【3】
温泉に行こう!!
「これって 本当に特等入っているのかしら?」
明らかにそう言う女性の態度は 何かを知っているかのようだ。
いつもの愛想笑いで 何言ってるんですか大丈夫ですよ そう言えばいいのに 射るように見られて
店番の大学生は まさに ヘビに睨まれた蛙。
ゲゲッ!
柴崎って 何処まで情報通なの と郁は驚いて状況を見ている。
図書館以外でも 商店街の事も把握しているとは。
「この商店街って 毎年いわく付きなんですよね。特等が当たった事が無いって」
柴崎はそう言ってニッコリと微笑んでいる。
「えーっ!そうなの!?」
じゃあ そもそも温泉旅館なんて無理じゃないの。特等が当たらないんだったら。そう呟く郁に
あんたってねー そういう問題じゃなくてね・・ と柴崎は苦笑いをする。
「ねえ お兄さん。何で毎年特等が当たらないのかしらね」
穏やに微笑んでいるが 決して目は笑っていない。
答えは・・分かっている。でも 言えない。
嫌な汗が出る。
「ひとつ提案があるんだけど」
微笑みはそのままに 声の調子も穏やかに 柴崎は一歩前に進み出る。
「柴崎 何かそのお兄ちゃん困ってるよ。可哀想だよ」
郁が的外れなことを口にするので
「あんたは黙ってて」
と そこはピシッと強い口調で締める。
店番の大学生に向き直ると 柴崎はしれーとして 言った。
「そのくじの玉が入っているガラガラの中身 見せてくださらない?」
「柴崎 あんた何言って・・そんなこと出来るワケ無いじゃん」
「だからあんたは黙ってて!」
なんでこんな事になっているのだろうと 郁はその場でオドオドするばかりだ。
「見せるくらい簡単でしょ。中にちゃんと入ってたら私がヘンな噂を晴らしてあげるし 入って無かっ
たら・・」
「・・無かったら?」
店番の学生が思わず聞くと
「さあ どうしましょう」
と 柴崎は 今以上にニッコリと微笑んだ。
「僕は・・ただの店番ですから・・バイトですし・・」
柴崎の笑顔にドギマギしながらそれだけ言うと 突然
「すいません!」
と叫ぶように頭を下げた。
驚いたのは郁の方で どうしたの? と覗き込むように見ている。
「すいません!すいません!すいません!」
店番の彼は泣いているようで 何を言っても謝るばかりだ。
「柴崎ー」
郁にも泣きつかれ
「笠原ったら。仕方ないわね・・」
と言うと
「あなたを泣かせようとした訳じゃないのよ。ごめんなさい」
と店番の学生に向って頭を下げた。
今度は驚いたのは学生の方で・・。とっさに
「謝らないで下さい。悪いのはこっちなんですから」
と。
言質取った!柴崎はまたニッコリと微笑んで ひとこと。
「へえー。悪いんだ」
店番の大学生が固まってしまったのは言うまでも無い。