
その日、同室の郁と柴崎は同じ公休だった。
特に示し合わせた休暇ではないのだが、そうと分かった日に、じゃあ「どこか買い物でも行く?」と話
しがまとまった。
その月のシフトが渡された、前月末。
寮の部屋で郁は何気に翌月のシフト表を眺めていた。
特に予定が有るわけで無いそのシフトの公休日を、それでも手帳に書きこんでいた。
「あら、その日何か用事あるの?」
そう言う声で見上げると、いつの間にか覗きこんでいたのか柴崎が今書きこんだばかりの公休日を
指差した。
「ん?」
指差された先をなぞって、
「この日は特に何も無いけど・・」
郁がそう言うと
「私もその日公休日よ」
柴崎が、一緒だなんて珍しいわよね と言うと微笑んだ。
確かに業務部の規則正しい休みと比べて防衛部の、しかも特殊部隊の公休日ときたらシフト表をも
らうまではどうなっているのかも分からない。
同室の柴崎と出掛けたくても公休日は、まず一致した事は無く、そんな機会はなかなか見つからな
いと言ったありさまだ。
確かに希望を上げておけば一概に却下される事は少なく、今までも一緒の公休を過ごしたことは無
いわけでは無い。
なのでこんな偶然に一致した公休ほど有難い。
「柴崎も休みなの?わあ!じゃあ、何処か行く?」
そう分かった後の郁は、本当に子供がはしゃぐ様で見ていてちょっと痒い。
まあ、それが笠原郁って子なんだからしょうがないか・・と、柴崎はにっこりと微笑みながら
「折角だから、あんたの買い物に付き合ってあげるわよ」
と切り出した。
「私の買い物??」
何か言ってたっけ?と、郁は首を傾げながら応えると
「そうよ」
まあ、任せておきなさい 柴崎は意味ありげに ホッホッホ と笑った。
「何考えてるー」
いつだったか、柴崎の見立てで洋服を買いに出掛け、帰りに堂上達と喫茶店で鉢合わせをした事
を思い出す。
何だか嫌な予感。
「あんた、何か企んでるとか・・?」
柴崎はそれには答えずに
「楽しみね〜」
と言って、美人特有の笑顔でにっこりと微笑んだ。
**
特に何か気にする事無く、普段の服装で簡単に決めると、柴崎からダメ出しが入る。
「いいじゃない。どこ行くって訳じゃないんだから」
反論してみるが、柴崎はワードロープを覗くと、コレとコレと・・と差し出し、郁はアッサリとコーディネ
ートされた。
「あんたね、せめてこれくらい着てなさい」
まあこんなもんね と頷かれると、自分はいったいなんなんだと思ってしまうが、柴崎に限って間違
いは無いので、黙って従っておく。でも・・
「今日もバッチリ任せなさい。可愛く決めて あ・げ・る」
既に何やら考えているようにウインクする柴崎に、あ、うん・・ 郁は少し引き気味になる。
「ねぇ、柴崎。何も企んでないよね。一応、聞いておくけど・・」
「無いわよお。そんなの」
いやに可愛らしくそう言う。
口ではそう言うものの、サプライズはあってもいいわね って何度も言うのが引っ掛かった。
「いらない!サプライズはいいからっ!」
反論だけは取り敢えずしておく。
「折角の二人の公休なんだからね、分かってる?柴崎」
「分かってるわよ。だから私と一緒に歩くんだからそれくらい着てなさいって事よ」
あっさり言ってのけるので、郁はギャフンとなる。
はいはい、どうせ私は・・少々やさぐれていると クックッと笑いながら
「やーねぇ。そんなあんたも可愛いわよ」
と柴崎にウインクされると、それはそれで変な感じで。
「分かったから!行くよ!」
何だか誤魔化されたような、そうでないような、いまいち引っ掛かるような変な居心地のまま寮をあと
にした。
**
柴崎の行きつけのお店を何件か回り、少々気は引ける物もあったが、ほとんど柴崎の見立てのまま
何点かを思い切って購入する。
すると、そこも行きつけだというランジェリーショップに立ち寄った。
柴崎本人のを買うのかと、チラチラと店内を眺めていたら
「次はここよ。どんなのがいい?」
と言われて背中に寒い物が走った。
「ブラ?そんな!いいってば!戦闘職種にそんな可愛いのは要らないから」
引っ張って連れて入らされたお店の中で、自分も女なのに何故か恥ずかしくなって赤くなって俯いて
しまう。
「少しはましなのを選んであげるから。そのウチ必要になったら困るでしょ?」
ウフフと含み笑いのような柴崎を怪訝に思って見ながら
「ひ、必要って・・。ないない!そんなの無いから!」
そう言うと、
「笠原。ちゃんと試着してブラ買ったこと無いでしょ?」
不意に目の前に差し出された物体を反射的に掴んだ。
「ほら!」
ニッコリと促され、
「ダ、ダメだってばー」
と、つい力の加減無く・・
きゃあー と柴崎の声でハッと気付くと
「どおなさいました!」
落ち着いた店内が騒然として、店員が駆け寄って来たので、もう郁としてはバツが悪い。
棚から落ちたランジェリーの数々をペコペコと謝りながら一緒に拾い、倒れたマネキンやらを直す。
「貸し1ね!」
ムッとした柴崎にそう言われ、あとは柴崎のなすがままに。
柴崎のお勧めで決めたセット。
郁が試着室の中で着替えようとしていると、
「すみません、これ着けて帰っていいですか?」
店員に柴崎がそう尋ね、有無も言わされずにそのままさっき買ったばかりの柴崎コーディネートの
服も試着室に投げ入れられる。
「柴崎。ちょ、ちょっとお。折角のなんだから、今着なくたって・・」
そう言いながら柴崎を見ると
「貸し1!」
いたずらっぽく笑う柴崎はそう答えて、
「さっさと着なさーい」
と、楽しそうだ。
「うう・・」
何でこんな・・・
いいんだけど、何だか違う自分が気恥ずかしい。
「折角だから、今日はそのまま楽しみましょ。美女二人いれば最強でしょ」
ふてぶてしい柴崎に辟易しながら、なんだかまんざらでもない気がしてくるから不思議だ。
楽しく会話しながら時を過ごしていると柴崎の携帯が鳴った。
「・・そう。分かったわ」
「誰?」
「友達?かしらね。情報屋のお仕事?かなあ」
あ・・休みの日も大変なんだな と思っていると
「じゃ、疲れたからお茶して行きましょ」
そんな会話のあと柴崎の ここがいいのよ と言うお店に郁は何の疑いもなく行くことになった。
そんなに基地から離れてはいない、こんな場所にこんな雰囲気のいい喫茶店があったんだと思いな
がら店内に入る。
どうやら最近出来たらしいそこは、最近柴崎のお気に入りらしかった。
小ぢんまりとした店内は、それほど人が居ない。
先に柴崎が座り、必然的に郁が入口を背に座る形になる。
頼んだコーヒーが、可愛いカップに入って運ばれてきた。
「ね。可愛いでしょ」
「ほんと」
柴崎は本当にこんなのが似合うなあ と思いながら口に運んだコーヒーがまた美味い。
「どお?あんたも気に入ったでしょ」
「うん。でも私には可愛過ぎだよ」
「あら、そんな事無いわよ。デートの時にでも来たらいいじゃない」
意味ありげに笑う柴崎に
「ないない!」
慌てて手を振って否定。
「柴崎だって分かってるじゃない」
「彼氏が出来たらに決まってるでしょ」
「あ・・」
ケラケラと笑う柴崎を睨みながら残りのコーヒーをグッと飲み干す。
と、その時また柴崎の携帯が鳴った。
どうやら今度はメールらしい。
「なあに?また何かの情報!?」
違う方に考えを巡らせてくれた友人にそれとなく 「ん」 と応え、ちゃっちゃと返信をする。
**
『了解。状況が変わったら連絡ちょうだい。これから帰ります』
柴崎からのメールを受け取って ふぅー と溜息をついているのは寮の共有スペースであるロビーで
人待ちをしている手塚だった。
つづく・・