想いの先にたどり着く場所は・・

『隊長と折口さんのような二人になれたら』
とは、どういうつもりで言ってるんだ!?――
俺と?
隊長と折口さんのような・・?と言う意味か?
少し気持が揺らいだ。
そして『敵同士』で、固まってしまった。
そして郁の真っ直ぐな視線に、一人うろたえてしまった。
こんな気持ちは、きっと俺だけなんだろうな――
何を一人で動揺しているんだか。
知られてはいけないと思った。
既に鍵の無くなってしまった蓋は、色んな場面で顔を出しそうになって苦る。
今のこいつには俺の存在はきっと負担になる・・。
だから、理性をフル動員してまでも鬼教官・・上司に徹することにしているのだ。
それに俺は、もうあの時の三正では無いのだから。
そう自分に言い聞かせているのだから・・
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「何だ?何か言いたい事があるなら、ハッキリと言え」
堂上は余りにも郁が顔をマジマジと見ているので、再度向き直り、敢えて眉間に皺を寄せてそう言っ
た。
無意識だったので、言われた郁はかえってビクッとして
「・・あのっ!それはっ・・。えと・・何と言うか・・」
と、しどろもどろになる。
そしてチラッと堂上を見、肩をすぼめて
「あんまり教官と喧嘩ばかりになっちゃうので、えと・・これは前世では敵同士だったんじゃないかと思
いまして・・。あはは」
誤魔化すように笑い飛ばすしかない。
あとは、なるようになれ!ええい、ままよ!
一気に言い放った。
「アホか、貴様!」
怒鳴り声と共にガツンと拳骨が飛ぶ。
「いったーーい」
頭を押さえた郁が恨みがましく堂上を見る。
「痛くて当たり前だ」
そして少しの間の後、
「敵同士か。上等だな」
そう小さく呟く堂上の声がかすかに聞こえた。
えっ?それってどう言う??
郁が堂上を覗き込むように見ると、ジロリと睨み返される。
「何だ?」
「何でもありません!」
郁は反射的にいつものクセで敬礼をしながら応える。
そして怒鳴り声を覚悟していたのに、溜息をつく堂上がそこに居て逆に驚いてしまった。
・・ここで溜息?その溜息の理由って!?
郁の頭の中はハテナ?でいっぱいだった。
今日の教官、なんだか変だ。と首を傾げるばかりだ。
それは郁の何気なく漏らしている『言葉達』のせいだとも気づかずに。
「笠原!いつまでボーっと突っ立ってんだ。机の上の書類、今日中に提出だぞ!」
郁は堂上の怒鳴り声でハッと我に帰る。
「ちょ、待って!まだ何にも・・うっーーーーー」
慌てて椅子に座り書類に向かった。
書類の空欄を埋めながら、どうにも背中合わせの堂上が気になる。
振り返りたいけどソレも出来ない。
もう!なんなのよーーー!分んない 分かんない 分かんない・・
髪を両手でクシャクシャと掻きながら、それでも書類の活字を読もうとする。
しかし振り返れないもどかしさから、悶々としてきてサッパリ書類の文面が頭に入らない。
落ち着け!落ち着け!私!!――
焦れば焦るほど、更に目は宙を泳ぎ、頭が真っ白になってきて・・。
そして郁が うわー と声を出すのと同時に拳骨が落ちた。
「何を騒いでる!お前が終わらないと俺が帰れないんだが、今日はここに泊まる気か?」
恐る恐る郁が振り返ると、いつも以上に眉間に皺を寄せた怪訝な顔の堂上がそこに居て。
そしてそれは、いつも見慣れた光景で。
さっきまでの違和感など感じない、いつもの、いやそれ以上に不機嫌な堂上教官の姿だった。
・・・。私の想いが強すぎて、いよいよ幻覚とか?幻聴が聞こえてる??
「きゃあー、スミマセン。なんでもないです。すぐやりますからー」
何、一人で舞い上がってるんだろう。と、落ち込みながら、とにかく活字を一つ一つ拾って読む。
そうでもしないと、頭に入ってこなかった。
こんな想いをしているのは私だけ――なんだろうな・・
そう思うだけで、更に落ち込んでしまいそうだ。
それでも、その大きな背中を追いかけずにはいられない。
だから、こんな事で教官に迷惑を掛けちゃいけないんだ。しっかりしろ、郁。
自分に喝を入れて、与えられた書類を埋める事に今は没頭することにする。