仕事をこなしている時は それでも気が紛れて大丈夫だった。
しかし 電車で移動中とか 歩きながらとか 考えないようにしているのにそればかりが頭を支配する。

朝 いつもより早く目覚めた・・と言っても 寝れなかったといった方が正しい・・堂上は
玄田に連絡を入れて 郁の事を願い出た。
玄田と話ながらも 胸が張り裂けそうだ。
まさか自分から 郁の事を手放すことになるとは思いもしなかった。
こんな日が来るとは・・

「本当にいいんだな?」
玄田に言われ
「はい。お願いします」
一呼吸間を置いて 力強くそう言い放つ。

これでいい・・ これでいいんだ・・

そこで玄田から 配慮があったのだ。
今日1日 都内の図書館へ所用で出掛けるようにと・・
ありがたかった。何よりも ありがたかった。



自分で納得して決断したのに それでも 郁の事が頭から離れない。

俺もいよいよ女々しい奴だな・・

そうだな・・こうなったら いっそお見合いでもしてしまおうか。
お袋も心配していたしな。
身を固めれば 無茶しなくなるだろうって いつも実家に行けば言われていた。
いい機会かもしれない。
そう 思った。

小牧がなんと言うかな・・
何で相談しなかった と 責められるだろうな。

いくら俺が想ったところで あいつは俺を許さないんだから しょうが無い・・
あいつを傷つけた。
身体の傷なら自然と治るが 心の傷はそう易々とは治らない。
俺は 取り返しの付かない事を 言ってしまったんだから・・

自分自身を責めても もうどうにもならない。

俺は バカだ・・


お昼休みをめがけて 伯母に電話を入れる。
「この間の見合いの件だけど。進めてもらって構わない。但し 日にちはこちらで決めさせてもらう。
公休が取れたら また連絡する」
それだけ言うと さっさと電話を切った。
余計な事を言われるのは 今はキツイ。



午後からの仕事もそつなくこなし 帰路に着く。
基地に近づくにつれ 心が重くなるのが分かった。
今一番 行きたくない場所だった。

「ただ今戻りました」
事務室に入ると 真っ先に小牧が声を掛けてきた。
「堂上 こっち」
合図されて 廊下へ出ると
「お前 何考えてるんだよ。笠原さん違う班に入れろだとか」
「ああ その事か・・」
きっと言われるだろうと思って覚悟していたことだから動揺はしない。
「いい加減素直になれって言ったろ!」
小牧が怒ってくれるのは友人として 本当に有り難いと思う。

「小牧 怒られついでに もう一つ言っとくが 俺 今度見合いすることにした・・」
「な、何だって!?正気か?」
なんてこった そんな表情で どうしたもんだか・・と小牧は首を振る。
「そろそろ 身を固めてもいい歳かとも思うしな」
今の堂上は どうみても投げやりにしか見えない。
「お前 真面目に言ってるのか!俺は本気で怒るぞ」
小牧は 堂上の胸ぐらを掴みながらそう言い放った。

その手を離しながら 堂上は
「今日は疲れたんだ。今日の報告をして上がりたいんだが いいかな」
と言う。
「堂上!」
どうしても小牧は納得がいかない。

「小牧 正直俺はどうしたらいいのか分からない。すまない。今は・・一人にさせてくれ」
「俺はおまえが何を言っているかわからないよ。見合いも断ると言ってたはずだろ」
「いいんだ。これでいいんだよっ!」
あとは何も聞かない・・そんな態度で 
「これが 俺だ」
と 小牧を見る。

小牧は この困った友人をどうしたもんかとタメ息をつくと
「夜中の件は 笠原さんに聞いたよ。 彼女 お前の見合いの話知らなかったから あんな態度だっ
たんだよ。もう一回笠原さんの話聞いてやってくれないか?」
そう進言する。
「あいつは・・ 俺とはもう口も利きたくないと そう言ったんだ。今更 話も無いだろう」
バカだね おまえ。
「その笠原さんが お前に話しがあるって言ってるんだよ。聞いてやれよ」
「最後のトドメは聞きたくない。もう勘弁してくれ」
今の堂上に 何を言ってもダメか・・ どこまでこいつは頑ななんだ。小牧は舌打ちをする。


堂上は 玄田に出張の報告を済ますと 疲れたのでと さっさと帰寮した。

郁が 事務室に戻って来たのは 堂上が既に帰った後だった。
個人の予定の堂上のところが 帰寮 になっているのを見る。

もしかして 私と顔を合わせるのも嫌なのかな。避けられてるのかな・・
本当に明日から 菅原班として行動しなきゃいけないの・・?

力なく椅子に座り 日報を書こうとするが なかなか筆が進まない。
その様子を見ていた小牧が声を掛ける。
「笠原さん ちょっといいかな」
小牧はもう これは笠原さんに賭けるしかないと思っていた。
どういうふうに転ぼうが 二人の問題なんだし。


ここじゃなんだからと 空いている会議室に行く。
小牧はオブラートに包むことなく 率直に郁に話を始めた。
聞きながら 郁は心臓が波打つのが分かる。
このままだと堂上教官は 本当に遠くに行っちゃう。




寮に戻った郁は 座りこんで動けなかった。
でも・・早くしないと本当に取り返しがつかなくなっちゃう。

「あそこまで頑なな堂上の心を開けるのは もう笠原さんしかいないんだよ」
小牧のその言葉に後押しされるかのように 郁は堂上に電話を入れる。
堂上は 電話にも出てくれないのかもしれない。
出てくれることを祈りながら コール音を聞いていると コール音が消えた。

無言だが 堂上は出てくれた・・
「笠原です。切らないで!お願いだから 切らないでください。教官 私 菅原班になんて行きたくな
いです。ずっと堂上班じゃダメなんですか・・」
言いながら 涙声になってくる。
「私 自分のことばっかりで 教官の事全然分かってなくて・・ だから 酷いのは私なんです。口も
利きたくないだなんて ウソだから・・」

堂上は 郁の電話を取りながら こいつは何を言っているんだろう・・としか思えなかった。
心には 既に緩むことない蓋をしてしまっていた。
郁の涙ながらの訴えも 今の堂上には何も響かない。

「教官・・ もう私と話すのも嫌なんですか・・」
「もういいから 俺に無理に合わせることはない。お前なら どの班でもやっていける」
堂上はそれだけ言うと 電話を切ってしまった。
「きょ、教官!?」
なんで・・なんでそうなるの・・

電話じゃダメだ。
会って直接訴えないと・・
それから数回電話をするが 何度コールしても もう堂上が出ることは無かった。



俺がもうこれしかないと決めたのに どうして決めた後から笠原は俺を惑わすような事を言ってくる
んだ。
あれほど 俺を拒否していたのはあいつじゃないか。
もう 気持ちに蓋をしたんだ。
頼むから もう ほっといてくれ!!
電話を切ると 電源まで落とす。

何だか 身体がだるい。
色々と神経も使ったし 人混みの中で 疲れたのか・・
布団の上に横になると そのまま意識がブラックアウトした。



郁は堂上へ電話した後に 勢いで小牧に電話を入れる。
「どうしたの?泣いてる?」
優しい小牧の声に 今さっきの堂上との会話を思い出し涙が止まらない。
「堂上教官 もう私と話したくないみたいで・・ 切られてしまったら もうそれっきり電話も通じない
です・・」
「笠原さんは どうしたい?まだ堂上とはちゃんと話しが出来て無いんでしょ」
「はい」
と 答えると
明日 隊長にも入ってもらって 話し合いをしよう という事になった。

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捻じれた気持ち

【3】