拳骨を落としはしても、怒りだけの拳骨では無い。
少しは触れたいという想いも重なって、しかしバレてはいけない想いからの拳骨だ。
出来ればいつも、頭をクシャクシャと撫でたい。
なんて考えてると知ったら、こいつはどんな顔をして俺を見て、そしてどう思うんだろうか。
最初はあれだけ咬みついていたのが、最近は拳骨に反応して、分かりましたと素直になる。
今だってそうだ。
少しは言い返してくれたらと思うのに、素直に頷かれたら一方的にいじめているような錯覚に陥って
拳の痛みだけが残ってしまう。
俺も大概バカだな――
堂上は、自分の拳を眺めながら溜息をつく。
いつまでこんな時間を過ごすのだろう。
ずっと・・もしかしたら、死ぬまでずっと・・このまま・・
そして、いつの日か笠原は、俺の手の届かない所へ行ってしまうんだろうな。
俺の拳骨すら届かない場所へ――
そう思ったら、胸がチクリと傷んだ。
俺はいくつだ!?学生さんじゃ無いんだぞ。しかし・・・
こんなにまで、彼女の存在が自分の中で大きくなっている事に改めて気付き、驚愕する。
好きだと言える日が、俺には来るんだろうか。
いや、言えるわけがない。
俺は自分から憎まれ役に徹して、鬼教官と言われる地位を築き、そうなる事を選んだんだ。
それを後悔してはいない。
俺の目の前で、俺以外の誰かと幸せそうな笠原の姿を俺はちゃんと見れるんだろうか。
見れるはずだった。
でも今は自信が無い。
それどころか・・
頭をクシャっと撫でた手で、そのまま抱きしめたい衝動に駆られる。
柔らかそうな唇に触れたくなる。
全てをこの手に包み込みたくなる。
ほとんど病気じゃないのか!?と思えるほどに、笠原が好きだと全身の全細胞が訴えている。
もう、心の蓋の鍵はとうに壊れてしまって、想いは漏れ出している。
あんなに嫌われて当然と思っていたのに、今はそれが辛い。
俺を見て欲しい。
一人の男として向き合って欲しい。
今さらかもしれないが・・・
**
「班長?大丈夫?」
小牧が面白そうに声を掛ける。
どうも心配そうな声では無い事は確かだ。
コイツはこの状況を楽しんでいる。
自然と堂上の眉間に、深い皺が寄る。
「何がだ?」
五月蝿いと言わんばかりの声色で小牧を見る。
「何だったらさ、そのショッピングモールとやらに行ってみようよ。俺も毬江ちゃんと今度の公休にでも
行こうかって話出てるところだし」
「俺は特に興味は無いがな」
敢えて興味が無い体を装う。そもそも、そんなに気にはなっていなかったのも事実だった事だ。
行くなら勝手に行けばいいだろう。
もう完璧に不貞腐れているのが分かる態度だが、小牧相手だから、まあいいかと思う。
構われていると分かるのが面白くは無いが。
「別にいいじゃない。市場調査って事で行ってみれば」
ね!と小牧にニッコリ微笑まれて、堂上は肩を落とす。
「そんな笑顔を俺に向けた所で、俺には何の効き目もないぞ」
眉間に皺を寄せて小牧を睨めばクックッと上戸が入った。
「名目は何だっていいじゃない。要は出掛ける事が大事だよ。班長」
と言われ、何が狙いだ?と小牧を睨む。
「やだなあ。部下二人も行きたがっているんだし、班の親睦を図るため?」
半分からかっているが正論の小牧には何を言っても勝てる気がしない。
「班の親睦を図るのにショッピングモールか?」
取り敢えず眉間の皺をわざと作って、そう言うと
「ほら、ここのところ忙しかっただろ。たまに息抜きもいいんじゃない」
と、あっさりかわされる。
そうだな、息抜きもいいかもしれない――
職場とは違う、プライベートの時まで鬼教官よろしく気を張らなくてもいいとしたもんだろう。
そんな事を考えてフッと気が緩んでしまった。
「そうそう。そんな顔の方がいいよ」
クックッと上戸の入った小牧に突っ込まれ、慌てて 阿呆! と怒鳴る。
**
気もそぞろで、でも早く日報を書かなきゃと焦る郁は、堂上が急に怒鳴った声についつい反応する。
「きゃあ!す、すいません!!」
二人の態度を交互に見比べながら、小牧の上戸は最大になっていた。
つづく・・
想いの先にたどり着く場所は・・