【2】

温泉に行こう!!

クジ引きの店番を頼まれていたのは その商店街にある金物屋の大学生の息子。
商店街の会長でもある父親に そんなにヒマなら 少しは手伝え そう言われしょうがなく店番だ。
バイト代も出すと言われ 悪くないなと安請け合いをした。

確かに 夏休みに入り 何もする事がない。
かったるいなー と椅子に座って いつ来るでもない客を待っていた。

クジ引きの期間は一週間。
そして今日はクジ引きが始まって 5日目。
特等の『温泉旅館一泊ペアでご招待』は まだ出ていない。

それもそのはずで。

親父から聞かされたのは 最初に特等が出てしまったら くじを引く人がやる気をなくす・・とか。
だから 最初から 特等はクジ引きのガラガラのあの入れ物には入っていない そういう話だった。

今日5日目も 親父からは まだ入れるな と指示をされた。
最終日に特等が当たればいいし もし当たらなかったら それはそれで越したことは無い・・という
ことらしい。
全く 大人の事情はいつもながら汚い そう思う。

当たらなければ その宿泊代やらの金が浮く。
どうせ毎晩のように会合だと称して会の金で飲んでいるのだろうから きっとまたソレに使うのだろう
うと思うと 何の為のクジ引きなのかと 呆れてしまう。
結局自分達の・・


こんなクジ引き クソくらえだ。
ウソ八百だ!
皆は 楽しみに くじを引きに来るのに。

最初は 気にも留めなかった。

それが いつの間にか あまりにも特等狙いで拝まれたり 目の色を変えてガラガラを回す幼い兄弟
姉妹とかを見てしまうと 罪悪感が湧き上がってくる。
何かいけないことをしているような気がして それでも親に逆らえない自分が情けない。

特等の「金色の玉」が入っている引き出しの場所は知っている。
何度そこに手を伸ばそうと思ったか。でも出来ない。やっぱり親には逆らえない。

今日も朝から 何人もの人が 子供達が大人がお年寄りが・・
「まだ特等出てないね 当たるかも」
と期待して それこそ目を輝かしてくじを引いていた姿を 感情を殺して見ていた。




こんなバイトしなきゃ良かった・・

そう思っていた時だ。
二人連れの女性がこちらに向ってくるのが見えた。一人は両手に沢山紙袋を抱えているトコロを見る
と きっとクジ引きなのだろうと察しがつく。
それにしても 一人はあんなに荷物を抱えているのに もう一人が手ぶらなのは面白い。
どういう関係なんだろうと少し興味が湧いたが そこまでだ。

ああ また騙してしまうんだな・・ そう思うと気が重い。
そう。愛想笑いも覚えてしまった。



くじ引きの会場となっているその場所には 特等の目録と 1等から末等までの賞品が並んでいる。
遠めに見て 郁と柴崎はどんな品が並んでいるのかを確認していた。
並んでいる賞品は現物を飾ってあるらしく 既に1等の大型液晶テレビは当選の紙に変わっていた。

「あら まだ特等は出てないみたいよ」
と 柴崎が郁に指で指し示す。
「ホントだあー でも やっぱり無理だってば」
「やってみなきゃ分からないでしょ。頑張んなさい」


バイトの学生は また同じような言葉を聞いた。
まだ出ていない・・ そりゃそうさ。 俺が入れてないんだから。
でも顔は笑いながら
「どうですか。もしかしたら 特等当たるかもしれませんよ」
と 言っていた。

荷物を沢山抱えていた女性が7回分の抽選券を持っていた。
また同じように 特等が当たれと祈りながら引くのだろうと思いながらその券を受け取る。
そして その客は 他の客とは違う事を口にして 大学生は驚いた。

「私そんなにくじ運良くないので・・。えっと、その5等のハーブティーセットってどのくらいの確立で
当たりますか?」
「5等・・!?ですか?」
そんな事を聞いてくる客は今までいなかった。

「それすら当たるか分からないんですけどね」
そう言ってはにかむ様に笑うので 感情を殺した愛想笑いが崩れてしまった。

「5等だったら まだまだ沢山入っていると思いますよ。確立は分かりませんが」
こういう欲の無い人も居るのだと思うと 少しは救われる気がした。
その ホッとした気持ちが顔に表れていたのだろうか・・

それまで二人のやり取りを見ていた連れの女性が 唐突に
「これって 本当に特等入っているのかしら?」
と言う。

その声に その瞳に射られるように 店番の大学生は自分で思っているよりも青ざめてその場に
固まっていた。

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