気もそぞろで、でも早く日報を書かなきゃと焦る郁は、堂上が急に怒鳴った声についつい反応する。
「きゃあああ!す、すいません!!」
その声に、堂上の方が驚いて
「何騒いでる!」
と立ち上がった。
二人の態度を交互に見比べながら、
「相変わらず仲がいいね」
クックッと小牧の上戸は更に二倍増しだ。
「小牧!どう言う意味だ!」
「小牧教官!どう言う意味ですか!」
そう言ってお互いを怪訝そうに見る二人と、重なった反論に、小牧の上戸も最大級になっていく。
「やべっ・・横隔膜つりそう・・」
そこへ、折口を送って来たのだろう。玄田が事務室に戻って来た。
「ん?どうした?」
小牧が苦しそうに笑い転げている姿と、気まずそうに立ちあがっている二人を見て、ニヤッと笑う。
その顔は何もかもお見通しと言わんばかりだ。
「何でもありません。お気づかい無用です」
いたって落ち着いた口調で堂上はそう玄田に答えると
「笠原!さっさと日報!」
と、怒鳴った。
「あれ?笠原さんヤブヘビだよね。堂上に怒鳴られる事してないのにね」
小牧は堂上を見やりながら相変わらず上戸が入ったままだ。
そうだ。
もし俺が笠原のことを・・なんて知られたら、こんな風にからかわれるに決まっている。
笠原にしてみたら俺とどうのこうのと言われるのは、きっと不本意だろう。
それにしても、小牧はどこまで俺の気持ちに気づいているんだろうか。
堂上はいつものような眉間に皺を寄せた顔で小牧を見ると
「いつまで笑っている。さっきの話だが、行きたい奴で行けばいい。俺の前でその話は二度と出すな。
いいな。分かったか」
そう言うと、何事も無かったかのように椅子に座りなおした。
エッ?
ビックリして小牧は、ヤレヤレとした顔になる。
本当に何事も無かったように、いつものように書類に目を通す堂上にどうしたもんかと溜息をつく。
「笠原さん。さっきね、例のショッピングモールに班で行ってみようかって言ってたんだよ。ちょっと行き
違いがあったみたいで班長は急に行かないって言ってるんだけどね」
小牧はワザと堂上にも聞こえるようにそう言った。
「小牧!今、俺の前で言うなとー」
堂上がムッとして言い掛けたところで、郁が割って入る。
「小牧教官!いいんです!私も特別そんなに行きたいとか、そんな事なくて・・。だからいいんです」
あーあ、無理やり叫んじゃって――
勢いよく言い放った郁の態度に、フッと優しい笑みを投げかける。
それに気づいてか気付かないのか、
「あ!日報!」
慌てて郁は自席に戻ると日報を書きだした。
郁が座るや、手塚は小声でコッソリと
「おい。さっきはあれほど行ってみたいとか言ってなかったか?」
と、言っているが、小牧にも堂上にもその声は聞こえてくる。
堂上教官、私が好きだなんて言ったら、きっと今みたいにキッパリと「だから何だ?」とか言うんだろう
な・・俺には関係ないって・・
きっと、迷惑なんだろうな・・ だから、もういい・・
「だから・・もういいんだって」
それが声になって出た。
あらあら。この二人、何をそんなに頑なになってるんだか。
小牧はまたまた二人を見比べながら
「どうにも困った二人だね」
と、つぶやいた。
**
そんなやり取りをニヤニヤと見ていたのは玄田だ。
「面白い見世物だったな」
そしてフッフッフッ と笑うと
「よーし、堂上班。ちょっと聞いてくれ」
何かいい事でも考え付いたかのように、楽しそうに声を掛けた。
嫌な予感がしながらも、堂上は玄田の方に向き直る。
すると玄田は、
「さっき、駅向こうに出来たショッピングモールの件で『新世相』で取り上げた記事が問題でこじれてる
事があると相談を受けてな。俺はどうもああいう場所は苦手だ。堂上、お前の班で行って聞いて来て
くれ」
満面の笑顔で、それもこれ以上楽しい事は無いと言った顔で、どうだ?と玄田は悪戯っ子のように笑
って堂上を見た。
つづく・・
想いの先にたどり着く場所は・・