来た。
これはもう怒っている声に違いないと勝手に理解するが、反射的に
「堂上教官が急に声掛けるからですよー。緊張感とか言わないでください!」
と、鼻白んでしまう自分が嫌になる。

あー、なんでこうなるかなー。
折角今、隊長と折口さんみたくなれたらなー って思っていたばかりだったのに。
やっぱり、無理なのかな・・

そう思うと段々「負」の発想しか思いつかなくなる。
そもそも相性いいかも問題だよね。何だかスッゴク最悪な気がするー。
水と油?豚に真珠・・?馬の耳に念仏??・・猫に小判―おい!
前世で敵同士とか・・ウソォー

「誰が誰と敵同士なんだ?」
「ええっ・・!あの・・その・・それはー・・」
「まったく!一人でノリ突っ込みしやがって、何やってんだ!」
堂上から本気の拳骨が落ちる。

う〜ん・・それ、何か怒る場所、間違ってるような――
郁は頭を押さえながら、ちょっとむくれて堂上を見上げた。

と、視線が絡む。

えっ!?何で?見てた!?

郁は思わず、視線を先に逸らした堂上の顔をマジマジと見入ってしまった。
私また何かやらかしたんだろうか・・
自分でも気づかぬうちに何かをやってしまったり言ってしまったりで、怒鳴られる事が、数えてみたら
結構ある。

あーあ、また理想の二人からは遠ざかっちゃうよね。
などと思って、ああそうだ と気付く。
・・それよりも、何より堂上の気持ちすら分からないって言うのに。


 **


堂上は、ダダ漏れになっている郁の言葉に戸惑っていた。
何をまたバカな事を言ってるんだ と軽い気持ちで郁の机の脇に立ち、睨みを利かせて仕事をちゃん
としろ! と言うつもりだったのに・・。

『隊長と折口さんのような二人になれたら』

とは、どういうつもりで言ってるんだ!?――



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