翌日。

郁は特殊部隊の事務所に いつもより早目に出勤した。
何なく居ても立っても居られなくて・・。
起きてから柴崎にも 落ち着きが無い と苦情を言われた。

そう言えば 堂上教官は いつもだったら誰よりも先に来ている筈なのにな・・
教官より先に来ちゃったのかなぁ・・
最初はそんな風にしか思わなかったのだが 多くの隊員が出社してくるのに 肝心の堂上がいつに
なっても現われないので 何かが変だと思った。

何かが・・変だ どうしたんだろう・・

小牧も 玄田も 異変に気付いていた。

無断欠勤などした事の無い男だ。
女性関係で揉めたからと 休む奴では無いのは よく知ったところだ。
しかし堂上から 連絡も無い。

小牧は 昨日の堂上の様子を思い返していた。
そう言えば・・ 思い当たる節がある。
都内に出張くらいで「疲れた」と言うような柔な男では無い筈なのに 昨日の堂上はかなり疲れきっ
ていた。
その時は 笠原さんと揉めてるから とくらいにしか思わなかったけど・・ 
もしや・・ 不安が脳裏を過ぎる。

「隊長!堂上のやつ きっと具合が悪くて起きられないくらいなんだと思われますが・・」
小牧の進言で 
「多分な・・」
玄田も 頷く。

「小牧 ちょっくら行って様子を見て来い」
玄田がそう指示を出した時 事務室の電話が鳴る。
ナンバーディスプレイに 堂上篤 と表示されている。
堂上の携帯からだ。
玄田が顎で小牧に取れと指図する。

受話器を取るなり 
「どうした?具合悪いか?」
そう 小牧は聞くと 向こうから声が返って来ない。 
ハァ… ハァ… と言う苦しそうな喘ぎ声が洩れる。
「す、すまん。連絡が遅れた・・・」
声にも張りが無い。苦しそうだ。
「分かった。もうしゃべるな。これから行くから」
小牧はそう言って電話を切ろうとすると
「だ、大丈夫だ・・」
とても大丈夫では無い声がする。

どうやら胸が苦しいらしく 息がしずらいようだ。
無茶をするなと 語気を強めに言って これから行く事を伝える。

玄田に状況を伝え とりあえず今日も郁を堂上班の一員として行動するよう配慮してもらうと
小牧は 独身寮に向った。




上官二人の居ない手塚と郁は 事務仕事と図書館業務の補佐に回される。
寮を出るときに
「これから病院に連れて行きます」
と 小牧から連絡があったきり 何も無かったかのように時間が過ぎている。
気になるが どちらとも口に出せずに 黙々と業務をこなしていた。

小牧から連絡が来たのが もう直ぐお昼になろうとする頃だった。
郁が電話を取ると
「笠原さん!?ゴメンゴメン」
申し訳無さそうに小牧は 病院がかなり混んでいて・・ と言う。
「で・・堂上教官は・・!?」
「ああ。大丈夫。ただ・・肺炎をおこしかけていてね。今 点滴を打ってもらっているんだ」
「肺炎!! 大丈夫なんですか!?」
「ここの所 あいつゆっくり寝てなかったみたいなんだよね。すぐ無茶するから」
今点滴打ちながらよく寝むってるよ 小牧の落ち着いた声に 少し安堵する。

「笠原さん ゴメンね」
小牧の声の調子が変わる。
「今日 話し合いしようって言ってたのに・・ これじゃ 今日は無理だな」
「あ・・いいです。私は大丈夫ですから」
小牧の優しさが嬉しかった。


どうも これをやろうとする事が 後手後手になるような気がするのは気のせいだろうか。
本当に 歯車が噛み合おうとしてくれない。
悪い時には どうしてこう 悪い方へしか行かないんだろう。
小牧は 歯がゆくてしょうが無い思いでいっぱいになる。

「あいつ誰かが付いていないと 目が覚めたら起きて帰りそうだからさ。笠原さん 俺の変わりに付
き添ってくれないかな」
電話の向こうの小牧が言う。
「で・・でも・・」
「これは上官命令だよ。直ぐ来てね」
命令と言われると 逆らえない自分がどうにもならない。

郁は 玄田に小牧の電話の内容を伝えると 病院へ向った。 




堂上は ここの所ろくに眠っていなかったせいか 点滴を打ち始めたら 直ぐに眠りに落ちた。

元気のいい笑い声が聞こえる。
笠原だと 直ぐに分かった。
でも 姿が無い。
声がこんなにも近くで聞こえるのに 姿を確認出来ない。
何でだ!? 声を出そうとしているのに 声が出ない。
笠原 俺はここに居る。 伝えたいのに 声が出ない。
深呼吸をして もう一度名前を叫んでみる。

「笠原っ!」
本当の声が出たとたん 目が覚めた。
「教官!」
呼ばれて横を向くと 今部屋に入って来たばかりの郁が 驚いたような顔をして自分を見ている。

俺は 夢を見ていたのか・・ そして これも夢か・・?

そう思いながら 虚ろに郁に目をやる。
ベッドに駆け寄って来た郁が そんな堂上を見て 汗がビッショリなのに気がつく。
「夢・・見てたんですね」
「・・」
堂上は答えに詰ってしまう。そうだと言えば 郁の夢を見ていたことを認めることになるからだ。
そして今度はこれは夢ではなくて 本物の郁が傍に居るのだと理解した。
そして虚ろな目のまま じっと郁を見ていた。
郁もまた そんな堂上を無言のまま見つめていた。

↑top
←back
→next

捻じれた気持ち

【4】