【3】

夏の野外訓練

「これは 一応 訓練だからな」

とりあえず 笠原にもそう言ったが 今 手にしているプリントは何度読み返してみても
『海水浴リクリエーションへのお誘い』 にしか思えない。
堂上は眉間にシワを寄せて その『通達』を眺める。

新書の出版や 不穏な動きも なりを潜めており 検閲も抗争もここの所落ち着いている。
束の間の休息と言えば聞こえは良いが 良化隊の方もバカンスでも楽しもうとしているのか。
そう思えるほど 何事も無い日々が続いている。
だから こんな意見も出てくるんだろう。

そう言えば 海水浴など ここ何年行った記憶が無い。
何処に居ても 呼び出しがあれば直ぐに駆けつけなければいけない職種だ。
そう遠方に遊びに出かけるなど ほとんど無しに等しかった。

何気に 何度もその『通達』を読んでしまう。
そして 最後の米印に どうしても目がいって 苦笑いをする。

 ※・・・・・ 彼女居ない者も夏の思い出を作ろう!

夏の思い出か・・ 作れるだろうか・・

何年ぶりかの海水浴。
気になっている女性が傍に居る。
俺は その時どうしているのか。
水着姿のあいつを見て 俺は・・

堂上は寮の自室でひとりビールを煽りながら その文面を何度も何度も読み返す。

そこへ いつものように小牧がビールやらツマミやらを持ってやって来た。
「堂上 入るよ。いい?」
いい? と聞きながらも こっちが返事する前に既に入り込んでいる。
まあ これもいつものことだ。

小牧がやって来た理由が分かるだけに 自分からは切り出したくないな と思っていたら案の定
「今日の笠原さん面白かったね」
ビールのプルタブを開けながら 思い出して笑っている。
「ああ」
相槌を打ちながら 思う。

あいつ・・笠原にはいつもヒヤヒヤさせられる。
何を言い出すか まったくもって見当がつかない。

「水着になる自信がない ってね・・」
まさかあそこで アレが来るとは思ってなかったよね と小牧は更に上戸が止まらない。
「でも そんなトコもひっくるめて 全部可愛い部下だよね 堂上」
からかいに来ているなと思うので ここは平静を装って無視することにする。

このやっかいな友人には どうやら俺の気持ちがバレているようだった。
何かの時に言ったのかもしれないが・・酒の席にか・・ それともただ勘がいいだけなのか・・

「ホントお前って 隠せないよね」
「何をだ!?」
「笠原さんを見る目が違う。愛おしいって目で見てる」

そう言われた事があった。
どんな時も 意識して気持ちをころしてきたつもりだった。
それでもこの友人には 全てお見通しなんだな。

「堂上?」
「あ!?なんだ」
「笠原さんはああ言ってたけど 水着姿なんか見せたら 言い寄ってくる輩は沢山居るだろうと思ってさ」
悪戯っぽく小牧が笑っている。
「あいつの恋愛沙汰に 上官だからと言って 俺が口を挿む事は出来ないからな」
内心動揺しつつ 口から出た言葉はこれだった。
「へぇー いいんだ。誰かに持って行かれても」
こいつ 俺をどうしたい。 
俺は何も言わずに 手にしたビールを一気に飲み干していた。
それを見て 小牧はニヤリと笑っていたが 俺には気にしている余裕は無かった。

誰かが 笠原を!?
渡せない。誰にも・・ しかし・・

いいように小牧に煽られ ビールを何本も空けたが 不思議と酔った気はしなかった。

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