満面の笑顔で、それもこれ以上楽しい事は無いと言った顔で、玄田は悪戯っ子のように笑って堂上を
見た。
「どうだ?やってくれるか?」
**
そして堂上班の公休日。
ショッピングモールの中央に造られた緑豊かな中庭。
そこに設置されているベンチに、堂上は一人不機嫌そうに座っていた。
「やってくれるかとか、それは命令ですか?」
つい、不満そうにそう聞いてしまって、失敗したと堂上は眉間に皺を寄せる。
余計な一言だった。
「おお、そうだ。これはまあ何だな、命令だ」
そう言うと玄田は豪快に笑い飛ばした。
そのお陰で、堂上班のショッピングモールの行きが決定した。
それはいつの間にか、柴崎も同行することになる。
「あら。毬江ちゃんが行くんだったら、私が行っても問題ないでしょ」
と。
シッピングモールに着くやいなや、
「堂上、ちょっと別行動いいかな。後で協力するから」
そう言うと、小牧は毬江と共に人混みに消えて行った。
(後で思い返せば、小牧は玄田の思惑を知っていたのだろう)
柴崎は柴崎で
「私は玄田隊長の命令とは無関係だから」
と言って、雑誌片手に
「手塚借りてくわ。美人一人じゃ危険でしょ」
と、これまた人混みに消えて行った。
手塚はバツが悪そうにしていたが、相手が柴崎だとどうも仕方ないらしい。
「すいません、堂上二正。柴崎の用が済んだら協力するので」
堂上は気難しい顔をして
「分かった。行ってこい」
そう言うなり、思案してしまう。
残されたのは堂上と郁だ。
「笠原、行くぞ。まさかお前まで別行動するとか言わないだろうな」
「はい。大丈夫です。何の用も無いですから」
にっこりと笑う郁に、堂上は内心グッときながらも、困った顔を取り繕う。
まずは玄田の命令を遂行しなければならないと、至って真面目な堂上は店に赴いた。
しかし玄田の依頼はまったくもって意味など無く、問題となっていると聞いた店に行ってみると、店員
には笑い飛ばされ、事実無根だと分かった。
「図書特殊部隊の玄田様に、『ウチの部下がやって来たら「ご苦労さまだった」と言ってくれ』と申しつ
かってます」
これは、玄田にハメラレタ。
怒ってみても相手はあの玄田だ。
少しは後で意見をしても、それはどうにもならない事も堂上には分かり切っている事だった。
そうなると、もう後はやる事も何も無く、降って沸いたような自由時間は堂上には手持無沙汰でしかな
かった。
傍らを見れば、愛おしい郁が居る。
場所は職場でも何でも無い。大勢の人が行きかうショッピングモールだ。
知らない人が見たら、きっとカップルの買い物にしか見えないのかもしれない。
自然とそんな想いで郁を見てしまっていた。
そしてその想いに自分で釘をさす。
ダメだ。この想いは笠原には重荷になるに決まっている。
ここは仏頂面になって、鍵の壊れた心の蓋に重石を掛ける。気付かれてはいけない、と。
で、ベンチ上の堂上はいつになく不機嫌そうに座る事になる、のだった。
わあー、今日の教官こわ〜〜〜。そりゃそうよね。隊長の言ったことは全然違かったんだし――
ベンチにドカッと腰を下ろした堂上を見て、郁は途方に暮れる。
そんなにココに来たく無かったのかと思うと悲しくなる。
隊長にハメラレタとは全く思っていない郁は、それを怒るよりも、これからの手の空いた時間をどう過
ごせばいいのか、そっちが重要だった。
「教官。アイスでも食べますか?私買って来ますね」
ちょっと気まずい空気にそう言うと、堂上をベンチに一人残しその場を去る。
堂上は、郁がこの場から居なくなったのを見届けると、改めて一つ溜息をついた。
自分の大人げない態度で、どうやら部下にも気を使わせてしまっている事に顔が曇ってしまう。
そして改めて思った。
それは、職場ではギリギリ保てる郁への想いが、プライベートではどこまで抑えきれるか自信が持て
無いという事。
それが、こうやって態度に出てしまっているという事だ。
好きだと言えないもどかしさ。
なのに、それを封印すら出来ない情けなさ。
いったい自分は幾つだ、と苦る。
郁の消えて行った方をそんな想いで自然に眺めていると、戸惑ったような、はにかんだような郁が、
手にアイスを持ってこちらに来るのが見えた。
プライベートモードに入ってしまっている堂上の心臓がドクンと跳ねる。
好きだと言えなくても、笠原と今を楽しめばいい。
小牧も言っていたじゃないか。たまの息抜きも大事だって。
職場モードじゃない、そんな顔の方がいいって。
掛けて来る郁を見て、肩肘張っていた気持がフッと和らいだ。
「おい!そんなに急いで走るな。誰かにぶつかったらどうする」
案の定、つまづきそうになった郁に、危ない! と駆け寄った。そして抱きしめる。
「大丈夫だったか?」
受け止めた堂上に、郁は驚きながらも、
「はい。アイスは無事です」
と、笑ってみせると
「バカ!アイスの事じゃない」
照れた堂上が、慌てて郁から離れた。
堂上は溜息をつく。
いつも堂上の斜め上を行く、郁の行動を頭で考えてたって仕方がない。
プライベートな自分をヘンに取り繕った所で、それもせん無い事だ。
どう笠原が思うかは分からないが、普段の自分であればいい。
「お前って奴は・・」
そう思ったら急に可笑しくなってきて、ハハハと笑い声が出た。
「教官??」
怪訝そうな郁に、
「ほら、アイス、融けるぞ」
笑顔でそう言って手を差し出した。
fin.
想いの先にたどり着く場所は・・